32話 噂の三人
(Side フィーア)
私は人前に立つのが得意ではありません……。
だから、闘技場の中央で立っているこの瞬間、もう気を失いそうです……。
は、早く始まってくれませんかね……。
もう対戦者である私たちの紹介は終わりましたよね!?
じゃあ、さっさと始めましょうよ!
じゃないと私……き、緊張で倒れてしまいます!
試合が始まりさえすればきっと……。
「それでは試合開始!」
やった……!
やっと始まるんだ……!
私は腰のホルスターから二丁の拳銃を取り出す。
──ああ、やっと私は落ち着ける。
拳銃を持った瞬間に視界、そして思考が鮮明になった。
今まで認識していた空間がより広がるような錯覚を覚えた。
「へへ、悪いけどとっとと終わらしちまうぜ!」
相手の才能は【槍術士】だ。
盾を構えているところを見ると、私の才能は既知だったらしい。
それもそうか。
私のギルドは街で多くの冒険者にバカにされてきた。
神殿で貧乏な私が【魔銃士】であることを告げられたとき、みんな笑っていたっけ。
「ふふ、どうでもいい」
私は笑いながら呟いた。
◇
(Side リヴェル)
「……別人のようだな」
「それめっちゃ分かる〜! 戦ってるときのフィーアは驚くほど冷静なのよね」
「キュウ!」
俺とラルとキュウは控え室からフィーアの戦いを見ていた。
同ギルドの者たちは控え室に入ることが許されており、そこから応援が出来るのだ。
フィーアの戦いっぷりに会場は大盛り上がり。
可愛い女の子が圧勝する様は華があっていいものだ。
フィーアの戦う姿を真剣に見たのは初めてだが、最近武器を手に入れたとは思えないほどに強かった。
俺やクルトは昔から剣や魔法に触れていることもあって、ある程度慣れている。
だが、フィーアは違う。
戦闘センスがずば抜けていいのだろうな。
「クルトもそろそろ試合か」
「そうね。でもアイツの闘技場は遠いから行かなくてもいいと思うわ。どうせ勝ってるだろうし」
こいつら本当に仲悪いな。
「あ、ああ……緊張しました……」
疲れた様子でフィーアが戻ってきた。
「お疲れ。二回戦までは時間があるし十分休んでおくといいよ」
「だね! それにしてもフィーアカッコよかったよ!」
「アハハ……二人ともありがとうございます……」
疲労困憊という感じだ。
戦っている最中はそんな様子は一切見せなかったが、終わった瞬間にこれだ。
体力とメンタルが今後のフィーアの課題かもしれないと思った。
◇
そしてフレイパーラ新人大会の1日目が終わり、俺たちは『テンペスト』に集合していた。
さて、1日目の結果だが……。
「みんなどうにか1日目は乗り切ったわね! お疲れ様!」
ラルが嬉しそうに言った。
そう、俺たちはみんな勝ち残っていた。
2日目まで残れれば最低限目立つことは出来たと言えるだろう。
しかしギルドの復興を考えるならもっと結果が必要だ。
まぁ優勝するつもりでいることもあり、油断は一切ないのだが。
『さすがあるじ!』
念話でキュウも祝福をしてくれた。
『ありがとな、キュウ』
俺は頭上で丸くなっているキュウを撫でた。
『あっとうてきだった! キュウ、つよいひとすき!』
『喜んでくれたようでなによりだ』
強い人が好き、か。
ドラゴンなだけはあるな。
……いや、人間もそうか。
「まぁこの程度は当然だろうね。でもみんな無事勝ち残っていてホッとしたよ。明日もいいところまでいけるさ」
クルトは少し安堵したような表情でそう言った。
自信満々なクルトだが、きっとほんの少しだけ不安があったに違いない。
100パーセント成功する、というのは絶対にありえないのだから。
「そ、そうですかね……私的には今日勝ち残れただけでも自分を最大限に褒めてあげたいところなんですけど……」
「フィーアはもっと上を目指せるよ。自信持ちなよ」
「だな。今日だってフィーアは無傷で全員倒していたじゃないか」
俺はクルトの意見に賛同する。
……まぁ俺とクルトも無傷だったみたいだが、それは言わないでいいか。
「……確かに……もしかして私って強いんですかね?」
「そうだよ。だから自信持って」
「えへへ、そうですよね! 私、銃を持っているときは凄い冷静になれて自信に満ち溢れているんですよ! 持っていない時もそう思えばいいんですよね!」
自覚していたのか。
てかそれにしてもこの子チョロいな。
「うん。自信を持っていいと思うよ。だってもう『テンペスト』凄い話題になってたし」
ラルが言った。
「え、もう?」
「早いよね。てか、あんたら試合重ねるごとに観客からの声援増してることに気がつかなかった?」
「……言われてみればそうだった気がするな」
1試合目の後は周りのことを考えず、特に相手が強いというわけでも無かったが、かなり集中して試合に臨んでいたからな。
「特にリヴェルは相手を瞬殺してたからね。もう優勝候補にも挙げられているわ」
「……なるほど、それは光栄だな」
「フィーアは次に注目されていたわね。やっぱり可愛い女の子が強いってのは良いものね!」
「えっ、わ、私って、か、かわっ、可愛いんですかっ!?」
フィーアの顔が真っ赤になる。
耳までも。
「私はそう思うけど、どうなの男性陣」
こんなタイミングでこっちに振るな。
しかし、可愛い? と聞かれて、何も答えないのが一番悪いか。
「普通に可愛いな」
「そうだね、どこかの商人さんよりも全然可愛いと思うよ」
「だってさ。どこかの商人さんって誰かしらね。私は超絶可愛いからフィーアと同等だろうし」
「……は、恥ずかしいです……そ、そんな超絶……か、可愛いだなんて……」
もうオーバーヒートしそうな勢いだな、これ。
少しフィーアがかわいそうになってきたし、そろそろ話を切り上げて明日に備えるか。
「ま、1日目は上出来だったな。この調子で行けば『テンペスト』の評判はうなぎ上りだ」
「ええ、そうなれば後はこっちのものよ! 冒険者ギルドを経営して荒稼ぎしてやるんだから!」
ギルドの経営はロイドさん曰く「そういうのめんどくせえから任せれるなら任せるぜ」とのこと。
実績と実力のあるラルにほとんど任されている状態だ。
「よし、じゃあ明日は俺たちの一人が絶対に優勝しよう。そして『テンペスト』を復興させるんだ!」
「「「おー!」」」
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