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哀れな妃

 その後宮の外観はもともとは壮麗な建物だったんじゃないかなという痕跡を残したままダンジョン化していた。

 色の違う石を模様になるように組み合わせた壁、どれほど手間がかかったか考えたくない壁が巨大な建物すべてに使われている。

 それがまるで心臓のように脈動していた。

 本来は石なのに滑らかに。

 聞いた部屋の配置は奥のほうの上級妃、国の大幹部というべき重鎮の親戚の姫君の住む場所。当然ちょっとしたお屋敷ぐらいの敷地面積だ。

 それが複数。

 そしてその外側を囲んで中級妃、中堅どころの貴族の姫君、これも庶民の家よりだいぶ広いが二十ほど、下級妃は一部屋だが、それでも百人ほどいたらしい。

 確かにダンジョン化する可能性のある敷地面積だ。

 逃げることができたのはほとんどが下級妃と使用人をしていた女たちだけだった。

 もともと出入り口に近い場所に住んでいたのが幸いしたのだ。

 そして、その内部は奥行くにしたがって複雑になり、いろいろとダミーの道なんかもあるという。ダンジョン化しやすい迷いやすい場所だ。

 モザイク状態の壁がうねうねとうごめいている。

 このまま放置すれば後宮だけでなく王宮まで飲み込む可能性もある。

 あれは生き物のように成長するのだ。

 ギルマスへ依頼があったのはダンジョンが発生してから一週間後だったそうだ。

 その間ずっと何をしていたのかというと会議をしていたらしい。

 つまり騎士団を向かわせていいのか、それで、後宮の男子禁制男子は宦官になって入れの規則を守るべきか守らざるべきかで一週間言い争っていたらしい。

 御姫様の怨霊に祟られてしまえばいい。

 バジリコは心から後宮内にいたお姫様方に同情した。

「バジリコ、何辛気臭い顔してんの?」

 ミントがバジリコの顔を覗き込む。

 よりによってこいつとパーティを組む羽目になるとは。

 バジリコとミントは基本的に馬が合わない。バジリコは細く長くをモットーにしているが、ミントは太く短く生きることをモットーにしている節がある。

 それだけならお互い関係ないと言えばないのだが。ことあるごとにミントはバジリコに絡んでくる。

 うざい。

「あのね、これから生き残ったお姫様と面談なの、余計な口を利かないでね」

 ジンジャーがミントにくぎを刺す。

 ミントが言わなくていいことをぺらぺらと喋るたちなのはみんな知っている。

 生き残った女たちはほとんどが錯乱状態でかろうじて口を利けるのはほんの数人だという。

 思ったより生き残っている。

 そこにいたのは薄茶の髪を背中に流した美少女だった。

 手足に包帯を巻かれ、ゆったりとした椅子に座ったまま放心していた。

「シトリン、話せますか」

 メイドらしい女性が椅子の傍らで何とか正気付かせようとしている。

 閉じていた眼を開くと紙より薄い薄茶の瞳が見えた。

「何がありましたか?」

「床がうごめいて、床から何か変なものが、訳が分からなくて、そのうちジャスパーがバラバラになって、手が私のほうに」

 そこまで話すとその可愛らしい顔をゆがめて悲鳴を上げ始めた。

 その小さな体によくそれだけの声量がというほどの悲鳴を。

 メイドらしい女性が何やら小瓶をもってシトリンという少女の口に近づけた。

 シトリンがぐったりするとメイドは、ほかの部屋に行きますか。と尋ねた。


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