4話 スキル《魔力超回復》
父さんの道場にやってきた。
しかし周囲がそれを歓迎してくれる様子は無い。
「おい。俺は知ってるぜ。お前の才能【努力】なんだってな? ギャッハッハッハ」
「「「ハッハッハッハッハ」」」
【剣士】の才能を貰った新たな門下生達が笑う。
「才能が【努力】なんて剣の才能ゼロじゃねーかよ。邪魔になるから来るんじゃねーよ」
酷い言われようだ。
顔見知りの門下生達も【努力】を擁護するのは無理だと思ったのか、俺と顔を合わせようとはしない。
「リヴェル、お前面白い才能を貰ったそうだな」
いや、一人だけいた。
こいつは昔から道場に通っているカルロだ。
カルロの父さんは、この道場の師範代で上位剣士である。
「まあな」
「お前にお似合いの役立たなそうな才能だなぁ!」
そしてカルロは俺を嫌っている。
「そういうお前は【上位剣士】の才能を貰ったらしいな。おめでとう」
「ああ、お前とは雲泥の差だぜ。なぁどんな気分なんだ? 親が上位剣士のくせに落ちこぼれになった気分はよぉ?」
父さんは剣聖という素性を隠して、上位剣士として道場を運営している。
上位剣士というだけで充分すぎるほど凄く、人に剣術を教えるに値する実力がある。
「さぁ……意識したこともなかったな」
「ケッ、じゃあ意識させてやるよ。親父! 模擬戦をやらせてくれ!」
現在、道場を仕切っているのは師範代であるカルロの父親だ。
父さんは最初だけ顔を出してそれっきりだ。
俺の修行のための準備をしているのは言うまでもない。
「模擬戦か。そうだな、この道場は剣士を鍛えるための場所だ。リヴェルがここの道場に相応しいかどうか見極めることもできるな」
「相応しいかどうか?」
師範代の発言に引っかかった部分を問う。
「門下生達の間では邪魔になるとの声も挙がっている。それに師範の息子が弱いのでは周りの士気も下がる」
「当たり前だよなぁ? そもそもお前は【剣士】ですら無いんだからよ」
「それで俺が相応しいと判断する基準は?」
「リヴェルは昔から剣術を習っている者だ。それに先程も言ったが、師範の息子が才能も無く弱いのでは周りの士気が下がる。カルロとの模擬戦で負ければ道場を出て行ってもらおう」
めちゃくちゃな。
父さんが道場を空けている隙にやりたい放題というわけか。
「なるほど、分かりました」
普通、師範代がこんなことを決められる権利は無い。
しかし相手が俺であるため、この話が通らなかった場合、師範が俺だけを贔屓しているように見える。
それに門下生達の考えを尊重しているという建前もある。
これは……嵌められているな。
野心の強いカルロ父は何か良からぬことを考えているのだろう。
「しかし、急な話ですし一ヶ月後にしませんか? 俺の才能は【努力】です。努力しなければ【上位剣士】の才能を与えられたカルロに勝ち目はないです」
「はぁ? 努力すれば俺に勝てると思ってるのか?」
「……ふむ。リヴェルの言い分も正しいな。だが、一ヶ月は長すぎる。3日だ」
3日……。
一ヶ月が約30日なのを考えると十分の一程度の時間しか猶予がない。
「なっ! 親父いいのかよ!」
「お互いが公平でなければならないからな」
カルロ父はニヤリと笑った。
全然公平じゃないが、まぁ3日間死ぬ気で努力すればいいか。
「ありがとうございます」
「そして3日間、道場の使用を禁ずる。これは他の門下生達の不満、そして迷惑にならないようにな」
「分かりました。では時間も少ないので失礼しますね」
そう言って、俺は道場を後にした。
3日後、俺はカルロと戦うことになったが、父さんの為にも負ける訳にはいかない。
◇
自宅に戻ってきた俺は道場へ通わずに強くなれる方法がないか模索していた。
漠然と努力していても効果は薄いため、明確な目標と方法がなければいけない。
スキルを取得することで強くなれそうな気はするが、中々簡単にはいかない。
なぜならスキル取得の条件は人によって違う。
才能がある者とない者がいるように、スキルにも適性がある。
だから極論を言えば、訓練してもスキルを取得出来ない人もいる。
まぁ大体は似通った条件になるらしいが。
そういうわけでスキルは努力の方向性が定まらないため難しい。
ってなると、
「魔法か……」
自室のベッドに寝転がって、天井を見つめた。
魔法には少し乗り気じゃない理由がある。
魔法の取得は《英知》があるため、理解さえすれば容易である。
しかし、ほとんどの人は魔力をあまり持っていないため魔法を使うことはできない。
魔力は専用の魔導具で数値化することができ、一般の人で大体10ぐらいだ。
数値化したことないので知らないが、俺も同じぐらいだろう。
ただ【魔法使い】の才能を貰うと、魔力は飛躍的に増えるらしい。
幼いころ、魔法を使ってみたくなった俺は試しに魔力を増やそうとした。
魔力は魔力が枯渇状態になった際に上限が増える。
だが枯渇状態になったとき激しい頭痛が襲う。
俺はそれに酷いトラウマを持っており、出来れば避けて通りたい道でもあった。
その激痛に耐えられる人は少なく、【魔法使い】の才能を貰わない限り、魔法の使用は難しいのだ。
「しかし、そうも言ってられないよな……」
よし、やってみるか。
魔力を体外に放出するやり方は知っている。
まず、体内にある魔力をイメージする。
それを体の中心からポンプで圧力かけるように外へ押し出すイメージで──。
「あがッ……ががががッ……」
激しい頭痛に襲われた。
頭が割れるような痛み。
意識が飛びそうで、額に汗が吹き出る。
呼吸が乱れる。
そして頭痛が始まってから10分を過ぎると、痛みは次第におさまった。
魔力が自然回復し、枯渇状態じゃなくなったのだろう。
1時間にも感じるような10分間だった……。
だが──。
「耐えられないなんてことはない……!」
もう一回だ。
「ぐッ……アアアアアァァ!」
死ぬ。
痛すぎて死ぬ。
痛い痛い痛い。
「ハァ……ハァ……もう一回……」
頭がおかしくなりそうだった。
だけど全ては強くなるため。
あいつの隣に立つには強くなるしかない。
才能のない俺が天才と並ぶには、人並外れた【努力】をするしかない。
「……ハァ……ハァ……とりあえず10回終わったな……」
俺は約100分間の間、激痛に耐えていた。
これ以上は本当にまずい。
頭がおかしくなりそうだ。
もうやりたくない。
だけど、明日も10回耐えよう。
まずは努力を継続して結果がどうなるかを見る。
[スキル《魔力超回復》を取得しました]
そんなメッセージが聞こえてきた。
……魔法のための努力をしていたら、何故かスキルを取得してしまったのですが。
「なんだ……? 《魔力超回復》って……」
《英知》を使って、調べてみる。
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◯スキル《魔力超回復》
魔力の自然回復量がかなり上昇する。このスキルは枯渇状態を何度も経験し、耐え抜いた者だけが取得出来る。
◯取得条件
魔力の枯渇状態から連続で10回魔力を自然回復させる。
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良いスキルで使い勝手も良さそうだ。
何より自然回復量が上昇するのは、魔力を増やすのに丁度いい。
だが《英知》を使ってみて驚いたことが一つあった。
「なんでスキルの取得条件が書かれているんだ……?」