38話 決着
「どうやら、リヴェルの友達はみんな無事に倒したようだね。私もそろそろ決着をつけなきゃね……!」
上空でガルーダと戦い続けていたアンナは気合を入れ直す。
ここまでガルーダと対峙してきて、勝てる相手だというのはアンナ自身、十分に理解していた。
だが、全力を出せば火竜フェルの身体に負担がかかってしまう。
アンナはそれを心配し、なんとかフェルの身体に負担のかからない勝ち方が無いか模索していたのだ。
「ゴワアアアアアァァァ!!」
そして、その想いはフェルに伝播していた。
だからこそフェルは咆哮をあげた。
それが何を意味するのか、アンナは十分に理解出来た。
「……うん、ありがとうフェル。じゃあ思いっきりいくよ!」
──なぜ【竜騎士】が強い才能と言われているのか。
単純に騎士自身が竜よりも強くなることが出来るからだ。
しかし、それは世間一般的な評価だ。
実力者達の間では、【竜騎士】の評価は更に高い。
なぜならば、【竜騎士】とは竜の実力を100%以上引き出すことが出来るからだ。
才能が騎士系統でもなろうと思えば、竜騎士になることが出来る。
優しい心を持ち、竜よりも強くなればいいからだ。
しかし、騎士系統の才能で竜騎士になった者と【竜騎士】の実力は全くと言って良いほどに差がある。
それは【竜騎士】以外では、竜の実力を100%以上引き出すことが出来ないからだ。
「いくよ! ──《竜炎焔》」
フェルに炎のブレスを吐かせ、それを剣に纏わせた一撃。
ガルーダも炎を扱うことから、間違いなく炎に対する耐性はある。
だというのにアンナが放った《竜炎焔》はガルーダを一撃で倒してみせた。
それは《竜炎焔》を放つ際にアンナがフェルの能力を最大限まで引き出したからに他ならない。
フェルが普段、無意識のうちにセーブしているだけの力を【竜騎士】であるアンナは引き出すことが出来る。
「フェル、大丈夫?」
「ゴワっ!」
フェルは疲れた表情だったが、元気よく鳴いた。
「そっか、頑張ったね! フェル!」
フェルは首を曲げて、アンナをペロリと舐めた。
「うんうん、よかったよかった! ……あとは、リヴェルだけだね」
少しだけ不安そうな顔をしたアンナだったが、ぶんぶんと首を横に振った。
「リヴェルが負ける訳ないよね!」
◇
悪魔の攻撃、《蠅喰らい》のせいで左肩の一部が腫れ上がり、人面へと変化してしまった。
この人面を放置するよりもすぐに処理した方がいいな。
そう思った俺は迷うことなく、人面を剣で薙ぐ。
肩から大量の血が流れる。
迷いは思考と判断を鈍らせる。
だから俺は真っ先に思い付いた最善の選択を取った。
「迷わずに斬り捨てる。その判断は正しいですよ」
「そうかい。良い気になってるようだが、今度は俺の番だ」
「ふふふ、貴方が攻撃することは無いですよ。なにせ、ここは私の世界なのですからね」
ブーン、と羽音が再び聞こえてきた。
今度は先ほどよりも大きく、そこら中から聞こえてくる。
「さぁ、喰らい尽くしなさい!」
もう決着をつけよう。
長引けば長引くほど、魔物と戦っている冒険者の身が危険だ。
「《加速循環》」
オリジナルスキル《加速循環》を使用した俺は、悪魔のもとへ駆ける。
蠅は俺の動きに付いてくることは出来ない。
「なにぃっ!?」
悪魔に振るった剣は空振り。
いや、闇を斬ったか。
《必中》の対策は万全というわけだ。
しかし、移動した先は分かる。
魔力の跡を追えばいいだけなのだから。
次の攻撃も外れるが、悪魔の表情に余裕は無い。
休む間もなく、何度も攻撃を仕掛ける。
縦に、横に、悪魔の後を追い、剣撃を放つ。
確かに悪魔のスピードは速い。
自分の世界というだけはある。
だが、それでも俺は次第に悪魔を追い詰めている。
これが《加速循環》の力だ。
《加速循環》は《剛ノ剣・改》を応用したスキルだ。
魔力を均一化させ、最大まで引き上げた状態を維持し、その循環を加速させる。
魔力の消耗、そして身体への負担は凄まじいが、得られる能力はとてつもない。
その証拠に、《加速循環》を使用してからの展開は一方的なものだった。
そして、ついに俺の剣が悪魔に届く。
一閃が悪魔の左腕を斬り飛ばした。
「バ、バカな……! こんなことが……こんなこと、あるはずがありませんッ!!!」
悪魔はすぐさま右腕に《魔骨鉄剣》を作成し、俺に斬りかかる。
俺は正面で受け、剣で応じる。
「ここは私の世界だ! 私が負けるはずがない……それもニンゲン如きにッ!」
怒りに身を任せ、悪魔は何度も《魔骨鉄剣》を振るう。
剣で応じ、悪魔が《魔骨鉄剣》を縦に振ろうとしたとき、俺はそれを弾いた。
「終わりだ。この世界ごと葬り去ってやる」
光球を作り出す要領で剣へ光を溜める。
急速に込められる光の魔力に剣は眩い輝きを放つ。
「やめなさい……」
「これでトドメだ!」
「やめろォォォォォ!」
一閃は全ての闇を振り払った。
「わ、わ、たし……が、ニン、ゲンに、ま、け……た」
悪魔は目から涙を零し、真っ白な光の中で溶けるように消滅していく。
「お前は人間を馬鹿にしすぎだ」
真っ白な光に包まれた世界は、次第に色を帯びていき、気がつけば俺は元いた場所に戻っていた。