異常事態
後宮の扉は東を除いて西と南と北にそれぞれある。
後宮の扉には鍵がかかっていない。それはこの国の後宮には掟があり、後宮に一度はいればそれで王の側室になったことになる。そしていかなる理由であったとしても後宮の扉から出れば側室を辞することになる。
それはあくまで側室たちの自由意思で決めるという建前のためだ。
むろん昼夜を問わず扉の前には衛兵が立ち、出入りは厳しく見張られている。
扉が開くことはない。扉が開く前に宦官が差配をすると決まっていた。
ところが乱暴に扉が押し開けられると狂騒状態の女たちが雪崩を打って飛び出してきたのだ。
「助けて」
「化け物が」
「死んだ、殺された」
そんなことを叫びながら飛び出してくる。
「いったい何があった?」
飛び出してきた女の一人を抑えて問いただす。
「いや、化け物が、化け物が」
完全に錯乱している。
やむを得ず逃げてくる女たちを押しのけて扉の向こうを覗き見る。
血まみれの女が数人倒れている。そしてその女のうち一人が何やらツタのように巻き疲れ引きずられていく。
笛のような悲鳴を上げてその女は引きずられその果てに衛兵たちの目の前で八つ裂きになった。
衛兵たちは手分けして倒れている女たちのうち手近にいた女を引っ張って脱出した。
何が起きたのかわからないが、ただならぬ状況なのはわかる。
緊急呼び出しの笛を吹くもの、慌てふためいて逃げるもの様々な行動をとる。
そして応援の兵たちが現れ逃げてきた女たちを保護するもの、そして後宮の扉の奥を覗き見たが、それ以上進むのを断念した。
兵たちは後宮に扉の近く以上踏み込むことを許されていない。
そして、危険な生き物が後宮を占拠したらしいということは今現状数少ないわかっていることだが、それに対する装備を彼らは持っていなかった。