40話 証人
「えー!? ダメだよリヴェル! 怪我も今治したばっかだし、危ないよ! ……あれ? 治ったならいいのかな? いや、でも疲れてるから!」
「何一人でボケてるんだよ」
おかしくて俺はクスクスと笑ってしまった。
「騎士として弱っている相手に戦いは挑めない!」
「気にしないですよ。1度の決闘で納得してもらえるなら」
「ほぉ〜、こりゃ大物だな。リヴェル君がこう言っているんだ。遠慮せずに戦ってこい」
「少しは遠慮してくださいよ!」
笑う団長にぷんすかと怒るアンナ。
そして、例の騎士は剣を鞘から抜く。
「ほ、本当に良いんだな?」
「はい、その代わり俺が勝ったら俺が悪魔を倒したっていう証人になってくださいね」
「なっ……!」
「ハッハッハ、良いぜ。勝てば赤竜騎士団が証人になってやる」
「ありがとうございます」
俺は団長に頭を下げた。
「……良いんだな。疲労しているとはいえ、戦いとなれば容赦はしない」
「遠慮なんか要らないですよ。そうじゃないと納得してもらえませんからね」
「……分かった。では、ゆくぞ!」
騎士は駆け出し、俺との距離を詰めてから剣を上段に構え、振り落とす。
俺はそれを弾き、相手の騎士の首元に剣を持っていく。
騎士は何があったか分からない驚きの表情でゴクリ、と唾を呑み込んだ。
「速い……」
近くで見ていたアンナが呟いた。
どうやら俺の剣筋はアンナから見ても速い部類に入るようだ
俺が首元から剣を離すと、騎士は倒れ込み、
「負けました……」
と、頭を下げた。
「俺の実力が無いばかりに疑ってすまなかった」
「気にしなくていいですよ。不正を許せない正義感の強さは騎士として持ち合わせるべき資質でしょうから」
「本当にすまない……恩に着る」
騎士は立ち上がり、再び頭を下げた。
「ハッハッハ、しかし結果は圧倒的だったな。だがまぁこれで今回の騒動は全て片付いた訳だ。よーし、とっとと帰るぞ」
団長はそう言って、竜の背に乗った。
先ほどの騎士も団員達もそれに続く。
「アンナ、リヴェル君とは幼馴染なんだろ? ちゃんと別れの挨拶を済ませてから拠点に戻ってくるといい。さっきの詫びだ」
アンナも俺に手を振って帰ろうとしたとき、団長は言った。
「団長……ありがとうございます!」
「おう。よーし、それじゃ俺たちは帰るぞ」
そして赤竜騎士団はこの場を去って行った。
「別れの挨拶が出来る時間、貰っちゃった」
「団長、少し適当なところはあるみたいだが、良い人そうだな」
「そりゃね。なにせ【竜騎士】ですから」
「確かにな。間違いない」
そう言って、俺たち二人は笑い合った。
「今度はいつ会えるかな」
「縁があればまた会えるさ。まぁ会えなくても英傑学園の高等部が始まれば、また一緒に過ごせるよ」
「そうだね。あー、その日が楽しみ! 早く来て欲しいな!」
「俺もそう思う」
「よーし、じゃあはいっ」
アンナは俺に向かって両腕を広げた。
「……どうした?」
「こ、これから2年間頑張れるように! エ、エネルギーを補充するの!」
「なるほど、じゃあ俺も2年分のエネルギーを補充しないとな」
「そ、そうですよ〜! それがいいですよ〜!」
アンナの顔は真っ赤だった。
きっと、これを言うのにかなり勇気を振り絞ったのだろう。
ちゃんと応えてやらないとな。
俺はアンナの背中に手を伸ばして、正面から抱き寄せた。
「……あったかいね」
「そりゃ戦った後だからな」
「もう〜、そういうことじゃないよっ」
「ハハ、悪い悪い」
「……あと、もうちょっとだけ」
「ああ、なにせ2年分のだからな」
「そうだよね。だから仕方ないよね」
そんな言い訳をして、俺たちはしばらく抱擁していた。
「よし、補充完了!」
「元気そうだな」
「うん! リヴェルのおかげでね!」
「そいつはよかった。俺もアンナのおかげで元気出た」
「えへへ」
嬉しそうにして、アンナは火竜の背に乗った。
「それじゃ、元気でね!」
「アンナもな」
「……じゃあ、またね!」
アンナの目元が少し赤い。
涙を我慢しているのだろう。
「アンナ、最後に1つだけ言っておくな」
「ん?」
「俺が強くなれたのは全部、アンナのおかげだ。アンナがいなかったらここまで強くなることは出来なかったと思う」
「そんなことないよ! 全部リヴェルが頑張ったからだよ!」
「アンナがいなきゃ頑張れなかったさ。だから、あと2年待っててくれ。必ず英傑学園に迎えに行くから」
「……嬉しい、待ってる」
アンナの目から涙が零れた。
「元気でな」
「うん、リヴェルも」
アンナと別れ、こうして魔物の大群を相手にした緊急クエストは幕を閉じた。