36話 それぞれの相手
真っ先に動いたのはヒュドラだ。
七つの首が一斉に俺たちに襲いかかってきた。
アンナは攻撃を躱すと、火竜の背中に乗り、飛翔した。
……って、結局竜に乗るのかよ。
降りて戦うのかと思ったら、結局は竜に乗って戦うようだ。
しかし、空へ飛んだアンナにガルーダは接近していく。
「リヴェルも凄く強くなってるみたいだけど、私も負けてないんだからね!」
上空でアンナの剣とガルーダの剣が激しくぶつかり合う。
その剣筋を見て、アンナはかなりの成長を遂げていることが分かった。
1年前にマンティコアと戦ったときのアンナでは、ガルーダと互角に戦うこともままならないはずだ。
「よそ見をしていていいのですか?」
「シャアアアァッ!」
悪魔とデュラハンによる魔法攻撃、そしてその射線上から外れたところからヒュドラの攻撃が一斉に俺を襲う。
「《縮地》」
あの場でただ避けることは無理だと判断した俺は《縮地》を使い、右に大きく移動した。
ズドーン、という音が響き、俺のいた場所には大きな穴が出来上がっていた。
まともに受けたら即死だな。
《縮地》を何度も使い、ジグザクに動きながら悪魔に近付く。
そして《縮地》のスピードを利用し、悪魔に斬りかかる。
だが、攻撃は防がれる。
「無防備だと思いましたか? 《魔骨鉄剣》はいくらでも作れますよ」
「そうみたいだな」
背後からヒュドラが襲いかかってくるが、それをアンナが防いだ。
ヒュドラの首を1つ斬り落としたのだ。
「リヴェルの援護は私がするから! 早く悪魔をやっつけて!」
「ああ、任せろ」
「あの子だけで務まりますかねぇ?」
「俺の幼馴染がやるって言ったんだ。だったら俺は信じてお前を倒すだけだろ」
「ニンゲン同士の絆というやつですか。……ではその力、見せてくださいよォ!」
悪魔がそう言って、口角を大きく吊り上げた。
嫌な予感がした。
俺は振り返り、アンナを見た。
上からはガルーダ、横からはヒュドラ、そして下にはデュラハンの姿が見えた。
一斉にアンナへ攻撃を仕掛ける気のようだ。
これはまずいな。
……仕方ない、アレを使うしかないか。
俺がそう覚悟を決めたとき、アンナを狙う3体の前に爆煙が生じた。
しかし、あれではダメージは通らないだろう。
だが突如として起きた爆発に3体はひるみ、加えて煙で視界は遮られている。
それを利用し、アンナは包囲されている状況から抜け出した。
「一体何が起きたの……?」
ピンチの状況を抜け出したアンナ自身も何が起きたのか分かっていない様子だった。
となると、この爆煙はアンナが引き起こしたものではない。
「敵を目の前にして背後を向くとは、随分と余裕じゃないですか」
悪魔がそう言って、俺の背中を《魔骨鉄剣》で突き刺した。
「お前の言葉、そっくりそのまま返してやるよ。無防備だと思ったか?」
俺は悪魔の正面に、少し離れた位置で姿を現した。
悪魔が突き刺した俺は《魔骨鉄剣》によってかき消されたのだ。
これはスキル《蜃気楼》による効果だ。
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○スキル《蜃気楼》
過剰な魔力を放出することによって光を異常なまでに屈折させ、見える偽物の自分と見えない本物の自分を作り出す。
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「くッ──!」
最初と比べて悪魔の表情が段々と険しくなっていく。
余裕が無くなり、ふつふつと怒りが込み上げてきているのだろう。
悪魔の底は見えてきた。
しかし、それにしても先ほどの爆煙は一体誰が……?
「──やっぱり、中央付近は思った通り面白いことになっていたね」
この声は……まさか……。
「オラァ! 追いついてやったぞォッ!! リヴェル、てめぇには負けねェからなァ!!」
「リヴェルさん、助けに来ましたよ」
声のする方を振り向くと、そこにいたのは俺の仲間達だった。
「ハハ、あいつら……」
正直ここには来て欲しくなかった。
だけど、俺のためを思って危険を顧みずにここまで来てくれたと思うと……嬉しくない訳が無い。
「リヴェル! 先に言っておくけど、君と交わした約束は破っていないよ。今のところはね」
クルトは声を張り上げて言った。
「今のところは、って……ちゃんと守る気あるのか!?」
「もちろん! 不安に思ったのは、多分こんなことになるだろうと思っていたからさ!」
ああ、確かに不安だとか言っていたな。
それでも守る自信はあるみたいだったし、やっぱりクルトは相当な自信家だと再認識した。
そして、それを突き通せるほどの実力がクルトにはある。
「ハッハッハ、あのデケェ化物は俺の獲物だァッ!!」
アギトはそう言って、嬉々としてヒュドラに突っ込んでいく。
「アギトさん、一人で戦うのは流石に無茶ですよ」
突っ込んでいくアギトにフィーアが援護に向かう。
「ふむ……あれはヒュドラか。アギトとフィーアの二人がかりならまぁ大丈夫かな? それじゃあ僕は、あの魔法の使い手と遊ぶとしようか」
クルトはコートの内側から杖を取り出した。
それをデュラハンに向かってかざすと、5つの氷の柱が放出された。
こいつ……いつの間に《無詠唱》を取得していたんだ……?
「誰だかよく分からないけど、みんなリヴェルのお友達みたい! じゃあ残りの魔物はお友達さんに任せて、私は鳥を倒せば良さそうだね」
アンナは一人納得した様子でガルーダと再び交戦を始めた。
「どうやら戦いは振り出しに戻ったみたいだな」
悪魔に向かって俺は言う。
「ふ、ふふ、ふふふふふふ……振り出しに戻った? そんな訳ないじゃないですか。貴方達は私を怒らせ過ぎた。ここからは手加減無用です。本気で貴方を殺しに掛かります」
「仲間の魔物を呼んだとき同じようなこと言ってたな。もしかして悪魔って口だけなのか?」
「そう言っていられるのも今のうちですよ。貴方は闇の世界で一人寂しく死ぬのですから。常闇牢獄ッ!!」
悪魔が膨大な闇に変わった。
引き込まれて行く。
「逆らおうにも逆らえないな」
これがこいつの奥の手なのだろう。
呑み込まれた時点で命を奪われるとは考えにくい。
だとすれば奴自身が闇になる必要が無いからだ。
つまり、あの闇は奴にとって有利なフィールド。
「面白い、受けて立つぜ」
そして、俺はそのまま闇に呑み込まれて行った。
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