3話 早朝のランニング
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王都に着いた。
流石に飛んだまま王都の中に入るのはまずいと思ったので、関門から少し離れた場所に着地し、そこからは徒歩で移動した。
都市の規模はフレイパーラよりも少し大きいが、そこまで差は無いように思える。
街の雰囲気はフレイパーラに比べて冒険者が少ないようだ。
煉瓦と石造りの家が多く立ち並んでいる。
街中には水路が流れていて、とても華やかだ。
「まさか本当に一日で着いちゃうとはね……。でも身体がしんどいわ」
ラルが身体を伸ばしながら言った。
「まぁラルはずっと俺の背中に乗っていたしな。同じ体勢が続くのは中々しんどいもんだ」
「ええ、だけど移動時間はかなり短縮できたわ。ありがとう、リヴェル」
「どういたしまして。今日はゆっくり休むといいさ」
「そうさせてもらうわ……。それとリヴェルは宿泊先とか決まってないわよね?」
「ああ、もちろんだ。……もしかして、用意してくれたりするのか?」
「王都まで運んでくれたお礼にね。商会の建物に空き部屋がいくつかあるから、そこを使うといいわ」
「助かる! ……しかし、こういう会話を以前もしたな。たしかウェミニアのときだっけか」
ウェミニアはクルトの親が領主を務めている都市だ。
クルトとラルが仲間になったのもウェミニアで俺の中では思い出深い都市の一つである。
「確かにあったわね~。懐かしいな~」
「商会、いくつも持っているんだな……」
「ふふ、まあね」
ラルの商会に行き、指定された倉庫で《アイテムボックス》に入れていた荷物を取り出した。
その後はラルと共に夕食を済ませた。
今日1日色々な話をしたが、話題が尽きることは無かった。
それだけ2年間という時間の中で色々な出来事が起こっていたのだ。
***
夜はいつもと同じように自主鍛錬に励んだあと、1時間だけ睡眠を取る。
そして早朝に目を覚まし、ランニングを行う。
場所を選ばずにどこでも出来るので、2年間この日課を欠かしたことは一度も無かった。
王都の地形を把握するためにもランニングは大いに役立つ。
その気になれば、スキルを使って一瞬で把握することも可能だが、それよりも俺は自分の目で見て、この場所の空気を肌で感じる方が好きだ。
「あれが英傑学園か」
広大な敷地を取り囲む大きな壁。
あの壁の向こうが英傑学園というわけか。
入り口は色々と様々な箇所に設けられているみたいだ。
「しかし、もう入学試験が終わっているとはなぁ。みんな元気にしてるかな」
俺がフレイパーラを旅立つとき、仲間たちはみんな英傑学園に入学するような意思を示していた。
ラルの話を聞けば、みんなはちゃんと入学試験を受験しているらしく、今は結果待ちみたいだ。
だからみんな王都にいるらしいのだけど……こう、都合よく会える訳もないよな。
「──えっ」
背後から驚いたような声がした。
振り返ると、そこには白髪で頭部からウサミミを生やした可憐な少女が立ち尽くしていた。表情は、まさに驚愕といった感じだ。
少女は目を見開き、大きく開けた口を震えた右手で隠した。
いやいや、俺も驚いた。
まさかこんな形で再会することになるとは。
「久しぶり、フィーア」
「や、やっぱり! リヴェルさんですよね……!」
フィーアの瞳から雫が零れた。
「嬉しいです。私、ずっとリヴェルさんに会いたかったんです……!」
フィーアは駆けだして、勢いよく俺に抱きついてきた。
「ああ、俺もだ。元気だったか?」
相変わらずフィーアは小柄だった。
丁度いい位置にある頭をポンポン、と優しく右手で撫でた。
「はい、元気です」
顔をうずめながらフィーアは言った。
すると、急にガバッと俺から離れた。
顔が紅潮しているのを見ると、フィーアもランニング中だったことが分かる。
「フィーアもランニングか?」
「──え? あ、はい! そうですね。リヴェルさんがいなくなってから、リヴェルさんを目標に私も努力してきましたから」
「はははっ、目標にしてもらえるとはな。嬉しい限りだ」
「そりゃしますよ! リヴェルさんは私達にとってはヒーローみたいなものですからね」
「……フィーア、それは言い過ぎだ」
「言い過ぎじゃないです。でも、きっとリヴェルさんは謙遜しますからね。言い過ぎということにしておきましょう」
そう言って、フィーアはふふっ、と笑った。
「そういえばリヴェルさんって入学試験受けましたか? 探しても見つからなかったので心配していたのですが、こうして出会えたということは杞憂だったみたいですね」
「あー、そのことなんだがな……」
丁度いいタイミングだったので、俺はフィーアに今までの経緯を説明した。
「ええっ!? じゃあ今の状況めちゃくちゃヤバいじゃないですか!」
「ああ、そういうことになるな」
「……なんでリヴェルさんより私の方が焦っているんですか」
「もう俺は色々と考えたからな。策はある」
「なるほど、リヴェルさんがそう言うならじゃあ安心ですね」
「……ちょっと待て。俺に寄せられる信頼が大きすぎないか?」
「え? そうですか?」
「俺も久々だからあまりよく分からないが……まぁフィーアってこんな感じだったかな?」
「む、なんかちょっと失礼ですよ。私も少しは成長したんですからね」
「ふふふ、面白いジョークだ。流石フィーアだな」
「ぶっ飛ばしますよ?」
フィーアの笑顔から殺意が感じられた。
「……はい、すみません」
2年振りに会ったフィーアは、外見の変化は一切感じられないけど、どことなく成長しているような気がした。