22話 これもただの努力
20階層に待ち受けるボスモンスター、ミノタウロス。
牛頭人身獅子の牙を持つ怪物だ。
その両手に人間では到底扱いきれないであろう巨大な斧を持っている。
先頭を走るアギトが20階層へ足を踏み入れると、ミノタウロスは静かに紅い瞳を開き、雄叫びをあげた。
雄叫びはミノタウロスを中心に円状に広がる20階層全体に響き渡った。
アギトはミノタウロスが放つ威圧と殺気を確かに感じ取っていた。
「上等だァ! 牛頭が俺様に勝てると思ってんじゃねぇぞ!」
「おい、一人で勝手に行くな!」
アギトよりも少し遅れて20階層に到着したクルトは大声を上げた。
「っせーな、黙って見とけ」
クルトの発言に反発するようにアギトは移動を加速させ、瞬時にミノタウロスに接近した。
そして繰り出す一撃をミノタウロスは巨大な斧で防ぐ。
「流石にその斧は飾りじゃねえよな」
二撃、三撃と、正面からアギトは相手に反撃の隙を与えないように怒涛の連撃を繰り出す。
「だが所詮は魔物。技術はねえようだな!」
そして、アギトの攻撃を防ぎきれなくなったミノタウロスに一撃が入る。
このまま続けて急所である顔に攻撃を仕掛けていきたいところだが、違和感に気付く。
攻撃に全くと言っていいほど手応えがないのだ。
「「アギトさん! 危ない!」」
『レッドウルフ』の二人が叫んだとき、ミノタウロスは巨大な斧を大きく振りかぶっていた。
ミノタウロスはアギトの言う通り魔物だ。
だからこそ、ミノタウロスを人と捉えてはいけない。
Bランクの魔物に技術は無いからと言って、弱いなんてことはありえないのだから。
「ッ──!」
ミノタウロスの攻撃を避け切れないと判断したアギトは剣を盾にして、防御に徹した。
攻撃に耐え切れず、吹き飛ばされるアギト。
まさに、肉を切らせて骨を断つ。魔物らしい戦い方だ。
「人の話を聞かないからこうなる。あのミノタウロスが纏っている魔力の大きさは19階層にいたBランクの魔物よりも上だ。一筋縄でいく相手じゃない。力を合わせよう」
「うっせぇ……俺はまだ負けてねぇ」
そう言うアギトは額から血を流しており、両腕もかなり痛む。
それでもアギトは剣を握って離さない。
アギトが怯んだこのタイミングでフィーアはミノタウロスに銃弾を放った。
おかげでミノタウロスはアギトへ追撃することなく、負傷したアギトよりもフィーアを標的としたのだ。
「僕たちがすべきことはミノタウロスを直ちに討伐すること。19階層にはお前の仲間もいる。つまらない意地を張るのはやめるべきだろう」
アギトはその言葉を真摯に受け止めた。
クルトの言う通り、つまらない意地を張っていることを自覚していたからだ。
「……それで、どう協力するつもりだ?」
「ミノタウロス の弱点はうなじだ。あそこだけ纏っている魔力が弱い。僕たちが戦っている隙に弱点に強力な一撃をお見舞いしてやってくれるか?」
思えば、ミノタウロスがフィーアに標的を変えたのにはこの弱点も関係しているのではないかとクルトは考えた。
ミノタウロスはフィーアからの攻撃を受ける前、間違いなくアギトへ追撃するために動こうとしていたはずだ。
それをやめて、フィーアに標的を変えたのは、フィーアとアギトの位置がミノタウロスにとって脅威だったからだ。
フィーアは20階層の入り口付近にいることに対し、アギトはその奥。
ミノタウロスは二人に挟まれる位置だ。
もし、ここでアギトに追撃を仕掛ければ弱点であるうなじがフィーアに対して露わになるのだ。
この事実とうなじを纏う魔力が弱いことから、弱点は間違いなくうなじであるとクルトは確信した。
「ああ、やってやる。その代わりてめぇもちゃんと役目を果たせよ」
「ハハ、もちろんさ」
クルトは自信ありげに笑うのだった。
◇
カリーナの冒険者歴は3年だ。
それまでにモンスターハウスに何度か出くわしたこともあるし、同じような窮地を何度か乗り越えてきた。
(でもこのモンスターハウスは異常……。今までダンジョンを潜ってきて、他の階層、それも下の階層の魔物が出てくることなんて一度も無かった)
カリーナは襲いかかる魔物達の攻撃をかわして、確実に1体を仕留めていく。
カリーナは【探検家】で索敵と戦闘を器用にこなす才能の持ち主だ。
器用であればあるほど戦闘が疎かになりがちだが、カリーナはAランク冒険者になるだけの実力はしっかりと身につけた。
(だけどこのモンスターハウスよりも異常なのは目の前の彼──リヴェル君だ。たった一人で四方八方から魔物の攻撃が飛んでくる19階層の中心に行き、まともに戦えているなんて……どうかしているわ)
カリーナがいるのは前方からの敵だけに意識を集中することが出来る19階層の端。
それこそ、モンスターハウスを相手に耐える正しい立ち回りだ。
一方、リヴェルの行動は耐えるとはかけ離れた行為。
一見、自殺行為にも見えるが、リヴェルは凄まじい勢いで成長を遂げていた。
攻撃を受けても瞬時に傷痕に回復魔法を自分でかけ、一撃で敵を倒す。
そして次第に自身が置かれた環境に順応していく。
しばらくすると、リヴェルは攻撃を最小限の動きで行うようになった。
剣を大きく振るのではなく、小さく、的確に敵の急所を狙う。
そうすることによって、攻撃後に敵の攻撃をかわすための余裕が生まれるのだ。
その結果、リヴェルとカリーナは19階層の魔物を全て倒した。
リヴェルの周りには大量の魔物の残骸が転がっていた。
カリーナは認めざるを得なかった。
リヴェルがアギトよりも、そして自分よりも強いことを。
(あの成長速度は天才のそれだ……。ただの天才では済まされない。卓越した天才……)
力を出し切ったのか、リヴェルは魔物達の残骸の上で立ちつくしていた。
「リヴェル君……貴方は一体、何者なの?」
カリーナがそう問う。
リヴェルはカリーナの方を向き、笑顔で答える。
「何って、ただの努力家ですよ」
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