35話 火竜と少女
……さて、どうしたものかと悩む暇も無く、ガルーダが前腕を広げ、こちらに向かって飛翔。
「コガアアアァァ!」
「さぁ、これを使いなさい」
ガルーダは悪魔から《魔骨鉄剣》を受け取り、すぐさま構え、斬り掛かってきた。
それを俺が剣で受け止めると、次は炎のブレスを吐き出した。
「まぁ翼に纏った炎は飾りじゃないか」
魔力障壁を作り、炎を防ぐ。
反撃しようと思ったところで今度は右方向からヒュドラの攻撃の気配を感じた。
「シャアアアアアァァ!」
「妙に連携が取れてるのも悪魔の仕業か」
「ええ、その通り」
七つの首が順番に鋭い牙で俺に噛みつこうとしてくる。
ヒュドラの頭部は結構大きく、避けるには大きく四方八方に動く必要があった。
そして噛みつきの他にも毒を吐いたり、いくつかの首を振り回したり、攻撃の手段を変えてきた。
「……とりあえず、首を斬り落とすか」
《剛ノ剣》を使用し、ヒュドラの首を一気に二本斬り落とした。
──だが、ヒュドラの首はすぐに蘇生し、以前と同じ姿で俺に襲い掛かる。
「一体どうなってんだ!」
《英知》で更にヒュドラについて詳しく調べると、どうやら不死性があるようだ。
七本の首の中に一つだけ身体の核を含んだものがあるようだ。
その首を斬れば倒すことが出来るのだという。
しかし、核の場所は自在に動かせるようで、全ての首を少しずつ斬っていってもヒュドラは倒せない。
うーん、じゃあ一気に首を斬り落とせばいいだけか。
そう判断したが、それは後回しだ。
他を片付けてからだ。
「中々苦しそうですね」
「ま、そうでもないさ」
「しかし、デュラハンの存在を忘れていませんか?」
ヒュドラの影でデュラハンは魔力を練っていた。
何か強力な魔法を放つつもりだ。
だが、そんなこと言われなくても知っている。
知っていて防ぐ必要は無いと思ったからだ。
「……む? なんですか? この影は。他に空を飛ぶ魔物を呼んだつもりは無かったのですが……」
空を見上げる。
上空には翼を広げたドラゴンのシルエットが見えた。
デュラハンの魔力が最大にまで達したところで、ドラゴンは翼を下に傾け、急降下を始めた。
「デュラハンの存在を忘れるバカはいないだろ。お前こそ、誰を相手にしているのか忘れているんじゃないのか? お前が相手にしてるのは国だぜ」
「なッ……! ニンゲンの分際で調子に乗るんじゃないッ! やりなさい! デュラハン!」
デュラハンから放たれたのは、雷属性の魔力が込められた魔法《紫電砲》だった。
一定値を超える雷属性の魔力が込められることによって、雷は紫に変色する。
「──ドラゴンダイブッ!」
しかし、《紫電砲》は上空より降下してきた竜によってかき消された。
「……これは私が操っている魔物ではないようですね」
現れた竜は、赤色の鱗と強靭で大きな翼膜が特徴的だった。
この竜は見たことがある。火竜だ。
火竜は顔をニイッ、と微笑みを向けて来た。
どこか見覚えのあるような気がしていたが、どうやらそれは間違いではなかったらしい。
こいつは火の精霊に操られて悪さをさせられていた火竜のようだ。
俺も火竜に応えるように微笑んだ。
「おっとっと……って、わあぁっ!?」
火竜の背中から飛び降りて来た少女は着地に失敗し、尻餅をついていた。
懐かしさを感じつつも俺は近付いて、手を差し伸べた。
「【竜騎士】になっても少しドジなところは治らないみたいだな」
「あ、あはは……。もうちょっとカッコ良く登場したかったんだけどねぇ……」
少女は俺の手を取って立ち上がると、サッと砂を払った。
「それにしても再会はいつも戦場だな」
「まぁ仕方ないよね。英傑学園の敷地内を出ることなんて限られているし」
少女は右手の人差し指でブロンドの髪の内側をクルクルと巻きながら答えた。
「ああ、でも会えて嬉しいよ。久しぶり、アンナ」
「久しぶり、リヴェル。私も会えて嬉しい!」
「……しかし、再会を喜んでる時間なんて無さそうだ」
「そうみたいだね。それでアイツが魔物達の親玉?」
アンナは悪魔を指差す。
「そうだ。アイツは悪魔でこの魔物全てを操っている」
「ふふふ、私をアイツ呼ばわりですか。舐められたものですね、ニンゲンの分際で」
悪魔はぷるぷると肩を震わせる。
その様子を見たアンナは、ハッと開いた口を手で隠した。
「ごめんなさい……」
アンナはお辞儀をして悪魔に謝った。
「……敵なのに謝るのか?」
「うん、だって怒ってるみたいだったし」
アンナらしいと言えばアンナらしいが、俺はやれやれ、と首を横に振った。
本当にこの子は優しすぎる。
それは今も変わっていないようだ。
だからこそ【竜騎士】の才能が与えられたのかもしれない訳だが。
「ここまでニンゲンに侮辱されたのは初めてですね。すぐに始末してあげましょう。ニンゲンごとき一人増えようが始末する労力は何も変わりませんからね」
「え、えぇ!? 私、侮辱したつもりなんて全く無いのに……」
「気にするな。どうせ倒さなきゃいけない相手だ」
「……それもそうだね。少し申し訳ないけど、容赦しないよ!」
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