33話 悪魔
悪魔は右腕を上げると、手の先に黒色の球体が現れた。
膨大な魔力を含んでおり、直撃すればタダでは済まないだろう。
「さぁ、楽しませてくださいよ」
黒色の球体は破裂し、五つに飛び散った欠片が多方向から黒い軌跡を描いて俺を襲う。
飛び散ってもなお、一つ一つの欠片はかなりの威力を誇っているだろう。
それだけ元の黒い球体が内包する魔力は膨大なものだった。
「よっ──ほっ──と」
五つの黒色欠片を躱すと、悪魔はニイッと口角を吊り上げた。
五つの黒色欠片は急速に反転し、再び俺目掛けて襲う。
「なるほど、追尾してくるわけか」
「ええ、その通り。まさかあれだけの大口を叩いておいて、この程度の攻撃で終わる訳ないですよね?」
いとも簡単にこれだけの魔法を扱う悪魔の技量はかなりのものだ。
……さて、どうしたものか。
まず、俺は五つの黒色欠片を悪魔と衝突させることを考えた──が、あの悪魔が対策していないはずがない、と考えを改める。
それに衝突させることを優先し、不用意に悪魔に近付けば第二の攻撃が俺を襲うこともあり得る。
そうなれば俺は更に不利な状況に陥る。
ここはシンプルに対応していこう。
地面を蹴り、五つの黒色欠片を再び躱す。
「宙に逃げましたか、しかしそれは悪手ですね。逃げ場が無くなりましたよ」
悪魔は次の攻撃を仕掛けようとせずに、余裕の表情で俺を眺めている。
慢心しているようだ。
「逃げ場が無い? 本当にそうか?」
俺は《空歩》を使い、追尾してきた黒色欠片を宙で躱す。
「……ほほう、少しはやるようですね。でも逃げているだけじゃどうにもなりませんよ」
「別に俺は逃げるのが目的で飛んだ訳じゃないさ。逃げ場が無いというから逃げてみただけで本当は逃げる必要なんて微塵も無い」
黒色欠片よりも上に飛べば、追尾してくる方向は下方向のみとなる。
俺は黒色欠片から距離を取り、同じだけの威力を誇る魔力の球体を放つ。
多方向の攻撃には相殺するのも骨が折れる。
しかし、それならば宙に飛び、攻撃してくる方向を制限すれば良いだけのこと。
圧縮された魔力同士がぶつかり、爆発が起きた。
爆風に乗り、俺は更に上に飛び上がる。
「上に逃げられては面倒ですね」
悪魔は翼を広げて、高速で飛び上がり、俺との距離を詰める。
その途中に背中に手を当てると、白い棒が生成される。
すぐさま白い棒は剣状に変化し、悪魔はそれで俺に斬りかかる。
剣と剣同士が交錯すると、火花を散らし、キンッと甲高い金属音が響いた。
「これは《魔骨鉄剣》。複製した背骨を魔合金化させた剣です」
「どうでもいいな」
「ふふふ、私は親切心でご説明してあげたのですよ。この《魔骨鉄剣》、全て私自身によって作られたものですから私の魔力との親和性は高い。つまり──」
次の瞬間、悪魔の握る剣の切先が勢いよく伸びた。
すぐさま反応し首を横に傾けたが、切先は頬をかすめ、血がたらりと流れる。
「こういうことも出来ちゃう訳ですよ」
ニコリと微笑む悪魔。
「なるほど。悪魔とやらは、チマチマとした攻撃が好きなようだな。俺はもっと大きくいくぜ」
剣を握っていない左手を前に突き出し、竜巻を発生させる。
悪魔は姿勢を変えずに、ただ竜巻を放った方向に身体が移動していくだけだ。
怪我をしている様子も無く、ダメージが通っている気配はない。
「ふふふ、これで終わりですか?」
「いや、これからだ」
俺の狙いはダメージを与えることではない。
ただ構えるだけの間が欲しかっただけだ。
そう、《剛ノ剣・改》の構えを取りたいが為に俺は竜巻を発生させたのだ。
大口を叩くことで、悪魔は「この程度か?」という具合で真意を見誤る。
そして《剛ノ剣・改》は自分が強くなればなるほど、威力を増していく。
自分の限界を超えた先にある一撃は、1年経った今でも最強の一撃だ。
「……確かに厄介そうですが、構えを見るからに剣技ですね。ならばリーチに入らなければいいだけのこと」
そう言って、悪魔は地面に向かって急降下していく。
悪魔の言う通り《剛ノ剣・改》を直撃させるには相手がリーチに入るように近付かなければいけない。
だが、問題はない。
俺は《空歩》の使用を止め、落下する。
そして着地と同時に地面を蹴り、悪魔との距離を一気に詰める。
この《剛ノ剣・改》を放つ前の状態は身体能力が極限にまで研ぎ澄まされており、距離を詰められなくて困ることは無い。
加えて、スキル《必中》を発動させることにより、回避不可能の最強の一撃が完成する。
「この一撃、お前に避けることは出来ない」
「ふふふ、どうやらそのようですね。しかし、貴方は大事なことを一つ忘れている」
《剛ノ剣・改》を直撃させた瞬間に俺は言葉の意味を理解した。
……あー、確かに忘れていたな。
「──ここは私の支配領域なのですよ」
悪魔の盾となるように、オーガが身代わりとなっていた。
上空から地面に逃げたのは、リーチから外れる以外にも理由があった訳だ。
確かにこれでは回避不可能の一撃も意味を成さない。
「ニンゲンだからと言って少し侮っていましたよ。本当の戦いはこれからです。私を相手にするということは、この魔物の大群全てを相手にすることと同じなのですから」
……まぁそう簡単には勝たせてくれないか。
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