14話 一件落着
【書籍化のお知らせ!】
第1巻
出版社:アース・スターノベル 様
イラストレーター:紅林のえ 様
発売日:6月15日
既に予約注文も始まってますので、是非よろしくお願いします!
レクスさんとの手合わせを終えると、
「なるほど、確かに実力は本物のようだ。『ナイトメア』の情報を金貨100枚で引き受けよう」
メアさんは表情を変えずに、そう言った。
「その金貨100枚だが、俺から支払わせてもらおう。もともと1000枚でも支払おうと思っていたわけだからな。金貨100枚ぐらい容易いさ」
「メアさん……レクスさん……ありがとうございます」
この金貨100枚は近いうちに必ずレクスさんに返そうと思った。
言葉にすると、レクスさんの好意を無下にしてしまいそうに思えたから心の中に留めておく。
「気にすることはない。私はただ約束を果たすだけだ。礼を言うならそこの敗者にだけでいい」
「ぐぬぬっ」
敗者という呼び名にレクスさんは顔をしかめた。
メアさんは翌日また此処に来てくれ、と言って今日は終了になった。
レクスさんには俺がギルド『テンペスト』に所属していることを伝えた。
レクスさんはテンペストを知らないようだった。
ロイドさんと父さんは面識があるようだけど、レクスさんとは無いみたいだ。
……それにしても父さんは色々な人から絶大な信頼を寄せられていることが分かる。
父さんは剣聖としての実力だけでなく、人望も凄まじく厚い。
この人望の厚さが【剣士】である父さんが剣聖まで登り詰めた理由だろう。
俺が世界最強になるには、父さんを超えるだけの力を身につけなければいけない。
それは実力だけでなく、多くの人から好かれるように人格を磨く事も必要なのではないか、と少し思った。
◇
数日後の深夜、俺は『テンペスト』にいた。
これより『ナイトメア』の計画は実行される。
メアさんに教えてもらった情報はかなり役に立った。
奴らの狙いは、ギルドで寝泊りしているラル。
今日という決行日。
そして潜入方法は魔導具だということ。
魔導具についてはすぐに目星がついた。
ノアという男が座っていた机の裏を見ると、ちゃんと仕掛けが施されていたからだ。
机の裏に貼り付けられた札。
それも普通の人では見えない透明な札だ。
認知するには札が僅かに発している魔力を感じとらなければいけない。
そのうえ、この札には転移魔法が施されており、かなり上質な魔導具だと分かる。
ノアが『テンペスト』に訪れていたのは、ターゲットを定めることと、この札を貼るためだ。
俺は気付いたが、あえて札を剥がすことをしなかった。
札を剥がせば、また日をずらして攻撃を仕掛けてくる。
何の解決にもならない。
だから今日に決着をつけることを俺は選んだのだ。
「いよいよだな」
暗がりで話しかけるのは、レクスさんだ。
協力を頼むと、レクスさんは快く引き受けてくれた。
こんな夜遅い時間に付き合わせてしまって申し訳ないが、レクスさんの協力は何よりも心強い。
「はい」
「リヴェルは不安になったりしないか?」
「不安ですよ。でも、不安を恐れては何も出来ませんから」
「確かに、その通りだな」
そのとき、札が唐突に青白く光り出した。
強い光が発せられ、暗闇を明るく照らす。
魔導具が発動したのは明白だった。
光が消えると、現れたのは二人の男。
一人はノアと名乗った男で、もう一人はノアよりも小柄で俺と背丈があまり変わらない男だ。
「──おかしいな、まさかまだ人が残っていたとは」
「あちゃー。じゃあ仕方ないなぁ。不本意だが殺すしか無いようだぁ」
口角を吊り上げて小柄な男はそう言った。
「待て」
ノアがそう言うも小柄な男は聞かずに、ナイフを構えて俺目掛けて突っ込んできた。
素早い動きだが、見えないわけでは無い。
速さだけで言うなら今まで一番速いが、それだけだ。
単調な動きで、レクスさんに比べれば実力の差は歴然だ。
小柄な男は真正面から攻撃をしてくるのではなく、俺の目の前で加速し、背後に回った。
「まぁそうだよな」
「──は?」
突き刺してきたナイフを避けて男の頭を掴み、地面に叩きつけた。
これで意識はもう無い。
「まったく、人の話を聞かない癖はいつまでも治らないな」
ノアはため息を吐いた。
「久しぶりですね、ノアさん」
「ああ、久しぶり。まさかこんな形で再会することになるとは思わなかったよ」
「ええ。初対面のときに違和感を覚えたので、色々と対策を取らせて貰いました」
「なるほど、じゃあリヴェルは俺の想像以上の奴だったってことだ。『ナイトメア』の名前を出したところで辿り着けるわけないと思っていたが……素晴らしいな。それに隣にいる男もかなり強そうだ。俺に出来ることはもう逃げるぐらいだ」
「この男みたいに襲ってきたりも出来ますよ」
「俺はそいつよりも状況をちゃんと見ている。勝てるわけがない。見逃してくれないか?」
「良いですよ」
俺がそう言うと、レクスさんは驚いた顔をしたが、何も言及はしなかった。
「……マジかよ。本気で言ってるみたいだし、リヴェルのお人好しに感謝して俺はとっとと逃げるとするぜ」
「この人は良いんですか?」
「ああ。バカの面倒見るのは面倒くさいからな。そこまでの仲でもないし、適当に処理しておいてくれると助かる」
「分かりました。では見逃す代わりに一つだけ伝言を頼まれてくれますか?」
「お安い御用だ」
「今回の件を企てた人に『次は容赦しない』と伝えておいてください」
「分かった。それじゃあな」
ノアはそう言うと、魔導具を使用して去って行った。
「何とも呆気ない終わり方だったな」
「そうですね」
「見逃す選択には驚いたが、アデンさんもそうしたような気がするな。……で、コイツはどうするよ」
「とりあえず、この男の身柄は騎士団に渡そうと思います」
「犯罪者だろうし、そうしておけばお前の実績にもなるからな。まぁともかく無事に終わって何よりだ」
「はい。今日は本当にありがとうございました」
「よせよー。俺は何もしてないぜ」
「いてくれるだけでかなり助かりました。レクスさんがいないと、見逃すという選択もできなかったと思います」
「ハハハ、じゃあ役に立てたようで俺も良かった」
……そういうわけで、無事に『ナイトメア』からの攻撃を防ぐことができた。
翌日、俺は襲いかかってきた小柄な男の身柄を騎士団に渡した。
ジョニーは公になっていないと言っていたが、犯行自体は調べられており、取り調べの結果正式にAランク犯罪者として扱われることになったようだ。
結果、金貨150枚を賞金として貰い、そのうちの100枚をレクスさんに返した。
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