43話 エピローグ
地面に倒れたマンティコアはそれ以上動く気配がない。
倒したんだ……。
これでアンナは死なずに済む。
ホッと一息をつき、胸を撫で下ろした。
毒の具合は悪くない。
魔力が毒素を少しずつ分解し、克服しつつある。
まさかこんなことになるとは思わなかったが、これは嬉しい誤算だな。
「リ、リヴェル!」
アンナが俺のもとへ駆け寄ってきた。
その両腕には小さくなったキュウを抱えていた。
キュウは疲れたのか、目をつむって眠っていた。
「大丈夫? どこか怪我してない?」
「……俺は大丈夫だけど、アンナは?」
「私は平気!」
「嘘をつくな嘘を。頭から血を流しているじゃないか」
「これぐらいならすぐ治るよ」
「……そうか。まぁ、大丈夫ならいいんだ」
「うん。それよりもこの子は一体何者なの?」
アンナの視線は抱えているキュウの方に向ける。
「……キュ?」
少し目を覚ましたキュウは返事をするように鳴き声をあげた。
「キュウって言うんだ。色々と事情があって、今は俺の従魔だな」
「あーごめんね。今キュウちゃん返すね」
俺はアンナからキュウを受け取ると、頭の上に乗せた。
「えっ、頭の上に乗せるの?」
「ああ、キュウは頭の上が好きらしい」
「なるほどねー、うんうん。そっか、キュウちゃんはいい子だね。この子のおかげで私はまた戦うことが出来たよ」
「そりゃ良かった。俺もアンナとキュウがいなかったらかなりヤバかった」
「こちらこそお役に立てて何より! それよりもさ、リヴェルが最後に放った一撃凄かったね! あの化物を一撃で倒すとは思わなかったよ! ──って、あれ!? リヴェルはそもそもどうして此処にいるの!?」
多くの疑問がアンナの中に浮かび上がってきたようで、軽いパニック状態になっている。
……気持ちは分かる。
「助けてくれたり、リヴェルに会えたことは嬉しいんだけど、気になっちゃって! 色々聞いちゃってごめんね」
「謝ることはないさ。最後の一撃は──」
《剛ノ剣》と言おうとしたが、あのメッセージを思い出した。
オリジナルスキルを創造したとのことらしいが、一体なんだったのだろうか。
《剛ノ剣》を改良したら、俺が独自で編み出したものだと判断されたのかもしれない。
父さんも自分で《鬼人化》を編み出したとか言っていたし、今までにない新たな技術を身につけたとき、それは新たなスキルとされているのかもしれない。
英知で調べてみると、その通りで新しいスキルができたときは「オリジナルスキルを創造しました」というメッセージが聞こえてくるようだ。
少しの間が空いてしまったが、俺は改め直して答える。
「最後の一撃は《剛ノ剣・改》というスキルだな」
オリジナルスキルと言っても、もともとは《剛ノ剣》があったからこそ編み出せたものだ。
だったら、それに伴ったスキル名が良いだろうと思い、俺は勝手に《剛ノ剣・改》と名付けた。
「カッコよくて強そうなスキルだね! それでリヴェルはどうしてここにいるの?」
「神様が教えてくれたんだ。アンナが危険だ、ってな」
「へー、神様って親切なんだね。才能を与えてくれるし、私たち人間を気にかけてくれているのかな?」
「きっとそうなんだろうな」
「それにしても予想外の再会だったね」
「そうだな。でももう少しで俺は元いた場所に戻らなければいけない」
「……そっか、うん……そうだよね」
寂しげな表情を浮かべるアンナ。
名残惜しい気持ちは俺も同じだった。
「……久しぶりにリヴェルの顔が見れて良かった」
「ああ、俺もだ」
「でも私は今日リヴェルの姿を見て確信したよ。リヴェルは英傑学園の誰よりも強い」
「それは嬉しいな」
そう判断するのは少し早計な気もするが、アンナがそう思ってくれるのなら好都合だ。
俺が入学できないのではないか、と余計な不安をかけないで済む。
「リヴェルは高等部に間違いなく入ってくるから……また会えるよね」
確認するかのようなアンナの発言。
少しでも不安を拭いたい気持ちは誰しもが持つ。
「もちろんだ」
それを察した俺は自信満々に肯定した。
「……良かった。じゃあ私、これからもっと頑張るよ。リヴェルには絶対負けないからね」
「俺もお前だけには負けられないな」
アンナが戦わなくてもいいぐらいに強くなるのが俺の目標だ。
本人には絶対に言えないが、努力の原動力は間違いなくこの目標を達成するためだろう。
「うん! お互い頑張ろう!」
「そうだな」
「……あ、あのさ、お願いがあるんだけど」
「ん?」
「……う〜〜、えーっとですね……そ、その〜、また長い間会えない訳だからさ……ゅーって……ぃ」
アンナは目を伏せて、手をもじもじと動かす。
俺は最後の方、何を言っているのか分からなかったので、聞き返した。
「また言わせるつもりなの!?」
戸惑うアンナだが、聞こえなかったのだから仕方ない。
俺としてはアンナのお願いは出来るだけ叶えてあげたい。
「ああ、聞き取れなかったからな」
「……ぎゅーって、してほしい……かも」
恥ずかしそうに上目遣いで俺を見るアンナ。
「……い、嫌ならいいからね! 今少し汗かいちゃってるし、汚いし! 変なこと言ってごめんね!」
不安になったのか、アンナは変なことを口走りだした。
俺は両手を伸ばしてアンナの左右の腕を掴む。
「えっ!? な、なに!?」
「嫌なわけないだろ」
そう言って、俺はアンナを優しく抱き寄せた。
するとアンナは俺を強く抱きしめた。
しばらく俺たちは無言で抱き合った。
「これで満足か?」
「……うん。また頑張れそう」
「俺もだ」
アンナから腕を離すと、俺の身体を光の粒が包み出した。
「お別れの時間みたいだ」
「そっか。次会えるのは3年後かな?」
「そうだな」
「……うん! 分かった! 元気でね!」
アンナは寂しいだろうけど、その気持ちを表情に出さないよう笑顔を作った。
それがアンナの決意の現れであり、優しさなのだと思った。
「ああ、元気でな」
そして俺は転移され、気づけば宿屋の自室にいた。
「……あ〜、疲れた」
俺はベッドに倒れて、眠りについた。
◇
アンナを助けた俺はあれから丸三日眠っていたらしい。
『テンペスト』に顔を出したとき、みんな喜んでいた。
随分と心配をかけていたらしい。
そして『テンペスト』には変化があった。
以前と違って、人で賑わっているのだ。
「どうよ、これ」
ギルド内を見渡す俺にラルが自信ありげに言った。
「めちゃくちゃ賑わっているな」
「ええ、まずはギルドの利用者を増やさなきゃいけないからね。色々と商売を始めさせてもらったの」
「ほほう」
「冒険者が訪れやすくなるように道具屋、武具屋を開いたわ。それ以外にも酒場と宿屋を設けて、いつでも人がいる状態を作り上げることにしたの。テンペストは無駄にギルドがでかいからね。場所には全然困らなかったわ」
「なるほど、それでこんなに賑わっているのか……ん? 店を営業するにも従業員や売り物が必要だろ? それはどうしたんだ?」
「そこら辺の初期投資は私の方からさせてもらったわ。これでも個人資産は結構あったりするのよ」
「……大丈夫なのか?」
「ええ、成功を確信しているわ」
「さすがだな」
俺の不安は杞憂だったようだ。
「そういえば、リヴェルが眠っている間に面白いニュースが世間を賑わせたわ」
ラルは紙片をこちらに渡してきた。
どうやら記事が書かれているらしい。
その題目は堂々と、こう書かれていた。
【英傑学園中等部一年生、Sランクモンスターのマンティコアを単独撃破】
……なるほど。
俺が転移してしまった後ではアンナがどう説明しようが、単独でマンティコアを撃破したと思われるだろう。
アンナに対する期待はかなりのものになったことだろう。
「凄いわね〜。中等部の一年生って私たちと同じ歳でしょ? もしかしたらリヴェルの好きな子かもしれないわね」
「……ハハハ、そうかもしれないな」
ラルの鋭い見解に俺は乾いた笑みを浮かべるのだった。
【皆様へのお願い】
これにて一章完結です。
これまでの物語を読んで、
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「書籍化おめでとう!」
少しでもそう思って頂けたら、
あとがきの下にある「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にしてくれると励みになります!
一巻の内容は、この一章をもとに更に磨きあげていきます。
発売時期は、まだお伝え出来ませんが出来るだけ早く発売できるよう出版社の方々に話を進めてもらっております。
たぶん半年もかからないんじゃない……かな?
続報をお待ちください!
これまでの物語で何か思ったことがあれば、感想頂けると嬉しいです。
今後の参考にさせて頂きます。
次回からは二章スタートです!
今まで以上に面白い物語を書けるように精進していきます!
これからも何卒よろしくお願いいたします!
(2020/3/17)




