41話 懐かしい匂い
【書籍化のお知らせ!】
第1巻
出版社:アース・スターノベル 様
イラストレーター:紅林のえ 様
発売日:6月15日
《剛ノ剣》は全身に魔力を均一に纏うことが前提となっている。
《魔力循環》で全身に魔力は流れているが、それは波のようなもの。
少しの動作で魔力は増減する。
最大、最小を繰り返す。
ロイドさんは、取得するには慣れることが一番と言っていた。
だから俺は何度も挑戦した。
結局、まだ取得することは出来ていないが、何か掴みかけている実感がある。
だが今取得するには慣れなんてモノをあてには出来ない。
試行回数は限られている。
いや、一回が限度だろう。
必ず何か必要な動作があるはずだ。
しかし、そんなことを考えている余裕は無さそうだ。
「グオアアアアア!」
マンティコアが雄叫びをあげた。
動きが更に素早くなり、縦横無尽に駆け回る。
魔物の本能を剥き出しにした攻撃。
合理的ではないゆえに攻撃が読めない。
「……俺も《身体強化》の出力を上げるしかないか」
常時発動の《鬼人化》に加えて《身体強化》を使うことで飛躍的に身体能力は上昇する。
この《身体強化》は魔力をどれだけ消費するかによって、能力の上昇率が変わる。
燃費は決して良くはないが、マンティコアに対抗するには魔力を消費するしかない。
まともに戦える時間は後わずか。
持って3分ってところか……。
「リヴェル危ない!」
アンナの叫ぶ声が聞こえた俺は咄嗟に背後から迫っていた毒針に反応した。
「……くッ」
致命傷は防げたが、左腕から血が流れる。
傷口が熱い。
奴の毒がかなりのものだと分かる。
マンティコアの毒に対抗するためのポーションは存在する。
だが、予定外のこの状況で俺が用意周到に持っているはずもなく、フレイパーラに戻ってからでなければならない。
全身に毒が流れることになれば、俺は死ぬだろう。
左腕は満足に動かない。
毒が既に効いてきているということだ。
魔力の流れを活性化させ、毒に対する免疫力を高めるぐらいしかない。
それが唯一の応急処置だ。
俺は身体中を流れる魔力を活性化させた。
そして気付く。
……あれ、傷口のところだけ魔力が一定に流れている。
増減する最大と最小の平均ぐらいの魔力が流れている。
それは俺が求めていたもの。
《剛ノ剣》を取得するために欲していた魔力の流れだった。
でも、なぜ傷口のところだけが……?
よく観察すると、毒の成分が魔力の流れを乱しているようだった。
じゃあ毒が全身に回れば均一化できる……?
いやいや、そんなことしたら俺は死んでしまうだろう。
そんな方法は使えない。
だから擬似的に毒を再現すればいい。
魔力の流れを乱す……それもただ乱すのではない。
魔力が均一になるよう乱さなければいけない。
だったら、乱すという表現はおかしいな。
──そう、これは制御だ。
均一になるよう制御しようと考えた事はあったが、今までその肝心のやり方が分からないでいた。
だが、この毒状態を経験したおかげでどうすればいいのか分かった。
魔力の抵抗となるように、この毒を再現すればいい。
毒を浴びせたマンティコアからは少し殺気が薄れた。
しかしそれはほんの一瞬。
慢心を止め、確実に仕留めようとすることに変えたようだ。
ゆっくりとこちらに近づいてきていたが、それを止め、先ほどのように襲いかかってきた。
この状況でマンティコアを相手にすれば、奴を倒すだけの魔力は無くなる。
まずいな……。
そう思っていたとき、此処ら一帯が光に包まれた。
◇
リヴェルがマンティコアと戦闘を開始した頃、キュウはどこか懐かしい匂いを感じ取っていた。
それがキュウの主人であるリヴェルが守ろうとした少女であることに気付いた。
離れていろ、と命令されていたキュウだったが、導かれるようにアンナのもとへ向かっていく。
『……ねぇ、どこかで会ったことある?』
キュウはアンナに念話で語りかけた。
「えっ? だ、誰?」
『うえ』
「子竜……?」
『なつかしいにおいがする。でもキュウは見たことない』
キュウがこの子竜の名前であることをアンナは理解する。
「ごめんね。私も見たことないや。……それに会話に付き合ってもあげられないよ。リヴェルを助けなきゃ」
フラフラと立ち上がるアンナ。
『キュウもあるじたすけたい!』
「あるじ?」
『リヴェルのこと!』
「そっか、君もリヴェルが好きなんだね。……でも、死んじゃうかもしれないよ」
『だいじょうぶ。名前をおしえて!』
「名前? ア、アンナだけど」
アンナは戸惑いながら自分の名前を告げた。
『アンナとあったときから、力がわいてくる。この力をアンナに使ってほしい』
「使う!? え、どうやって?」
『ぼくにさわって、魔力をながす』
分からないことだらけであったアンナだったが、アンナも心のどこかで何故か懐かしさを感じていた。
何も根拠がないけれど、リヴェルを慕っている様子の子竜を信用することにした。
「こうかな?」
アンナがキュウに触れ、魔力を流した。
すると、キュウの身体は眩い輝きを放った。
そしてアンナが目を開けると、先ほどまで小さかったキュウの身体は自分が背中に乗れるぐらい大きくなっていた。
「……何があったか分からないけど、これなら実力を発揮できそうだね」
アンナは全てを理解せずに、自分にとって好都合であるというこの状況だけを理解した。
【竜騎士】の才能を持つアンナ。
アンナは今まで竜に騎乗する経験など一度もないが、キュウとなら大丈夫な気がしていた。
「キュウ、お願い! リヴェルを助ける手伝いをして!」
『うん! 一緒にあるじを助けよう!』
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