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35話 花を持たせるべき

 フィーアは拳銃を拾おうと駆け寄るが、俺は先回りしてその前に立ちはだかる。

 試合を終わらそうと思えば、すぐに出来る状況だろう。

 だが攻撃はしない。


「リ、リヴェルさん……私の負けです……し、試合を終わらせてくれませんか?」


「断る」


「……っ、ど、どうしてですか」


「うーん……嫌がらせ?」


「ひ、ひどい! 私は今もの凄く怖いんです……勝てる見込みが無くなった今、早く試合が終わって欲しいんです!」


 だろうな。

 だから俺はこうしている。


「そのために勝ちを捨てるのか?」


「こ、こんなの負けたも同然です……」


「でもまだ負けてない。チャンスを捨てて、自分の殻に閉じこもるだけで良いのか?」


「……」


 フィーアは黙り込む。


 フィーアには成長してもらわなければいけない。

 それはフィーアのためでもあり、俺のためでもある。

 フィーアの弱点は素の性格。

 諦めが早く、緊張にかなり弱い。

 だが、これを克服できれば、それは逆に長所となり、強みになる。


「一度、本気になってみたらどうだ?」


「わ、わたしは……」


「集中して、頭をもっと使え」


「……つだって……」


 フィーアの目が段々と俺を睨みつけるように鋭くなっていく。



「私はいつだって本気なんですから!」



 フィーアは両手の人差し指を俺に向ける。

 その先から魔力の弾丸が放たれた。

 拳銃を使っているときに比べ、遅いが攻撃手段としては合格点と言える。


 そして、その隙にフィーアは拳銃を拾った。



 殻は破れたようだ。


 だが、勝ちは譲れない。


 なにせ何よりも優先すべきは俺が強くなること。


 そのためにフィーアを強くし、自分のことが二の次になるようではダメだ。



 拳銃を拾いに来ることが分かっていた俺は、フィーアの移動先、つまり拳銃に向かって既に剣を振っていた。


 剣はフィーアに直撃し、そこからたたみかけるように二発目を当て試合は終了した。



「試合終了! 同ギルド対決を制したのはリヴェル選手!」



 ワアアアアアアアアアアアア!



 ……ブーイングが飛んでこなくて少しホッとした。

 俺たちの会話は観客に聞こえていなかっただろう。

 だから、あの状況は何かしらの読み合いをしている、とかそんな風に思ってくれたのかもしれない。

 いじめているみたいに思われたら、間違いなく俺は批判されていただろうからな……。



「あのリヴェルさん……」


「ん?」


「なんかいい感じだったのに勝ちを譲ってくれないんですね!」


「そりゃな」


「もうなんであんな説教をしたんですか!」


「んー、フィーアのため?」


「ぐぬぬ……! 悔しいです!」


「ぷっ」


 俺はつい吹き出してしまった。


「な、なんで笑うんですか!」


「ハハハ、悪い悪い。フィーアが悔しそうにしてるの初めて見たからさ」


 クルトと戦っているときは一度も勝てなかったというのに、何も悔しそうじゃなかったからな。


「だって! あれは私に勝ちを譲る場面でしたよね!」


「仮に俺がフィーアに勝ちを譲ったところでお前は嬉しかったか?」


「はい!」


 満面の笑みで答えるフィーア。

 こいつにはプライドというものがないらしい。


「そうか、じゃあ悪いことをしたな」


「ほんとですよ。……で、でも、あの……ありがとうございます……」


 もてあそばれて負けたというのにフィーアは恥ずかしそうに感謝を告げた。

 それはフィーアの中で少し変われた実感があるのかもしれない。


「どういたしまして」


 その証拠にフィーアは闘技場で、観客が見ている中で、試合前と違い、緊張もせず普通に話しているのだから。





 ◇




 ベスト4決定戦を勝ち抜いた俺は準決勝に臨んだ。

 相手は最近新しくできたギルドみたいで『ナイトブルー』という名前だった。

 ここまで勝ち進んできていることもあり、相手の才能は【魔法剣士】という魔法と剣術、二つの才能を兼ね備えているものだ。

 総合力で言えばアギトに並ぶレベルだったが、魔法と剣術が無難に上手いだけだったので、戦いやすかった。

 ここにきて俺は無傷で勝利することができて、会場が盛り上がった。


 それもそのはず。


 決勝戦の相手であるクルトも今までの敵全てを無傷で倒してきたからだ。


 俺のあとに行われた準決勝も無傷で制していた。




「いよいよ決勝戦! この組み合わせを誰が予想できたでしょうか! いや、私たちは途中からこの対決を待ち望んでいたのかもしれません! 最後を飾るのに相応しい最強と最強の戦いを私たちは目撃するでしょう! それでは登場して頂きましょう! ギルド『テンペスト』より【努力】のリヴェル選手と【賢者】のクルト選手の登場です!」



 ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 とてつもない歓声。

 観客席は埋め尽くされて──いや、観客で溢れかえっていた。


 決勝戦は今までの試合とは注目度がまるで違うことが肌で感じられた。



「いよいよ、だね」


 中央に立ったクルトはいつもと変わらない余裕そうな表情だった。


「だな」


「まさか、こんな形で手合わせが出来るとは思わなかったよ」


「ああ、最高の舞台だ」


「どちらが勝っても負けても恨みっこなしにしよう」


「……そこは師匠である俺に花を持たせるべきじゃないか?」


 あれ?

 俺、フィーアと同じこと言ってない?


「ふふ、弟子に超えられる方が師匠冥利に尽きるだろう?」


「お前……俺のことを本当に師匠だと思ってるか?」


「どうだろうね、どちらかと言えばライバル意識を燃やしているかもしれない」


「だと思ったよ」


 だから俺はお前に喜んで古代魔法を教えているのだけどな。



「さぁ皆さん! この戦いの行く末をまばたきせずにご覧になってください! それでは試合開始!」



 ついに俺とクルトの決勝戦が始まった。

【皆様へのお願い】


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「書籍化おめでとう!」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 決勝戦の相手であるクルトも今までの敵全てを無傷で倒してきたからだ。 クルト”も”ってあるけどリヴェルは前話でHP半分減らされてますよね
[一言] 話数が少ないからまだまだこれからですよ。 諦めず話を長く書き続けるのも一種の才能で 30~60話あたりでエタる人が多いから 70話前後にならないと読み始めないって人も評価しないって人も多いは…
[一言] さぁ、決勝戦!
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