1話 冒険者になった理由
【書籍化のお知らせ!】
第1巻
出版社:アース・スターノベル 様
イラストレーター:紅林のえ 様
発売日:6月15日
既に予約注文も始まってますので、是非よろしくお願いします!
ラルは仕事が山積みのようでこの場から離れていった。
俺は椅子に座りながら、ボーッとラルから渡された記事をまだ見ていた。
冒険者ギルド連盟により、多くの魔物はランクが定められている。
冒険者のランクと同じで魔物のランクはF〜Sで表される。
Fランクモンスターは危険性が低くて、Sランクモンスターは危険性がかなり高い。
Sランクモンスターであるマンティコアを単独撃破するのはSランク冒険者でも難しいはずだ。
英知で過去にマンティコアを討伐した事例を調べてみたが、どれもパーティを組んで討伐に臨んでいる。
だから、アンナには国中からかなり期待が寄せられているだろう。
困ったことになったな……。
一度注目を浴びれば、今後普通の女の子として暮らしていくのは難しい。
もともと戦いの場から離れることはかなり難しいと予想していたが、今回の一件でそれはほぼ不可能になっただろう。
それにアンナのことだから周囲の期待に応えようと、より一層訓練に励むはずだ。
「あの、リヴェルさんですよね?」
一人悩んでいると声をかけられた。
声をかけてきた人物は、俺の見知らぬ人だった。
緑色の髪をした同じ歳ぐらいの少年だ。
「そうですよ」
「や、やっぱり! えっと、俺、ウィルって言います! ……あの! よければ握手してくれませんか!」
ウィルは手を俺の前に差し出し、頭を深々と下げた。
「えーと、はい」
俺は少し困りながらもウィルの手を握った。
「ありがとうございます! 俺、大会でリヴェルさんの活躍見てめっちゃ憧れたんです! だからギルドも前入っていたところを抜けて『テンペスト』に加入したんです!」
「それは嬉しいですね。じゃあこれからよろしくお願いしますね」
「はい! よろしくお願いします!」
ふむふむ。
どうやら俺たちが想定していた通りの展開になってきたようだ。
ギルド『テンペスト』は廃れているが、土台はしっかりとしているため少しの改善さえ行えば、すぐにまた一流ギルドに返り咲くことが出来る。
ラルがそう思いつき、俺たちはテンペスト復興の計画を立てた。
まずは有名になり、ギルドメンバーを増やすことが最優先だ。
フレイパーラ新人大会は絶好の宣伝の場となる。
優勝できれば、かなりテンペストの注目度は上がる、と想定していた。
今話しかけてきてくれたウィルが良い証拠。
結果は早くも出始めているようだ。
「他に新しく加入した冒険者はどれぐらい居るとか分かります?」
「えーと、俺の他に2人ぐらい加入してたのを見ましたね。でも今は不在です。たぶん依頼をこなしているんだと思います」
「ふむふむ。教えてくれてありがとな」
ウィルの他に2人か。良い調子だ。
それに依頼をこなしているというのは、かなりの前進だろう。
以前までテンペストには依頼が何も来なかった。
こうして依頼を引き受けることが出来るようになっているのも新人大会で良い結果を残せたことが大きいだろう。
「うぅ〜〜〜、リヴェルさん! 感激です!」
ウィルが眩しいぐらいの笑顔を俺に向けてきた。
「ど、どうした?」
「タメ口で喋ってくれているのが凄く嬉しいんです! なんとなくですけど、リヴェルさんと仲良くなれた気がして……!」
……なんか今までに無いタイプだな。
尊敬を通り越して崇拝しているように見える。
少し戸惑うが、たぶんそれは慣れてないだけで嫌な気分はしないな。
タメ口で喋っていたのは気が抜けていたからだが、プラスに働いてくれたみたいでよかった。
「俺で良ければ全然仲良くさせてもらうよ。それに同じギルドの仲間だしな」
「……俺、テンペストに入れて幸せです……。もう、死んでも構いません……」
そんな大袈裟な。
そのとき、テンペストの扉が開いた。
やってきたのはロイドさんだ。
今日はいつもと違ってしっかりとした服装で酔っ払っていないように見える。
「おお、リヴェル! 目を覚ましたか!」
ロイドさんがこちらにやってきた。
「はい。ご迷惑をおかけしました」
「へへ、気にすんなって。人生、ずっと寝ていたいときもあるさ」
……あるか?
「しかし、丁度いいタイミングで目を覚ましたな」
「丁度いいタイミング?」
「ああ。今さっき冒険者ギルド連盟に行ってきてよ、リヴェル、クルト、フィーアのランクを報告してもらったんだ」
冒険者ギルド連盟とは『テンペスト』やアギトが所属する『レッドウルフ』のような冒険者ギルドを束ね、管理している組織だ。
要するにフレイパーラにある多くの冒険者ギルドを支部とすれば、冒険者ギルド連盟は本部ということになる。
確かギルドマスターは月に一度、ギルドに所属する冒険者の様子を報告する義務があったはず。
それで初となる報告で俺たちの正式な冒険者ランクを告げられた訳だ。
ちなみにギルド加入当初は皆、Fランク(仮)となる。
だが、この時期は多くの新人冒険者が誕生するのでフレイパーラ新人大会の活躍次第ではランクが変動する。
優勝したい一番の理由は、この制度を最大限活用したかったからだ。
「どうでした?」
「いや〜、凄えな。リヴェル、お前はBランクだ」
「え!? Bランクですか!? めっちゃ凄いじゃないですか! 流石リヴェルさん!」
隣でロイドさんの報告を聞いたウィルは飛び跳ねて、自分のことのように喜んでいた。
「Bですか。それだけフレイパーラ新人大会での活躍が評価されたんでしょうかね」
「だろうな。ったく、俺も見ておけばよかったぜ」
ロイドさんは笑いながら、少し悔しそうな表情をした。
「それとクルトがCランク。フィーアがDランクだ。みんな良いスタートを切れたようだな」
……Bランクか。
十分すぎるスタートだな。
冒険者ランクは高ければ高いほど、権限が大きくなる。
冒険者のランクが高ければ容易に人脈を作ることができ、強くなるための情報を集めることが出来る。
だが、それよりも大事な要素がランクによって大きくなっていく権限だ。
この権限こそ俺が冒険者になった一番の理由と言っても過言では無い。
Sランクの権限を使うことで英知では調べることの出来ない情報も入手可能となる。
それだけSランクというのは絶大な信用が寄せられている。
さて、Bランクに配属されたなら当面の目標はただ一つ──それはSランクになること。
英傑学園の入学まで残り三年だ。
長いようで短いこの時間を有効に使わなければならない。
そうだな……。
遅くとも二年以内にはSランクに到達しておきたいところだ。
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