39話 赤竜騎士団登場
「リ、リヴェル!? 肩を怪我してる!」
「は、早く手当てしましょう! と、とりあえず、ポ、ポーション! リヴェルさん! ポーションを取り出してください!」
戻ってきた俺を待っていたのはアンナとフィーアだった。
左肩の怪我を見るなり、二人とも大慌てだ。
「フィーア、俺が取り出すんだな……」
「あわわ……す、すみません! 怪我人に言うことでは無かったです……い、今私が拠点からポーションを取ってきますから!」
走り出そうとするフィーアの肩を掴む。
「ちょっと待て、お前が拠点に行って戻って来るぐらいなら俺が拠点に戻ればいいだろう」
「「た、確かに……!」」
フィーアだけでなく、隣にいるアンナも同じリアクションをしていた。
……なぜ?
「それにこれぐらいの怪我なら自分で治せるよ」
俺は左肩に右手を添え、回復魔法を使用する。
止血され、みるみるうちに傷口が塞がっていく。
「そういえばそうでしたね……」
フィーアは一呼吸ついて落ち着いたようだった。
「えっ! この回復魔法の効果おかしくない!?」
「ああ、アンナには言ったことなかったな。実は俺が使っている魔法は古代魔法で現代魔法よりも色々と融通が効くんだ」
「古代魔法……なんか聞いたことあるかも。まぁよく分からないけど、やっぱりリヴェルって凄いね!」
「ありがとう。そういえばクルトとアギトはどうした? ここにいた敵はみんな倒されているようだけど」
辺りを見回してもガルーダとヒュドラの死体があるだけでクルトとアギトの姿はない。
大丈夫なんだろうか。
「アギトさんは何とかヒュドラを倒したのですが、重傷を負ってしまったのでクルトさんが拠点に連れて帰りました」
「そっか、まぁでもアギトが無事で良かったよ」
……と、今まで何気なく会話していた俺だったが、一つ違和感に気付いた。
「てかアンナとフィーア、馴染みすぎじゃないか? お互い初対面だろ?」
「リヴェルを待っている間、フィーアちゃんと一緒にお話してたんだよ。ねー?」
「はい! アンナさんはめちゃくちゃ良い人ですね、リヴェルさん!」
どうやら俺とアンナが幼馴染ということは伝わっていそうだ。
……いや、アンナが竜に乗っていることからもう幼馴染だというのは察しているか。
「で、では私はアギトさんが心配なので拠点に戻りますね。お二人は積もる話もあるでしょうし、ごゆっくりしていてください。魔物達ももう元々の住処に向けて移動しているらしいですから」
フィーアは、そそくさと拠点に戻って行った。
「フィーアちゃんバイバーイ!」
手を振るアンナにフィーアも応えていた。
周りを見ると、魔物は確かに後方へ向けて進路を変更していた。
中にはまだ冒険者と戦っているやつもいるようだが、それは魔物の性格によるものだろう。
とにかく一件落着なようだ。
しかし、フィーアめ。気を遣ったな……。
変に気を遣わなくてもいいのに。
「あー、二人っきりになっちゃったね」
アンナが呟いた。
頬は少し赤く、どことなく恥ずかしそうだ。
「そうだな。こうやって話すのも1年振りかー」
「マンティコアと戦ったとき以来だよね。あれからもう1年も経つなんてね、あっという間だったなぁ……」
「マンティコアを単独で倒したって色んなところで話題になってたなーハハハ」
「あー! こっちは笑い事じゃなかったんだからね! あれのせいでめちゃくちゃ注目を浴びたんだから!」
アンナは頬を軽く膨らました。
「悪い悪い、まぁでも今ならもうマンティコアを一人で倒せるだろ?」
「うん。この1年どれだけ苦しい目に会ってきたか……」
アンナはガクガクと肩に手を寄せて震える。
「頑張ったんだな」
ぽん、とアンナの頭に手を置く。
「……えへへ」
嬉しそうにアンナは笑った。
こちらに何かが近づいて来る気配を感じた。
上空か。
空を見上げると、赤色の鎧を身に付けた竜達がこちらに向かってきていた。
背中には人が乗っている。
あれは竜騎士か。
「あ、団長だ」
「団長? あれがアンナの所属する騎士団なのか?」
「うん、あれが赤竜騎士団。あの先頭にいる火竜に乗っている人が団長だよ」
そう、アンナは言った。
そして、しばらくすると赤竜騎士団達がこちらに降りてきた。
アンナが団長だと言っていた先頭の人物は真っ先に竜から降りてこちらに近づいて来る。
「初めまして。俺は赤竜騎士団団長アイザックだ」
「丁寧にどうも。俺はAランク冒険者のリヴェルです」
「ええ!? リヴェルってAランクの冒険者だったの!?」
「あっ、そういえばアンナには言ってなかったな」
そう言うと、アンナはコクコクと首を縦に振った。
「なるほど、その歳でAランク冒険者か……やるなぁ。そこに転がってる魔物達もリヴェルとアンナが倒したのか?」
「俺はそこにいる魔物は倒してないですね」
「私は、あの鳥を倒しましたよ!」
「バカ、アレはガルーダだ。魔物の名前ぐらい覚えておけ」
「……すみません」
アンナは団長に怒られていた。
「……ん? 待てよ。アンナがガルーダを倒したとなると、あのヒュドラは誰が倒したんだ?」
「俺の冒険者仲間ですね」
「おー、やるなぁ、ヒュドラを倒したか。そりゃ中々の実力者だな。それじゃあリヴェルは何と戦っていたんだ?」
「俺は悪魔ですね」
「ほう、悪魔か」
「悪魔がこんな魔物の群れにいる訳ないだろう! ちゃんと真実を話せ!」
騎士の中の一人がそう声を荒げた。
「ふーむ、すまんね、リヴェル君。ウチの団員は変に正義感が強い奴もいてたまに空回りすることもあるんだ。許してやってくれ」
「いえ、なんとも思っていませんから」
どうやらこの団長は俺の言ったことを信じてくれているようだった。
「だ、団長!? そいつの言うことを信じるんですか?」
「ああ、リヴェル君が嘘をつく理由がどこにも無いからなぁ」
「あ、ありますよ! 嘘をつけば偽りの実績が得られます! そんなことが出来てしまえば、とても不誠実です!」
「いやいや、嘘をついていないって根拠も実はあるんだぜ? この魔物の群れには妙に変な魔力があったのは俺も分かっていたことだ。それが悪魔だとは気づかなかったがな」
団長の発言を聞いて、嘘だと指摘した騎士は黙り込む。
団長は続ける。
「その魔力が消えたとき、魔物の群れが崩れていった。これがどういうことだか分かるか? この魔物の群れの親玉は悪魔で、これは何者かに仕組まれたものだってことだ。なにせ悪魔は契約が結ばれない限り、こういったことはしないからなぁ」
「し、しかし……!」
「信用できないならよぉ、後日リヴェル君に戦いを挑んでみろよ。ま、受けてくれるかは知らねーけどな」
そう言って、団長はハッハッハと笑った。
「団長! それはちょっと無責任すぎますよ! リヴェルも色々と忙しいんですから!」
「お、そういやアンナはリヴェル君となにやら親しげだよな。……コレか?」
団長はニヤニヤとしながら親指を立てた。
「親指なんか立ててどうしたんですか?」
「なるほど、これじゃ分からないか。リヴェル君はアンナの彼氏か、って聞いてんだ」
「ち、違いますよ! い、い、一体何を言ってるんですか!? ただの幼馴染ですよ!」
「ほほう、さてはお前リヴェル君に惚──いてっ!」
団長は隣にいた騎士の人に頬を抓られていた。
「団長、そういうのセクハラになりますよ」
「ああもうっ! ちょっとぐらいいいだろうが! ったく、悪かったよ」
……この人、本当に団長なのか?
「まぁというわけだ。リヴェル君が嘘をついていないのは理解したかー?」
「納得いきません! 後日、彼には決闘を申し込みます!」
「だからリヴェルに迷惑ですって!」
……なんか愉快な騎士団だな。
まぁいい。
後日、決闘を申し込まれるのも面倒だ。
どうせなら今、受けてしまおう。
「いいですよ、決闘。後日と言わずに今からやりましょう」