2話 ユニークスキル《英知》
幼少期の俺は、何でも知っていて天才児と呼ばれていて、大人達がもてはやした。
でも俺は途中で知らないフリをするようにした。
実際知らないし、フリでもないか。
なにせ俺の本来の知識ではなく、スキルによるものだったのだから。
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◯スキル《英知》
任意の情報を知識として手に入れることが出来る。しかし、秘匿されている情報は不可。
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スキルを取得する方法は2つある。
一つは俺のようにスキルを持って生まれる方法。
もう一つは条件を満たして後天的に手に入れる方法。
前者は良いスキルである場合が多いが、スキルを持って生まれる者はごく稀だ。
そして後者は良いスキルほど取得するための条件が厳しくなる。
これらの情報も《英知》によって手に入れたものだ。
では手に入れられない情報は何か。
この秘匿されている情報というのは外部に漏れないように厳重に保管されている情報だ。
ここで大事なのは誰にも知られたくないという意思。
例えば、街の私塾でどんな授業を受けているか俺は知ることが出来る。
何故なら、そこには授業の内容を隠そうとする意思は存在しないからだ。
以上の説明をしてみたものの俺は《英知》の全てを知ってはいない。
《英知》による《英知》の説明と経験から分かる事実を並べたに過ぎないのだ。
……と、話がズレたがこのスキル《英知》さえあれば【努力】という才能を最大限に活かせるのではないか? と思った次第だ。
まぁ、そんなことを頭の片隅で考えながら、アンナと神殿から我が家に帰ってきた。
俺の実家はパン屋だ。
母さんの才能が【パン屋】だったこともあり、めちゃくちゃ美味しいと評判の店で今も客が何人も来ていた。
パンだけでなくケーキなどスイーツも作っているため、幼馴染であるアンナは甘いものの虜になってしまった。
それで店の手伝いをよくしている俺が今日みたいに「甘いもの作って!」とアンナにお願いされるのだ。
まだ店が営業しているため、裏口からアンナと家に入る。
「おじゃましまーす」
「何食べたい?」
「今日の気分はパンケーキ!」
「この後夕食だろ? パンケーキなんて食べたら、夕食が食べれなくなるんじゃないか?」
「お腹空いてるから大丈夫!」
グッとアンナは親指を立てた。
それもとびきりの笑顔で。
「理由になってないだろそれ……。まぁいいか。今作るから待ってて」
アンナは結構食べるのでお腹が空いているなら大丈夫だろう。
「はーい」
アンナはそう言って、椅子に座り、ナイフとフォークを手に持ちながら待機している。
家にはキッチンが二ヶ所あり、一つは店用の機材が豊富に揃えられたところ。
もう一つはどこの家庭にもあるような普通のキッチンだ。
俺が今から使うのは、その後者。
冷蔵魔導具から材料を取り出して、慣れた手つきでボールに入れ、よくかき混ぜる。
フライパンに油をひいて、生地を焼き上げる。
中央部分がふっくらとしてきたら表面にバターを塗り、メープルシロップをかける。
出来上がったものを皿にのせて、レッドベリーとホワイトベリーをトッピングして完成。
「わー、おいしそうー! いただきまーす」
「食べたら帰って両親に才能のことちゃんと伝えるんだぞ」
「うん分かってるよ……あ、これおいしー」
笑顔でパンケーキを食べるアンナ。
俺も椅子に座って、机に頬杖をつきながらその姿を見ていた。
そして、パンケーキを食べて満足したアンナは家に帰った。
アンナの家は父さんが運営している道場の近くだ。
そろそろ父さんが家に帰ってくる頃なので、出会ったりするんじゃないかな。
「さてと、一人になったわけだし【努力】がどんな才能なのか確認してみるか」
スキル《英知》を使って、【努力】について情報を得る。
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◯才能【努力】
どんな努力にも耐えることができるようになる。しかし、他の才能と違って成長に補正が入らず、努力が報われない。そして、この才能を与えられた者は滅多にいないため、存在が全く知られていない。
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努力が報われないって……。
能力は地味で弱いようだが、希少性だけはめちゃくちゃ高いみたいだ。
しかし、この情報自体もかなりレアな気がするな。
《英知》の優れた点は、こういった情報を手に入れることができることだ。
使い勝手が悪い部分もあるが、万能すぎるスキルであることは間違いない。
「だが、この能力なら《英知》と相性が良いな」
色々と考えたが、俺の才能【努力】を有効活用するには効率の良い努力をする必要がある。
そしてその分、厳しいものになる。
戦闘の才能は与えられなかった分、色々な方法で強くなる必要がある。
努力が報われない?
……そもそもこの才能を与えられた人間が少ないのにどうしてそんなことが言えるのだろうか。
俺は先人が勝手にこの才能がダメなものだと決めつけ、何かになれるチャンスを放棄しているだけに思えた。
それに──報われないなら報われるまで努力するだけだ。