ダンジョンの入り口
パール脱出の翌日。冒険者四人はいよいよダンジョンに向かう。
案内人に宦官をという要請はあっさり断られ、それもいつものことだと諦観の心で扉の前に立つ。
これから西の門と呼ばれる場所から後宮内に入る。
「体が重いわ、まったくこんな短期にダンジョン消滅を立て続けなんて初めてだわ」
バジリコの不平はそこに尽きる。ダンジョン消滅はきつい仕事なのだからしっかり休息をがモットーだ。
「あのね、あんたぐらいよ、老後を考える冒険者なんて、老後を迎える冒険者なんて今までめったにいないっていうのに」
ミントはそんなバジリコを鼻で笑う。
「目指してもたどり着けないからこそ慎重に進むのよ、それがどこが悪いの」
「冒険者なんて太く短くよ、この美貌が年老いるまで生きる気はないわ」
「美貌? その程度で」
今度はバジリコが鼻で笑った。
はっきり言って面談した側室たちは極めつけの美女美少女ぞろい、ミントも普通よりは可愛いポジションだが、はっきり言ってレベルが違う。
「何が言いたいのよ、だいたいあんた人のこと言える顔?」
いきり立つミント、それをジャスミンが無造作に二人まとめてどつき倒した。
「いい加減にして」
ジャスミンは軽く頭痛を覚えた。
物事の考え方が違う、それはまあいいが、仕事中でもこの二人はそのことで隙があれば言い争ってしまう。
普通はこの二人を同じチームにいれることはめったにないのだが、女性限定で失敗は許されない仕事となるとこの二人を欠かすことができない。
ジャスミンは寝不足だった。
王宮の客間なんて場所に足を踏み入れたのは生まれて初めてだったが、はっきり言って生きた心地がしなかった。
小さな備品一つがジャスミンの全財産より高価だ、ちょっとでも壊したら最後、報酬抜きで借金を背負う羽目になったらどうしようかと。
冒険者になる人間はほとんどがそうだが、裕福な生活というものをしたことがない。
そして寝台は柔らかくどこまでも柔らかく。どんどん身体が沈み込んでいって、ジャスミンは底なし沼に沈む夢にうなされた。
実際寝返りを打つこともままならず、野宿したよりも体は疲れてしまった。
そんなジャスミンの気持ちをジンジャーだけはわかってくれるようだ。おそらくジンジャーも似たり寄ったりな夜を過ごしたのだろう。
扉をくぐれば、ダンジョン特有の空気。
末端部はそれほど進んでいない。そして後宮の外にも浸食は始まっていないのが不幸中の幸いというものだろう。
「植物も生えてるけど、不思議ね」
ダンジョン以外では一度も見たことのない奇妙な六角形の葉っぱをバジリコは軽くむしる。
バジリコが不思議と思ったのは日照量がほとんどないダンジョン内でどうして植物が生えるのかということだ。
光合成していないにしては普通の葉っぱと同じようなのがとても不思議だった。
「最初はワーム状生物が発生するんだけど、ダンジョン化が進むと生物相も多様になるんだけど、さすがにこんな端っこじゃそれは確認できないわね」
ミントがさすがに仕事を思い出し周囲の植生の観察を始めた。
ジャラジャラと宝石のついた首飾りを幾重にも巻いているのは決して洒落っ気故ではなく。周辺の異常を探るための呪物なのだが。それをどう使うのかは呪術師ではない他のメンバーは知らない。
魔導士であるバジリコは薄い水晶の板に呪術文字を彫り込んだものをまとめて持っている。
二人を挟むように先頭にジンジャー、後方にジャスミンという布陣で四人は進んだ。