1話 戻ってきた努力家
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俺が冒険者活動を辞めてから2年の月日が流れた。
その間、俺は自分の実力を高めることだけに集中した。
Sランク冒険者の地位を利用して、テオリヤ王国の王都にある秘密書庫に入り、書物から有用な情報を入手した。
伝承スキル、禁術、秘術、その類のものは一般の人は存在すら知ることが出来ないが、秘密書庫にはそれが保管されていた。
俺はそれを取得するべく世界を旅したのだ。
魔界にも足を運んだ。
成果は大きい。
この2年間で俺は以前に比べてかなり強くなることが出来た。
そして俺は今、英傑学園の入学試験に挑むためにテオリヤ王国の国境検問所にやってきた。
しかし、俺は入国出来ないでいた。
「現在、テオリヤ王国では国外からの入国者を制限している。我が国に属する者だと証明できるものが無ければ入国を許可することは出来ない」
門の前に立つ騎士はそう言って、俺をテオリヤ王国に入れてくれない。
「冒険者のギルドカードではダメですか?」
「有効期限が過ぎていなければ大丈夫だ」
なんかそんなのあったな。
たしか有効期限は2年以内だったはず。
……じゃあ、ダメだ。
どうしよう、困ったな。
まさか2年の間でこんなことになっているとは思わなかった。
「えーっと、じゃあフレイパーラの『テンペスト』ってギルドにリヴェルって冒険者がいたかどうか確認を取ってもらえませんか?」
「それは良いが、今在籍していなければ意味がないぞ?」
「……」
そういえば別れ際にロイドさん、こんなこと言ってたなぁ。
『──リヴェル、お前はクビだ』
その言葉を思い出し、額から汗が流れる。
これはもう間違いなく在籍していない。
ロイドさんの気遣いだったことは間違いないが、クビにすることは必要は無かったんじゃないかな? と、そんなことまで思ってしまった。
「残念だが、今は諦めるんだな」
騎士は申し訳なさそうな顔をしていた。
うーん、そう言われてもこっちも諦めることは出来ないんだよな。
でも強引に入国なんかしたら絶対問題になるだろうし。
とりあえず一旦落ち着いて、何か方法は無いか考えよう。
『あるじ、ふぁいとっ!』
頭の上にいるキュウが慰めてくれた。
キュウは2年で段々と大きくなっていったが、俺の頭の上に乗れなくなるのが嫌とか言い出し、自ら小さくなり、頭の上に乗れるサイズを維持していた。
念話も使えるし、キュウは色々と自由すぎる。
『ありがとな、キュウ』
『それと、お腹すいた』
『わかったわかった』
調子の良いやつめ、と思いながら俺は《アイテムボックス》からアーモンドを取り出して、キュウの口に運ぶ。
『あもんどうまいっ!』
相変わらずキュウの好物はアーモンドだ。
「……今、どこからアーモンドを取り出したんだ?」
その光景を見ていた騎士は不思議そうに呟いた。
「とにかく、これ以上ここにいられると邪魔になるので下がってもらえませんか?」
「分かりました」
騎士からの苦情が来たので俺は下がることにした。
振り返ると、少し後ろから馬車がこちらに向かってきていた。
荷台が大きいので、どことなく商人が乗っているのかなとか、そんなことを思った。
「……えっ!? もしかしてリヴェル!?」
「ん?」
後ろから来ていた馬車とのすれ違いざまに驚いたような声で俺の名前が呼ばれた。
聞き覚えのある女性の声だった。
馬車は止まり、一人の女性が降りてきた。
褐色の肌に濃い赤紫色の長髪の女性。
「……もしかしてラルか?」
「ええ、そうよ。久しぶりね、リヴェル。キュウも久しぶり」
「キュウッ!」
キュウも鳴き声を発してラルの挨拶に応えた。
「おお、懐かしいな!」
「ほんとよね。それにリヴェル見ない間に大人らしくなったわね」
「まあ2年も経てばな」
「積もる話もあることだし、リヴェル、王都まで護衛してくれない? てかなんでこんなところにいるの?」
「そのことなんだが……」
俺はさっきまでの経緯を話し、ラルに入国出来ないことを伝えた。
「ああ、そういうことね。それなら大丈夫よ。リヴェルの素性を私が保証すればいいだけだから」
「そんなこと出来るのか?」
「もちろん。私クラスの商人になるとね」
「……なぁ、それって証人と商人をかけているのか?」
「……リヴェルって本当に面白いこと言えないのね」
「ひ、ひどい」
ラルは額に手を当てながらため息をついた。
そして俺はラルの馬車に乗り、もう一度さっきの騎士のもとへ。
「それはリンドバーグ商会の紋章ですね。通っていいですよ」
騎士は馬車の側面に彫られていた紋章を見て、ラルの身分を確認したようだ。
「でも、あなたはダメです」
俺も流れに乗れるかと思ったが、ダメなようだった。
「彼の身分は私が保証するわ。それに彼、テオリヤ王国のSランク冒険者よ?」
「ええっ!?」
騎士は口を大きく開けて驚いた。
「ほら、リヴェル。ギルドカード見せなさいよ」
「ん? ああ、分かった」
有効期限というものがあるなら見せるだけ無駄かと思ったが、とりあえず俺はラルの言う通り騎士にギルドカードを見せた。
「……こ、これは本物のSランク冒険者のギルドカードですね。それなら先ほど見せて頂ければ通しましたのに」
「え、そうなんですか?」
「はい、Sランク冒険者は所属国家から認められた者しか昇格することは出来ないので、特に有効期限といった概念は無いんです」
あ、だから機密情報を取り扱っている秘密書庫とかにも入れたりするんだ。
……俺は馬鹿か?
強くなることだけに意識を集中させすぎていたようだ。
「ハァ、リヴェルって変なところでマヌケよね」
「ははは……」
そして俺達は無事にテオリヤ王国への門を通ることが出来たのだった。