10話 要塞
『ナイトメア』について《英知》で調べてみた。
結果は至って平凡な冒険者ギルドだった。
設立してから年数は経っており、実績に大きなものは無いが堅実に結果を出している。
だからこそ、俺は一層警戒心を強めることにした。
《英知》で調べることの出来る情報は秘匿されていないもののみ。
言うなれば表側しか見ることのができないのだ。
その実態は分からない。
……あのノアという男が出した魔力の波レベルでしかない僅かな異変。
それがどうしても気がかりだった。
「杞憂だったらいいんだけど、一応な」
そんなことを呟きながら俺はある場所へ向かった。
俺がやってきたのは外壁の近くに建てられた要塞だった。
大きな建物で外部の敵による攻撃を対処するための防衛施設だ。
門の前には鉄の鎧に身を包んだ騎士二人がいる。
此処は、フレイパーラの秩序を守る騎士団によって管理されている。
「何か御用ですか?」
門に近づいた俺に騎士がそう声をかけてきた。
「此処は一般の方は立ち入り禁止だ。用がないならとっとと帰んな」
もう一人の騎士は、追い払うように手を振った。
「地下牢獄に収容されているはずのある囚人と話がしたい」
「……ハァ、たまにいるんだよなぁ、そういう奴。坊主、確かに此処の地下では犯罪者共を収容しているけどよ、そいつらと面会するにはそれ相応の実力と地位が必要なんだ。Cランクの冒険者にでもなってから出直してくるんだな」
冒険者はランクによって権限が大きくなっていく。
此処に収容されている囚人と面会するには最低でもCランク以上が必要となってくるわけだが、Bランクの俺はその条件を既に満たしている。
「承知していますよ」
俺はランクの証明にもなるギルドカードを取り出して、二人に確認のため渡す。
「……これは失礼いたしました。今、門を開けますね」
礼儀の正しい方の騎士がお辞儀をして、門を開け始めた。
「……まさかBランクの冒険者だったとは」
「意外でしたか?」
「その歳でBランクなんて思わねーよ普通。……失礼な態度とってすんません」
ばつが悪そうにもう一人の騎士は謝った。
「大丈夫です。気にしていませんから」
俺はそう言って、要塞の中に入って行った。
◇
地下に行き、囚人と面会するための部屋に案内された。
俺は此処に収容されている囚人を《英知》で調査済みだ。
その中で良さそうな人物を面会相手に選んだ。
騎士によって面会室に連れて来られたのは、口元が大きく裂けた男だった。
この男はBランク犯罪者の大喰らいのジョニー。
暗殺者で確認されているだけでも12人もの人を殺めている。
仮に『ナイトメア』に裏の情報があるとすれば、それを聞き出せるのは裏の人間だ。
Bランクに指定されるほどの犯罪者であれば、表には絶対に出ない裏の世界の情報を知っていてもおかしくはない。
騎士はジョニーを連れて来たあと、退室した。
それは俺がBランクの権限を使い、騎士の立ち会いを拒否したからだ。
そうした方が囚人が情報を話してくれやすくなるだろう、と思ってのことだ。
「面会相手はただのガキか……いや、面識のないガキと俺が面会していることが異常だと思うべきか」
「初めまして、よく喋ってくれそうな人でホッとしました」
「まあな。俺も地下牢獄での暮らしは退屈なんだ。ガキよりも綺麗な姉ちゃんと話しがしたいところだが贅沢は言わねぇ」
「そうですか、面会時間はあまり多くないので本題に触れされてもらいますね。ジョニーさんは『ナイトメア』という冒険者ギルドをご存知ですか?」
「悪いが知らねえな」
……嘘か。
こういう情報が欲しい際は《真偽判定》が大きく役立ってくれるな、と実感する。
そして、この時点で悪い予感はほぼ的中していたも同然だ。
「ではノアという人物に心当たりは?」
「誰だ? そいつは」
嘘は言っていないようだ。
「なるほど、分かりました。では『ナイトメア』について知っていることを教えてください」
「あ? 知らねえって言ってんだろうが」
「ノアという人物は知らないが『ナイトメア』については心当たりがある、違いますか?」
「……お前何者だ? その歳で犯罪者を相手にどうしてそこまで堂々として、強気で、自信満々な態度を取っていられるんだ?」
「さあ……精神的苦痛にはかなり慣れているからかもしれません」
魔力枯渇状態を1日に10回も経験し、かなり精神面が鍛えられているのかもしれない。
そんなことを少し思った。
「……俺の口から全てを語ることは出来ない。だが『ナイトメア』には手を出さない方が身のためだ」
「手出しはしませんが、どうやら狙われているみたいなので対処しなきゃいけない事態に陥ってます」
「……くっくっく……そいつは傑作だな。じゃあお前に少しだけ情報をくれてやろう。『ナイトメア』にはAランクの犯罪者が一人、Sランクの犯罪者が一人、身を潜めている」
「それはかなり脅威ですね」
「そのランクは俺が独自でつけたものだ。何も公にはなっていない」
「……なるほど」
厄介な相手だな。
「後のことは裏世界の情報屋から聞くことだ」
「情報屋?」
「……ハァ? まさか、お前そんなことも知らねーで俺のところにやってきたっていうのか?」
「はい」
「……なんだその発想力は。頭おかしいんじゃねーのかお前」
「たまにそう言われるかもしれません」
「だよな。とりあえずは情報屋を探すことから始めるんだな」
「そうしようと思います」
ジョニーが言っていることは全て本当のことだった。
最初しか嘘はついていないのである程度信用できそうだ。
「しかしまぁお前は不思議な奴だな。知らず知らずのうちに人の内側に入り込んで来やがる。ったく、そのせいでつい色々と教えちまった」
「ありがとうございます。おかげでもの凄く助かりました」
「バーカ、犯罪者に感謝してんじゃねーよ」
面会は終了となり、俺は要塞を後にした。
色々と情報を聞き出せて良かった。
これ以上の情報を得るにはその道のプロに尋ねるしかない。
情報屋を見つけるべく俺はフレイパーラの街を探索することにした。
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