31話 一年前の強敵
お待たせ!
魔物の大群との決戦の舞台になるのは、ヘリミア村近くにある平原だ。
冒険者と騎士団はそれぞれ独立している。
左翼に騎士団、右翼に冒険者という風に分けられている。
冒険者陣営を指揮する者はルイスだ。
細かいことは全てルイスが何とかしてくれるだろう。
俺はただ魔物を蹴散らせばいい。
俺達は冒険者陣営の最前列で待機しているところだ。
クルトは呑気に魔導書を読み、フィーアは震えながら手の平に人の文字を書いて飲み込んでいる。
「大丈夫か?」
「ふ、ふふ……リ、リヴェルさん、な、何を言い出すかと思えば、そ、そんなことですか。わ、わ、私はこの、この通り、お、落ち着いていますよ……」
「かなり震えているみたいだけど?」
「い、嫌だなぁ……武者震いってやつですよ……」
「嘘つけ!」
フィーアは、とんでもないぐらいにビビりまくっていた。
確かに命を落とすかもしれない戦いだ。
それぐらい怯えてしまうのも仕方ない。
……でもまぁ、きっと武器を手にしたら落ち着くんだろうけど。
人の文字を書いて飲み込むより、銃を手に取った方が格段に効果があることだろう。
「うっせえな。お前ら静かにしてろ」
近くの岩に寄りかかって目を瞑っていたアギトから苦情がきた。
「ア、アギトさん……なんでこんなときに寝ていられるんですか……」
「寝てねーよ」
「アギトは昔からどこでも寝られるんだよね」
カリーナが岩の影からひょこっと出てきた。
「やっぱり寝ているんですね……」
「だから寝てねぇって」
この1年でアギトは段々と怒らなくなってきた。
心境に変化があったのか、それとも怒ることに疲れたのか。
とりあえずフィーアがアギトに対して昔よりも怯えることは無くなったことだけは確かだ。
その証拠に今も自然に会話をしている。
「アギトはご飯食べている最中に寝たりするぐらいだよ。この場面で寝ない訳ないよね」
「えぇ……凄いですね。じゃあ今も話している最中に寝てたりとか……?」
アギトの眉間に段々とシワが寄せられていく。
「十分ありえるね」
「え、いや、でもまさか、そんな……」
「だから寝てねぇって言ってんだろうが!」
我慢の限界をむかえたようだった。
アギトは目を開け、二人に向かって怒鳴った。
「ご、ごめんなさいぃぃ!」
すぐさまフィーアは頭を下げて謝罪する。
流石のアギトもからかわれるのは我慢出来ないようだ。
たぶんフィーアはからかっているつもりは無いんだろうけども。
「あ、起きた」
「いつまでからかってんだお前」
「てへ」
カリーナが片目を閉じて舌を出すもアギトは溜息を吐いて何も答えない。
そして、そのままアギトは俺の方へ向かってきた。
「そろそろ戦いは始まるみてーだが、お前には絶対負けねぇからな」
威嚇するようにアギトは低い声で言い放った。
この宣言は毎度お馴染みだった。
事あるごとにアギトが俺に戦いを挑んでくるのは1年経っても変わらない。
……ん、そろそろか。
俺がそう思ったタイミングでクルトはパタンと読んでいた魔導書を閉じた。
そのままクルトは立ち上がり身体を上に伸ばして、首を上下左右に傾ける。
大気中の僅かな変化、それにこの場で気付けた者は見た限り俺とクルトだけのようだった。
しばらくすると、地平線の先に魔物の大群が見え始めた。
冒険者達は武器を構えて、戦闘に備える。
「よっしゃあ、いっちょやったるぜぇ!」
「魔物ぐらい俺たちが蹴散らしてやる!」
周囲の冒険者達は皆、意気込んでいる。
ここは前線で冒険者のなかでもやる気に満ち溢れている者が多い。
「俺はてめぇより大きな戦果を挙げてやる」
アギトは剣を構えて、俺にそう宣言した。
「期待してる」
アギトがこうやってライバル心を燃やしてくれているのは正直ありがたい。
俺も負けられないと思えるからな。
「……お、おい……なんだありゃ……」
「マジかよ……あんな化物が混じってんのかよ……」
さっきまで意気込んでいた冒険者達の雰囲気が一変する。
なるほど、魔物の中には強敵も複数いるようだ。
正直の魔物の中で大きな存在感を示すのはマンティコア。
一年前に苦戦したSランクの強敵だ。
「マンティコアなんて俺たち殺されちまう……!」
「流石にあれには敵わねぇ……どうすりゃいいんだ……」
マンティコアの存在で冒険者達の士気はかなり下がっている。
……さて、そろそろ良い頃合いか。
「クルト、頼んだぞ」
「ああ、分かっているよ」
クルトには皆を守ってもらえるように頼んである。
だからこそ魔物を蹂躙することに集中ができる。
そして俺は次の瞬間に冒険者達の中から抜け出し、魔物に向かって駆け出した。
すると、マンティコアも同じく口からヨダレを垂らしながら駆ける。
俺を獲物だと思っているようだ。
「悪いな」
《剛ノ剣》を使用し、マンティコアの首を出会い頭に斬り落とす。
《剛ノ剣・改》を使う必要は無いとすぐに分かった。
何故なら今の俺にマンティコアは脅威の対象ではなかったからだ。
「魔物の群勢の中で最も大きな魔力を発しているのは中心のようだな」
中心に行けば、この魔物達を操っている奴がいるのだろうか。
「行ってみれば分かることか」
俺は一人で納得し、魔物を斬り倒しながら群れの中を進んでいくのだった。
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