生還者
結局聞いた話はさして変わり映えのないダンジョン化の場に居合わせて生き延びた運がいいのか悪いのかな人達とそう変わらなかった。
そして、下級妃のほとんどが、自分たちの上の妃たちの居住区には近づいたこともないという話だった。
なんでもこの国では正妃は他国の貴族か王族、そして、側室はこの国の貴族の娘という決まりがあるという。
正妃の生んだ王子が成人するまで正妃の母国と友好状態が続けばいいが、政治というのは結構動く、関係が悪くなったり不都合が生じたりする場合は側室の生んだ子供が即位する。
むろん上級妃の生んだ子供であり、下級の妃の生んだ子供は女の子なら政略結婚の駒、男なら即僧院送り、下級妃は上級妃に押されてまずお呼びがかからないので一芸を磨きそれによって帝王に媚びるとか。
それでも救いはあって、三年いればあとは自由に出て行けるそうだ。多少董が立っていてもそれほど嫁入りに困らないらしい。それくらいの救済がないとやっていけないだろう。
そうバジリコは思った。
「ええ」
なんとも面妖な声をジャスミンが出した。
「どうかしたの?」
ジンジャーがジャスミンのそばに行く。
後宮から一人の女が出てきた。
「嘘、生存者?」
その言葉に残る二人も飛び出していった。
「まさか自力で出てくるとは」
魔導士のバジリコと呪術師のミントが保護し、ジャスミンがその辺の兵隊を捕まえて、生存者発見の報告をした。
バジリコがその女のそばに来た時にはすでに膝をつきそのまま崩れ落ちたところだった。
「大丈夫ですか?」
そう問いかけたが明らかに大丈夫じゃない状態だ。
髪は血糊で固まり元の色が何色であるかもわからなくなっていた。
多分美人であろう顔も同様だ。
全身血まみれ、それでも何とか歩けたのだから、おそらくそのかぶった血糊は一人分ではないのだろう。そうでなければとっくに失血死している。
「水持ってきて」
とにかく血を洗い流さなければ。自分の血でもやばいが、他人の血をかぶっているなら感染症の恐れがある。
この世界には存在しない概念だが、とにかく彼女には全身洗浄が必要だ。
「ごめんなさい、許しなしに出てきてはならなかったのに」
思ったよりはっきりとした言葉が女から出てきた。
「名前言える?」
顔を拭いてやろうとしたが、すでに血が乾いているのでさして奇麗にならない。
「パール……」
それだけを絞り出すように呟いた。
「結構いいもんつけてるわね」
女の手を取っていたミントが女の腕についている腕輪を鑑定していた。
「保護の呪が埋め込まれているね、それもかなり高度な」
魔導士であるバジリコにもその波動が感じ取れた。この術を施したのは相当な実力者であろう。
「なるほど」
「この人、最低でも中級妃だよ、媒体となる宝石はちょっとした一財産だもん」
手首に太い腕輪がはまっている。汚れているがかなり大きな宝石が埋め込まれているのが見えた。