6話 初の依頼達成
貴族の屋敷にやってきた。
門番がいて、その人に依頼を受けた冒険者であることを伝えると中に入れてもらえた。
整備された大きな庭。
そこに長方形を少し歪ませたような穴が彫られていた。
排水できそうなものも用意されており、間違いなくこれが池の予定地になるのだろう。
「よく来てくれた! 最近、我が屋敷に池を作りたくなってな。人手に困っていたところなのだ」
現れたのは、高貴さを感じさせる衣装を身に纏った少し老けた男性だった。
発言から察するに、この男性が屋敷の主人であり、俺の依頼人だろう。
「はじめまして。本日はよろしくお願いいたします」
「うむ。報酬は内容に吊り合わないものを用意しておいた。相応の働きを期待しておる」
「ありがとうございます。お任せください」
「やってもらいたいのは池の水を汲んでくることだ。少し離れたところに井戸がある。活用してくれたまえ。……ふむ、しかし君一人に任せて大丈夫なのかと不安になってきたな」
「大丈夫です。すぐに池を作ってみせましょう」
「信用ならんなぁ。冒険者なんぞに依頼すべきではなかったかもしれんな。毎回仕事が雑で最近は依頼を控えていたのだ」
口振りを聞くに、このクエストはウチのギルドに直接依頼したわけでは無さそうだ。
冒険者ギルド連盟に依頼し、多くのギルドに依頼されているものだったか。
となると、このクエストは余り物に分類されるのかもしれない。
誰もやりたがらなかったクエスト……か。
「なるほど、しかし安心してください。この依頼はすぐに終わりそうだから引き受けたので」
「ほう? どうやってすぐ終わらすと言うのだ?」
「簡単です。魔法を使えばいいのですから」
「魔法だと? この池を満たす量の水を魔法で用意するというのか?」
「はい、その通りです」
「……やれやれ。とんだ大馬鹿者がいたものだ。この依頼を受けるような冒険者に、この池を満たすほどの水魔法を使える者は誰一人おらんだろうに。どれだけの魔力が必要だと思っておるのだ。私をこれ以上失望させてくれないでくれ」
「まぁ、とにかくやってみましょう」
俺は池の予定地の前に立ち、水魔法を使う。
水をどこから出すか迷ったが、腕を伸ばし、手の先から出すことにした。
勢いよく噴出される水。
池は数分もしない内に出来上がった。
魔力の消費量としては、全体の2割ほど。
依頼主の発言では、この依頼を受ける冒険者、だいたいDランクになるか。
そのDランクで魔法を使う才能を持つ者の魔力の量は、この池を満たすほどの水が出せないのか。
となると、俺の魔力量は少なくとも同年代の5倍はありそうだ。
「出来上がりましたよ」
「………………お主、歳はいくつだ?」
「12歳です」
「…………ありえん……その歳でこれだけの魔力を持つ者がいるわけが……」
「池はこれで大丈夫ですかね?」
「……ああ。もう一つ聞いてよいか? お主の才能は何だ?」
「才能は【努力】です」
「【努力】だと……? ……ということはお主が今年のフレイパーラ新人大会の優勝者か?」
「そうですね」
「……なるほど、納得だ。今年の優勝者は例年と比べて格が違うらしいな」
例年の優勝者を知らないため、何とも言えない。
《英知》で調べてみようかと一瞬頭をよぎったが、別にその必要は無いなと判断した。
◇
そして、俺は無事に初の依頼を終わらせ、テンペストに戻ってきた。
「エレノアさん、ありがとうございました。さっきのクエスト、すぐに終わりましたよ」
移動時間を含め、15分ほどで終わった。
「……随分と早いですね。屋敷まで少し距離もあるのに……。私、リヴェルさんが戻ってきたのを見て、道に迷ったのかなと思いましたよ」
移動は建ち並ぶ屋根の上を走って行ったので、屋敷に早く到着することが出来た。
「流石に道には迷いませんよ。さっきみたいなクエスト他にもあります?」
「そうですね……。迷子になったペットの捜索依頼とかありますけど」
「あ、それいいですね。ペットは何の動物ですか?」
「猫ですね。……でも、捜索依頼は見つからなければ結構時間がかかってしまいそうですけど……」
「猫なら多分大丈夫です。その依頼引き受けといてください」
「わ、分かりました。それでは、これが捜索依頼の猫の特徴と依頼主のご自宅です。見つけ次第、送り届けてあげてください」
「了解です」
そう言って、俺は再びテンペストから出て行った。
捜索依頼と聞いて、ピンと浮かんだのは探知魔法だ。
これを使えば、すぐに見つけられそうな気がする。
以前、猫を見たとき魔物同様僅かに魔力を発していた。
探知魔法を使うと、フレイパーラには多くの魔力反応があった。
その中から猫が発するものだけを絞り込むが、それでも反応はまだ多い。
しらみつぶしに探していくしかなさそうだ。
運要素もあるが、先ほどよりも時間がかかることが考えられるので、同時に鍛錬も行うことにした。
俺は魔法で自身の周りにある酸素の濃度を薄くする。
父さんが作り出した鬼火を参考に俺が考えた魔法だ。
呼吸がしにくいこの環境での運動は、効率良く持久力を鍛えてくれる。
そして、30分後。
俺は猫を見つけ、依頼主のもとに届け、テンペストに戻った。
「さっきのクエスト終わりましたー」
「はやっ! リヴェルさん早すぎますよ!」
「でも30分ぐらいかかりましたよ?」
「普通、クエストはそんなに簡単にすぐ終わらせることは出来ません! ……たぶんDランク帯のクエストは、全てこれぐらいの早さで終わらせられると思いますので、ガンガン引き受けていきましょう」
「そ、そうですか?」
「はい、次これ行ってきてください!」
エレノアさんに笑顔でクエストの紙を渡された。
その後、俺はクエストとテンペストの往復を繰り返し、1日で7個のクエストを終わらせるのだった。
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