34話 フィーアの弱点
これから一章完結にクライマックスに向けて一気に面白くしていきます!
【二章の1話】を見るまでは、毎日18時〜19時(都合によって前後する場合があります)に更新しているので是非リアルタイムでごらんになってください!
「負けた……か」
アギトは静かにそう呟き、力無く地面に座り込んだ。
観客の歓声はまだ鳴り止まない。
「……まさかお前に敗れるとは思わなかったぜ」
「悪いな、少し卑怯な手を使った」
「ハハ、爪を隠すのが随分と上手いようだなァ」
「切り札は多ければ多いほど役に立つ」
俺がそう言うと、アギトはニヤリと笑った。
「よく言うぜ。まだ余力があるくせによ」
「さあな」
俺は曖昧な返事をした。
アギトが俺に深く言及したところで何も見えてこない。
ならば、ここで多くを語る価値は無い。
「努力の才能、か……。全く意味の分からないものだぜ」
負けた後のアギトの表情は微塵の悔しさも感じなかった。
むしろ清々しさを感じさせるものだった。
控え室に戻ると、ラルがタオルを持って待ち構えていた。
「はい、お疲れ」
「ありがとう」
タオルを受け取り、汗を拭き取る。
その最中、キュウは俺の頭上をクルクルと飛び回っていた。
『あるじぃー、おつ!』
「キュウもありがとな」
汗を拭き終えるとキュウは俺の頭に着地した。
「さぁ次はいよいよ同ギルド対決ね!」
「フィーアか。まぁ勝ち上がってくるだろうな」
「リヴェルとフィーアが戦うのは何気に初めてよね」
「クルトとも戦ったことはないけどな」
「順調に勝ち進めば決勝で戦うことになるわね。そのときはリヴェルを応援するけど」
「あいつずっと応援されてないだろ。少しはしてやったらどうだ?」
「それは金額次第ね」
「金取るのかよ」
相変わらず仲が悪いようだ。
◇
そして、あっという間にフィーアはベスト8が決定し、俺と戦うことになった。
しかし、わずかな時間での連戦を避けるためにしばらく休憩時間が設けられた。
残りの試合数は少ないものの今までよりも白熱した戦いが繰り広げられることが予想される。
そのため、少しでも選手のパフォーマンスを上げるためにもこうした休憩時間を設けることは大事だ。
現在、俺は控え室で次の対戦相手であるフィーアとラルとキュウで休憩時間を過ごしていた。
フィーアの方の控え室に行こうと言い出したのはラルだ。
【商人】の才能を持っているおかげなのか、こういった良い雰囲気を作り出すのが非常に上手い。
しかし、クルトは除く。
「まさかこんなところまで勝ち上がれるとは思いませんでしたね……」
感慨深そうにフィーアが言った。
「本当にフィーアは自信がないのね。でもこれで少しは自信がついたんじゃない?」
「そ、そうですね。少しは自信がついた……ような気がします」
「自信なさげね」
ラルは優しげに、少し呆れた表情をする。
「うう……どうやったら自信がつくんでしょうか……リヴェルさん」
とんでもない形で話を振られた気がするのだが。
驚きを表に出すとフィーアが申し訳なさそうにすると思い、俺は必死に隠した。
「……別に俺も自信なんてないよ」
「えー、それは嘘でしょ」
ラルはケラケラと笑った。
「一番の自信家はクルトだろうな」
「確かにそうかも」
「で、でもリヴェルさんも物怖じせずに大会に臨まれてましたよね?」
「んー、じゃあ自信があると言えるのかな。俺は優勝という目標に向かって最善を尽くしているだけに過ぎないんだ。今の自分の実力の中から出来ることを見つけて、より良い選択肢を選んでいくって感じかな」
「……む、難しいです」
「難しく考えなくてもいいんじゃない? 私からすればフィーアは戦ってるとき、物怖じせずに自信に満ち溢れているように見えるからさ。気にし過ぎも良くないよ!」
「……そうですね!」
フィーアはラルの言う通り気にしすぎることをやめて、笑顔を見せた。
確かにフィーアは武器、つまり銃を持てば別人のようになる。
これはフィーアの長所であり、短所だと俺は思う。
◇
「さぁついに大会も終わりが近づいて参りました! ついにベスト4決定戦! そしてなんとなんと、この組み合わせは同ギルド対決! このギルドは今大会で私たちを最も楽しませてくれていると言っても過言ではないでしょう! それでは二人同時に登場してもらいましょう! ギルド『テンペスト』より【努力】のリヴェル選手と【魔銃士】のフィーア選手の登場です!」
ワアアアアアアアアアアアアアアアア!
俺は実況の合図を聞いて、登場する。
前方ではフィーアがペコペコと観客に頭を下げながら登場している。
「フィーアちゃん頑張れ!」
「リヴェルの野郎をぶっ倒せー!」
観客は俺の応援よりもフィーアの応援だった。
やはり美少女というのは得である。
なんとなく、ショックを受けた。
そして、俺達は闘技場の中央に立ち向かい合わせになった。
「よ、よろしくお願いします!」
フィーアは観客だけでなく俺にも頭を下げた。
「よろしくな」
フィーアはふぅ、ふぅ、と心を落ち着けながら深呼吸をした。
そして「試合開始」の合図が闘技場に響き渡った。
フィーアは即座に銃を取り出すと、まるで人が変わったように冷静になる。
俺を見つめる瞳はフィーアのものとは思えないほど冷たく感じた。
──だが、お前には明確な弱点がある。
先制攻撃はフィーアだ。
弾丸を俺目掛けて2発放つ。
そして、距離を取る。
これはフィーアの試合を観戦していて分かったこと。
始まりは大体こうだった。
それを他の対戦相手たちも気づいていたはずだ。
だが、知っていても対処は難しい。
単純で強いからこそフィーアは何度もこの展開に持って行っている。
多くの冒険者はここで防御に出る。
盾で弾丸を防いだり、横に移動して回避する。
それはすなわち、距離を詰める絶好のチャンスを無駄にしていることと同じである。
俺は落ち着いて《模倣》を取得するときに必要となった《視力強化》を使用する。
このスキルを使うことで動体視力が上がり、弾丸を少しだけ目で追えるようになった。
それを初めの2発で確認し、身体をずらすことで弾丸をかわした。
そしてここからフィーアは何発もの弾を撃ってくる。
俺は駆け出した。
走りながら弾を避ける。
だが、数発の弾丸は食らわなければならない。
それは覚悟の上。
HPバーは半分に減るが、俺はフィーアのもとにたどり着いた。
剣を振るう。
フィーアはそれでも焦ることなく、冷静な表情で距離をとろうとする。
そう動くことは分かっている。
この場で剣を振るえば、フィーアにダメージを与えることはできない。
──だから俺は足をもう一歩踏み込み、フィーア本体ではなく両手で持っている拳銃を狙ったのだ。
カランカランと音を立てて、拳銃は地面を転がった。
「あ、ああ……」
フィーアの表情は一瞬にして青ざめていった。
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