23話 ミノタウロス撃破
リヴェルがモンスターハウスを全滅させた頃、ミノタウロス戦も終わりを迎えていた。
(あの兎女……センスが良いな。危険察知能力が高く、ミノタウロスが攻撃を仕掛けてきても見事にかわしている)
ミノタウロスの隙を突くことが役割のアギトは、戦況をじっくりと観察していた。
フィーアはミノタウロスと距離を取りながら攻撃を続けている。
ダメージは微量しか入れることは出来ていないが、攻撃を器用にかわしている。
(危険察知能力だけじゃねーな。目も良いみたいだ。そうじゃなきゃあの至近距離の攻撃はかわせねぇ)
アギトの考えは当たっていた。
フィーアは非常に目が良く、本能的に相手の攻撃をかわすことが上手い。
(だが、兎女よりも驚くべきなのはあのクソ眼鏡だ。魔法を同時に二種類も使いこなすなんて見たことねぇ)
クルトが二種類の魔法を同時に使うためのスキル《多重詠唱》はかなり珍しい。
一流の魔法使いでも取得している者は少ないのだ。
フィーアのサポートをすると同時にミノタウロスに攻撃を仕掛けたり、もしくは制限している。
(クソ眼鏡が牛頭の行動を制限したからといって、まだ攻撃を仕掛ける訳にはいかない。絶好の機会を待つ)
そして、その機会は訪れる。
ミノタウロスが痺れを切らして、今までで一番の攻撃を仕掛けた。
巨大な斧には魔力を纏わせて、飛び上がったのだ。
アギトは今しかない、と思い駆け出した。
ミノタウロスが着地する瞬間、完全に無防備な状態となる。
アギトはそこを突く。
着地と同時に起きる地面が揺れることを想定し、アギトは適切なタイミングで飛び上がった。
「《炎剣・陽炎斬波》」
アギトの剣は炎を纏い、ミノタウロスの弱点であるうなじを斬り裂いた。
火属性魔法を剣に纏わせた難度の高いスキルをアギトは繰り出したのだ。
アギトが出せる全力の一撃を受け、ミノタウロスは地面に倒れるのだった。
◇
モンスターハウス……中々のものだったな。
Cランク、Bランクの魔物を複数体相手するのは結構厳しい。
途中から集中力が高まって、攻撃を貰う回数は減っていったが、まだまだ自分は実力不足だと実感した。
まぁそれはさておき、せっかくだから魔物達の残骸を回収しておこうか。
Cランク以上の魔物の素材はそれなりに良質なものが多いはずだ。
一つ一つ《英知》で調べていってもいいが、めんどくさいので俺は地面に転がっている魔物の残骸を適当に《アイテムボックス》にぶち込んでいくことにした。
「ちょ、ちょっとリヴェル君!? 一体何してるの!?」
カリーナさんが大声をあげた。
「あー、俺は《アイテムボックス》のスキルを所持しているんですよ」
「……なんで?」
「便利ですよね、これ」
「便利だけど! 便利だけど、なんで!? 冒険者で《アイテムボックス》を持っている人なんて中々いないよ!? だから運び屋に需要があるっていうのに!」
「……えーと、取得したのは成り行きですね」
塩を運ぶためだったな。
「ハァ〜、リヴェル君にはさっきから驚かされてばっかりだ」
「アハハ……」
俺は笑うことしか出来なかった。
《アイテムボックス》で魔物を回収していると、20階層からみんなが戻ってきた。
ミノタウロスを倒して、すぐに戻ってきてくれたみたいだ。
「リヴェル! ミノタウロスは倒し──」
クルトは19階層の有様を把握すると、言葉を失っていた。
「なんですかこれ……」
フィーアは困惑した表情で言った。
「あー、いつの間にかモンスターハウスの敵、全部倒しちまった」
「えぇ……まぁでもリヴェルさんらしいですね」
「まったく……君って奴はいつも僕たちの予想を越えてくるな」
フィーアとクルトは俺の行動に呆れながらも笑ってくれた。
しかし、笑ったのは二人だけではない。
「くっくっく……ハッハッハ!」
19階層を見渡したアギトは突然、大笑いした。
「ったく、こんなのどう見たって俺たちの負けじゃねぇか」
そう言って、アギトは「ほれ」と、大きな白い角を放り投げてきた。
えーと、どういうことだ?
たぶんこれって……。
「ミノタウロスの堅牢な角か?」
「バーカ、それ以外に何があるんだ」
「良いのか? 倒したのはお前なんじゃないか?」
「……ッチ、黙って受け取ってろ」
アギトは機嫌が悪そうだ。
「リヴェル君、ごめんね。アギトは素直にありがとうって言えないんだよね」
「誰が感謝したんだァ? してねえだろうが!」
「まぁこの通り、アギトは正々堂々と戦うのが好きなんだ。その角は受け取ってくれよ。アギトが負けを認めたんだからさ」
「なるほど、アギトは案外いいヤツなんだな」
「ちげーよ、バカ。いらねぇならその角返せ」
「貰えるものは貰う主義だ」
せっかく角を渡してくれると言うんだ。
ここはありがたくクエストを達成させてもらおうじゃないか。
こうして俺は初のBランククエストを無事に終わらせたのだった。
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