26話 親睦会
ギルド『テンペスト』に加入したその日。
親睦を深めるために酒場でフィーアを交えて食事をしていた。
「あの、さっきからずっと気になっていたんですけど……リヴェルさんの頭の上に乗っているのってなんですか?」
「ああ。これはキュウと言ってな。ドラゴンの赤ちゃんだ」
今日1日、俺の頭の上で眠っていたキュウ。
よく眠るが今日はいつも以上に眠っている時間が長かったな。
「……キュゥ?」
俺がキュウの名前を呼ぶと、目を覚まし、顔をあげた。
「わぁ〜、可愛いです!」
フィーアはウサミミをぴょこぴょこと動かしながら、キュウをニヤニヤとした笑みで見つめていた。
「抱っこしてみる?」
「い、いいんですか!?」
「うん。キュウは人懐っこいから」
俺は眠そうにしているキュウをかかえて、フィーアに渡した。
フィーアはそれを膝の上に置き、抱きかかえている。
「ふぅ〜、可愛いです〜」
ご満悦のようだ。
『この人いいひと!』
『お前可愛いって褒められてるから良い人とか言ってないか?』
『……ちがうよ。キュウ、分かる……』
疑わしいところだ。
「そういえば、フィーアも冒険者なんだよね。どういう才能なの?」
ラルが言った。
ちなみにラルは『テンペスト』に加入はしていない。
しかし才能が【商人】だと分かるとフィーアの希望で『テンペスト』の財務管理を任されることになった。
まぁ予定通りと言えば予定通りなのだが。
「わ、私は……【魔銃士】です」
「あまり聞き慣れない才能だな」
「あんたが言うな」
ラルにツッコまれてしまった。
「魔銃士は魔力で弾丸を作成し戦うのですが、その……貧乏で肝心の銃が買えないんですよね……」
「あー……」
1日しか見ていないが、フィーアは冒険者として依頼をこなしている感じはしなかった。
スカウト、掃除、などまるで自分が冒険者じゃないかのような仕事をしていた。
その理由が、貧乏で武器が買えないということだったとは……。
「あのお父さん、娘になんて思いをさせているのかしら」
「アハハ……でも実は良いお父さんなんですよ」
「そうね。確かにそんな気がするわ」
俺もそう思う。
だらしないところはあるが、根は優しい人だと伝わってくる。
強引に俺たちを引き止めるのではなく、ギルドを選ばせてくれたわけだし。
厳しい特訓というのも冒険者達のためを思って実施していたのかもしれない。
……いや、これは良いように考えすぎか。
「リヴェルに聞いておきたいことがあるんだけど、いいかな?」
クルトが言った。
「なんだ?」
「素朴な疑問だよ。どうしてあんなに努力できるのかなって。何か努力しなくちゃいけない理由とかあるの?」
「あー、私も気になる。クルトのくせに良い質問をしたわね」
「くせには余計だよ」
「努力の理由か……少し言うのは恥ずかしいな」
「えーいいじゃん! 言おうよ!」
「リヴェルのことをもっと知りたいんだ。教えてくれると嬉しいね」
……これは言わざるを得なさそうだ。
「……幼馴染に【竜騎士】の才能を貰った子がいるんだ。優しいし、正義感が強くて、騎士に向いている子だ。でもあいつは争い事を好まないだろうし、のんびりと暮らして生きたかったんだ」
話している最中にアンナの笑顔が脳裏に浮かぶ。
……少し感情的になってしまっているな。
一呼吸置いて話を続ける。
「大層な才能を貰って英傑学園に行って、あいつは卒業後も国のために戦い続けるだろう。……でも俺がぶっちぎりに強くて、それこそ世界最強になれば、もしかするとアンナが戦わなくてもいいかもしれない。そのために俺は努力しているんだ」
言い終わって少し熱くなってしまったなと後悔する。
「……へぇ、幼馴染の名前はアンナって言うんだ〜」
「げっ……名前言ってたか?」
「うん。バッチリと」
「マジか……」
俺は更に後悔する。
「でも素敵な理由じゃない。好きな子のために頑張るのって」
「そうですね! 私、少し感動しちゃいました!」
フィーアを見ると、目に涙を浮かべていた。
それをフィーアは指でぬぐった。
「それがリヴェルの原動力だったか……。良いことを知れたよ。話してくれてありがとう」
「いやまぁ、これぐらいはな」
「あと話を聞くと、リヴェルは英傑学園の高等部に入学するつもりなんじゃないかと思うんだけど、どう?」
「その通りだよ」
「じゃあリヴェルとは長い付き合いになりそうだね」
「そうだな。お互い入学できるといいな」
「出来るよ。そこは自信持ったほうがいい」
「そうか?」
優秀な奴が大量に集まるというのに、クルトは余裕だなぁ。
流石【賢者】なだけはある。
「リヴェルさんの才能って【努力】ですけど、一体どんな努力をしてるんですか? さっきの話聞くとどうしても気になっちゃって……」
フィーアやロイドさんには俺の才能が【努力】であることは伝えてある。
伝えたとき、ロイドさんは「アデンの息子らしい才能だな! ガッハッハ!」と笑っていた。
どうやらこの才能はみんなの笑いのツボらしい。
「……引いたりしないでくださいね」
俺はピート、ケイト、ダンに努力の内容を話し、引かれた経験から話す前に予め忠告するようにしている。
「えっ」
「僕は引かなかったよ。それよりも尊敬すらするほどだった」
「私は最初見たとき心配になったわね」
「えぇ……ど、どんな努力しているんですか?」
「毎日しているのは、魔力枯渇状態を利用して魔力の上限を増やしているよ」
「魔力枯渇状態!? く、苦しくないんですか……?」
「苦しいね。毎日10回ぐらい経験してるけど、慣れる気配はないな」
「じゅ、じゅっかい!?」
あ、これ。
前と同じ反応だ。
今度からは少し控えめに言うことにしよう……。
そして楽しい雰囲気のまま食事を終えた。
……さて、フィーアは武器が無くて困っている様子だ。
片手間で勉強していたアレを実践する時がきたようだな。