25話 これで晴れて冒険者
「……なるほど、お前がこのギルドの期待の新人ってわけか。そんな立場にあるお前がギルドに参加を考えている人たちにそのような態度を取って大丈夫なのか?」
俺は少し口調を崩して話すことにした。
丁寧に喋り、下手に出ても相手はつけあがるだけだ。
意味がない。
「大丈夫に決まってんだろ? お前みたいな雑魚が10人、いや100人入ろうと俺一人に敵わねえんだからな」
「本当にそう思うか?」
「……あ?」
「確かにお前の方が才能は上かもしれない。だが、それだけで実力が決まると本当に思っているのか?」
「雑魚と天才が努力すれば、天才の方が強くなるに決まってんだろうが」
「雑魚が天才をも凌駕するだけの努力をすれば、天才を超えられるかもしれないだろ?」
「ハッハッハ、言うねぇ! じゃあ試してみるか? 俺とお前、どっちが強いかをよォ!」
気づけば周りにはギャラリーができていた。
ここのギルドの冒険者達だ。
顔を赤くした酔っぱらいばかりである。
「おー! やれやれ!」
「アギト! そいつぶっ殺せ!」
見物者達は大きな声を出している。
アギトはあいつの名前か。
「野蛮なギルドね」
ラルが呆れながら言った。
俺もそう思うし、このギルドに入る気は無くなった。
「どっちが強いか試したいならかかってこいよ」
「この俺を前にして怖じ気付かない、か。その度胸だけは認めてやるぜ。だが、ボコボコにするけどなァ!」
そう言って、獣人の男は俺に殴りかかってきた。
お前、剣士なのに素手で来んのかよ!
「ストーーーーーーーーーップ!」
ギルド中に女の子の高くて大きな声が響き渡った。
その人物は立ち止まっているアギトに近づいてきて、肩を引っ張った。
この子もアギトと同じく獣人のようだった。
猫のような耳が生えている。
「なにまた喧嘩しようとしているのよ!」
「あ? お前には関係ねーだろうが」
「あるに決まってんでしょ! あんたの素行の悪さはギルドも問題視してるんだから!」
「なんだよ。周りの奴らもノリノリだったじゃねーか」
「ったくもぉ! 皆さんもアギトが調子に乗ってたら止めてくださいよ!」
今度はアギトじゃなくて周りに対して怒り出した。
「お、俺たちは別に……な?」
「……ちゃ、ちゃんと止めようとしたんだぜ?」
嘘をつくな。
お前らめちゃくちゃ煽ってただろうに。
「……ハァ、もう! すみません。ウチのアギトがご迷惑をおかけしました」
綺麗なお辞儀をした。
「ったく、とんだ邪魔が入ったな」
「アギト! お前はちゃんと反省しろ!」
その言葉に見向きもしないで、アギトは言葉を続ける。
「お前ら、これから冒険者になるんだろ? だったらフレイパーラ新人大会に参加しろよ」
なんだそれ。
英知で調べてみるか。
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○フレイパーラ新人大会
迷宮都市フレイパーラで一年に一度開催される新人冒険者限定の大会。
トーナメント形式になっており、多くの新人冒険者が腕試しに参加する。
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この大会の成績次第でギルドの評判は上下しそうだ。
……なるほどな。
「分かったよ」
「じゃあ僕も参加しようかな。リヴェルと手合わせ出来るいい機会だ」
「雑魚と天才が参加してくれるとはありがたいねぇ。雑魚の方は戦う機会もなく負けていきそうだが、天才とは戦えることを期待してるぜ?」
「そうなんだ。僕はあまり興味ないんだけどね」
「ハッハッハ、言ってくれるじゃねーか。楽しみにしてるぜ」
◇
アギトと変な敵対関係になり、その後はフレイパーラのギルドを色々と見て回った。
良さそうなところはたくさんあった。
だが、結局俺が決めたギルドは──『テンペスト』だった。
「結局戻ってきちゃったわけね」
「……だな」
最初来たときは気づかなかったが、ギルドの扉の上にはうっすらと『テンペスト』と書かれた看板が貼り付けられていた。
やはり年季を感じさせる建物だ。
ギルドの扉を開けると、相変わらずの様子でフィーアが一人寂しくギルド内を掃除していた。
「──えっ!? も、戻って来てくれたんですか!?」
俺たちの存在に気づいたフィーアは、ぱあっと表情が明るくなった。
「まぁそういう反応になるよね」
クルトが控えめな笑い声をもらした。
「はい。色々なギルドを見て決めました」
「わあああ! うれしいです! でもどうしてウチに……?」
「ロイドさんの方針が決め手でした。才能に左右されずに強さを追い求める姿勢は凄く惹かれました」
「じゃ、じゃあ絶対に逃げ出さないでくださいね……?」
「はい、勿論です」
「お? 戻ってきたか!」
ロイドさんが奥から現れた。
俺たちの姿を見ると嬉しそうにグビグビと酒を飲みだした。
この姿を見ると本当にここで良かったのかと少し不安になる。
……だが、こういったギルドの方が立ち回りやすい。
新人大会で好成績をおさめれば情報も入手しやすくなる。
「はい。これからよろしくお願いします」
「おう。ガッツリ鍛えてやるぜ」
こうして俺たちはギルド『テンペスト』に加入したのだった。
厳しい特訓……か。
望むところだ。