11話 対価
フレイパーラの南部にある路地裏。
灰色の廃れたように見える店の前に俺はやってきた。
店名の書かれていない看板を見ると、ここで本当に商売が行われているのかと不安になる。
しかし、情報屋を営んでいくならこういった店が一番適しているのかもしれない。
この店を見つけるまでの経緯は主に聞き込みだ。
フレイパーラも治安が良いわけではない。
路地裏をうろついていれば、お世辞にも善良とは言えない輩が絡んでくる。
彼らから得た情報をもとに《英知》を駆使して、この店に辿り着いた。
ここが本当に情報屋なのか? と不安を覚えながら、店の扉を開いた。
店の奥からは会話が聞こえてくる。
内容はよく聞こえないが、二人以上の人はいるようだ。
店の中は薄暗いが、棚に商品と思われる雑貨品が陳列されていた。
それを一瞥し、俺は店の奥へと歩いていく。
「悪いが、その依頼は情報が抽象的すぎる。情報屋を頼っても無駄だよ」
「そこを何とか出来ないか? 金ならいくらでも支払う」
年季の入った椅子に腰掛けるのは女性だろう。
帽子を深く被っているため素顔が見えないが、声の高さと体付きからして男性ではないはずだ。
その女性に必死に頼み込む銀髪の男性。
男性は腰に剣を携えており、何処となく佇まいが父さんと似ているような気がした。
「話にならないね。帰りな、客が来た」
女性は帽子を片手で上げ、俺を目視した。
「ほほう、珍しい。若い客だな。それとも客ではなく迷い込んだのかな?」
「いえ、情報が欲しくてここに来ました」
「なるほど、では正式に君を一人の客として対応させてもらうとしよう。邪魔者は帰った帰った」
どうやらこの女性が情報屋みたいだ。
そうなると、この銀髪の男性は客だった人か。
先ほどの話を聞くに、彼の要求する情報は女性の手に負えないものだったので既に客として対応してもらえていない、ということか?
女性に帰れ、と言われているが男性が動く気配はない。
俺を見てから、立ち止まったままだった。
「……も、もしかして……君は……剣聖アデンの息子かい?」
あれ?
これ、ロイドさんのときと同じ展開では?
「そうですけど……」
「おお! やっぱりそうだったか!」
銀髪の男性はめちゃくちゃ喜んでいる様子。
この人、絶対父さんの知り合いだ。
間違いない。
「良かったじゃないか。その人の依頼は君に関する情報だったからね。本人が見つかって何よりだよ。……まぁそれはそれとして、君が求める情報は何?」
なるほど、俺を探していたのか。
だとすればあの反応も納得だが、情報屋の彼女は無視をして次の客である俺に言葉を向けている。
俺としても話がすぐに進んでくれるのはありがたい。
「ギルド『ナイトメア』に関する情報を出来るだけ詳しく知りたい」
「へぇ、まさかナイトメアという単語が出るとはね。やるじゃないか」
「その様子だと知っているみたいですね」
「当たり前だろう。私を誰だと思っている? この街のことなら大抵のことは知っている。それがどんなことであろうとね。さて、自己紹介が遅れた。私の名前はメア。よろしく頼むよ」
「俺の名前はリヴェルです。よろしくお願いします」
「それで、リヴェルはナイトメアに関してどこまで知っている? まずはそこからだ」
俺はメアさんに知っている情報を話した。
ナイトメアは表向きは普通のギルドであること。
実力の高い犯罪者が二人以上所属しており、裏で何をやっているのか分からないこと。
そして、ナイトメアに俺の所属するギルド『テンペスト』が狙われている可能性があること。
「なるほど、狙われている可能性を危惧してその対応策を練ろうと情報屋に訪れたわけか」
「はい」
「分かった。じゃあ、お前に教える情報は多くない。一つは本当に狙われているのかどうか。狙われていた場合は、ナイトメアの作戦を教えてやる」
「……そんな情報を知ることができるんですか?」
「ああ、可能だ。不満か?」
「いえ、その情報を頂ければかなり助かります」
「よし、ではその方向で進めよう。報酬は金貨1000枚だ」
「1000枚!?」
「払えないか? ならこの話は無かったことにしてもらおう」
手持ちの金貨は30枚ほど。
残り970枚か。
稼ぐには少し時間がかかりそうだ。
「少し時間がかかってしまいますが、払えると思います」
「そうか。じゃあ用意出来たらまた此処を訪れてくれ」
あくまで先払いということか。
だが、金を稼いでいる余裕なんて今は無い。
困ったな……。
「金貨1000枚、僕が払うよ」
そう言ってきたのは、銀髪の男性だった。
「え、いいんですか?」
「ああ、もちろん。アデンさんの息子さんだからね。それに僕はもともと君を探すためにかなりの額を使うつもりでいた。金貨1000枚で済んだと思えば安いものさ」
「ありがとうございます。助かります」
「ただ、一つ僕のお願いを聞いてくれるかな?」
「お安い御用です」
「そうか。じゃあ僕と……いや、ちゃんと名乗った方がいいね。──剣聖レクスと手合わせしてもらえるかな?」
「剣聖……って、マジですか……?」
「ああ。勝ち負けは関係ない。手合わせしてくれるだけで金貨1000枚を払おうじゃないか」
【皆様へのお願い】
「面白そう」
「続きが気になる」
「更新応援しています」
「書籍化おめでとう!」
少しでもそう思って頂けたら、
下にある「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にしてくれると励みになります!
(……評価してもらえると、モチベがめちゃくちゃ上がるので最高の応援になります)




