ひとりぼっちの子猫
車にはねられ亡くなった子猫と、その側を離れようとしなかった子猫の話を人づてに聞きました。
悲しい話だったので、かたちに残そうと急遽創作した短編です。
とある野良猫が子猫を生んだ。
若緑色の葉っぱがまぶしい5月のことである。
一匹は出産後すぐ、まだ目も見えぬうちに亡くなり、三匹が母猫の愛情を受けてすくすくと育っていった。
末っ子のような白黒の猫はいつも母猫にべったりで、いつも一緒に行動している。
他の二匹は兄がキジトラで、妹がメスには珍しい茶トラである。
この二匹はいつも一緒に遊んでいて、ともに虫を捕まえたり、前足でポカポカと叩き合ったり。そしてお腹がすいていつものところに戻ると、そこには母猫と白黒がいて、キジトラが真っ先に母猫のおっぱいをまさぐる。母猫は三匹の毛づくろいなどしながら子猫たちの要求に応えている。そしてお腹いっぱいになると、子猫たちは互いに寄り添って眠る。
梅雨のはしりのような小雨が降り続くある日、活発なキジトラはバッタを見つけ、追いかけていくうちに見知らぬ町角に出てきた。茶トラも一緒である。
激しい轟音とともに行き交う自動車。傘をさして雨音を立てながらせわしなく通り過ぎていく人々。
「あ、猫だ」
ランドセルを背負った小学生が、キジトラを見つけた。
二匹には何もかもわからない。何かが向かってくるが、それが何かもわからない。
小学生が近寄ってくると、キジトラが警戒心をむき出しに「シャー」と威嚇した。茶トラはキジトラの後ろできょとんとしている。
小学生は見つめていた目線を外し、ちょっと後ろに下がってしゃがんだ。
キジトラは威嚇をやめてその何かを注視している。
やがて、何かに気づいた小学生は立ち去った。
キジトラは安心してその場に伏せた。茶トラも同じだ。
しばらく何をするでもなく、その場にいた二匹のところに小学生が戻ってきた。そして近くにあったコンビニで買ったパンをちぎって二匹の前の差し出した。
パンは雨水を吸ってまたたくまにふやけていった。二匹はその様子を眺めるだけで食べようとはしない。もちろん、それが食べ物であることも知らない。
小学生はしばらくの間、何とか食べさせようといろんなジェスチャーをしたが、二匹が何も反応しないので、やがて飽きて帰っていった。
二匹もまた、母猫のところに戻った。
しかし、その日、その場所に母猫と白黒の姿はなかった。
いくつかの場所を探したが、どこにもいなかった。
はじめの場所に戻って、二匹は寄り添って眠った。
翌日は雨もあがり曇り空だった。
虫を追いかけていった茶トラの上から、カラスが襲い掛かってきた。
茶トラは「シャー、シャー」と盛んに威嚇するが、カラスはその鋭い嘴でつついてくる。
キジトラがそれに気づいて、体をカラスにぶつけて追い払らおうとした。二匹の抵抗にあってカラスはやっとあきらめたかのように飛び去った。
その夜も母猫の姿を見つけられず、二匹は寄り添って眠った。
翌日もまた、雨だった。
母猫の姿を探すも、どこにも見当たらなかった。
雨水をすすり、虫を食べて、二匹はいくつかの場所を転々とした。
そして、またあの騒々しい町角に出てきた。
ときおり、雨水を振り払うように身震いしながら歩いていたが、茶トラがうずくまり、キジトラも寄り添うように伏せた。
二匹の子猫がいることを車のドライバーたちは見えていたので徐行して避けていたが、そんなノロノロ運転を嫌ったずっと後ろにいた車が、前の車を右から急加速で追い越し、左側に戻ろうとした時、角度が急すぎて、キジトラをはねた。その衝撃はドライバーにも伝わっていたが、「石でもはねたんだろう」と全く気にしなかった。
キジトラは、動かなくなった。
そばで茶トラが「にやぁにやぁ」と鳴いていた。
どんなに鳴いても、なめても、叩いても、二度とキジトラは動かなかった。
激しい雨が、一匹と一匹の亡骸を打ち据えていた。
その夜は雨も上がり月がこうこうと輝いていた。
茶トラはいつもの場所に戻って「にやぁにやぁ」と鳴き続けた。
しかしどんなに鳴いても、母猫も、白黒もキジトラもいない。
一匹だけがその場所に佇んでいる。
水たまりの水をすすり、やがて茶トラは眠りについた。
その寝顔は、母猫や白黒やキジトラがいて楽しかった頃の夢でも見ているかのようであった。
了
急遽創作して、推敲もせぬままアップしました。
稚拙な文章ですみません。
人づてに聞いた子猫のその後は、私も知りません。
元気に生きていてくれたらいいなと願うばかりです。
2020.5.23追記
この物語の続きを書くか書かないか迷っていましたが、完結とします。
読んでくださった皆様ありがとうございました。