24話 ギルド『レッドウルフ』
「一緒に冒険者を……?」
「ああ、俺の名前はロイド。重剣鬼のロイドだ。アデンの奴から名前ぐらいは聞いたことあるんじゃねーか?」
「ないですね」
思い返せば、父さんはあまり昔話をすることがなかった。
「……そうか。だがもう15年以上も前になるな。アデンはすげえ奴だった。才能なんかあてにならないと思ったのも奴のおかげだな」
ロイドさんの考えは父さんが昔から言っていることだった。
それだけに俺は自分の父を誇らしく思った。
「えっ!? じゃあ、その人のせいでギルドはこんな悲惨なことになってるの!?」
フィーアが言った。
「悲惨とはなんだ」
「特訓が厳しすぎるせいでギルドメンバーが増えないし、お父さんはいつもお酒飲んでるし、お金もないし! これが悲惨じゃないわけないでしょ!」
フィーアの怒鳴っている姿を見て、ものすごく鬱憤が溜まっていることが伝わってきた。
「確かに悲惨だね」
クルトが言った。
「大丈夫だ。ここにアデンの息子がいるだろ? ウチのギルドに入ってくれるさ」
「さっきは他所のギルドに行けって言っていたと思うのですが」
ラルはそう言って、不審な目でおっさんを見ている。
「アデンの息子となりゃ話は別さ。俺は大歓迎だし、鍛えてやりたいとも思うぜ」
「鍛える?」
そういえば、さっきフィーアは特訓が厳しすぎると言っていたな。
だとすれば強くなるために、ここは役立つかもしれない。
これは少し考える余地はありそうだ。
「ああ。実力をつけるのは才能なんかじゃねえ。自分を信じて努力することだ。俺はアデンにそう教わったのさ」
「……父さんらしいな」
「ハッハッハ、やっぱりそうか!」
愉快に、そして豪快な笑い声がギルド内に響いた。
「じゃあウチのギルドに入ってくれるな?」
「ちょっと他のギルドも見て決めたいと思います」
それとこれとは話は別だ。
色々な選択肢を考慮した方がいいだろう。
「えぇ!? お、お願いします! 他のギルドを見る前にウチに入ってください!」
俺の返事にフィーアが食いついた。
他のギルドを見る前って……。
「それでいい。だが俺のギルドに来れば強くしてやる。他所を見て、そこがいいと思うならそれで構わない」
「お父さん……! なんでそんなこと言うの! 私がどういう思いで毎日ギルドの掃除をして、冒険者をスカウトしにいこうと頑張ってるか……!」
……なんというかものすごく同情してしまう。
これだけ必死なのも頷ける。
◇
俺たちは『テンペスト』を後にして他の冒険者ギルドを探すことにした。
「良かったの? あそこのギルドマスター、お父さんの知り合いなんでしょ?」
「あそこにしようと思う気持ちはあるんだが、一応他も見ておきたくてな」
「リヴェル、さては厳しい特訓が目当てだね?」
クルトが言った。
「まぁそれが一番の理由だな。ロイドさんの才能は関係ないという考え方は父さんがよく言っていたことだ。だから信頼できる……と思う」
フィーアの泣いている姿が頭をよぎって、言葉を濁した。
「……自信なさげね。まぁ正直私は悪くないと思うわ。ギルド自体も大きいし、設備も充実している。きっとロイドさんがあのギルドを受け継いだのでしょうね。でも、才能は関係ないという考えのせいで新人冒険者達に厳しい特訓を課すうちにメンバーがいなくなってしまった。こんなところかしら」
「あー、そうだろうな」
容易に想像ができてしまう。
「昔は強豪で今は弱小。周りの評判は良くないでしょうね」
「そんなの関係ないよ。僕たちがギルドに入れば印象は大きく変わるはずさ」
クルトは自信がありそうだった。
「どうしてそう言えるんだ?」
「僕とリヴェルがいれば戦力としては申し分ないレベルだからね。経営面においても癪に障るがラルに任せておけば、まず間違いないよ」
「本当に失礼なやつね。それでも領主の息子かしら? でも言っていることはその通りかもしれないわね」
「ほんとかよ……」
俺はにわかに信じられなかった。
「冒険者志望の方達ですかー?」
「はい、そうですよ」
街を歩いていると、女の人に声をかけられたので返事をする。
「それなら是非、冒険者ギルド『レッドウルフ』に入りませんか? 今最も勢いのあるギルドで新人冒険者の中には【最上位剣士】の才能を持つ方がいるんですよ!」
【最上位剣士】か。
かなりの才能だが、英傑学園に入学しなかったのは何故だろうか。
「見に行ってみてもいいんじゃない?」
ラルが言った。
「そうだな」
「でしたら、ギルドまでご案内いたしますね!」
◇
案内されてやってきた冒険者ギルド『レッドウルフ』の中は先ほどとは比べ物にならないぐらい賑わっていた。
ガヤガヤとしたギルド内には酒を飲んでいる者が多くみられる。
「当ギルドの説明はあちらの受付にて行なっております」
とのことなので、受付に向かう。
受付嬢に話を聞くと、
冒険者にはランクがある。
(低← F、E、D、C、B、A、S →高)
ランクの人数はDランク、Cランクが山となるように分布されている。
冒険者に登録する者が多くなるこの時期では、Fランク、Eランクが多いみたいだがみんな順当にランクを上げて行く。
ランクは、ギルドの掲示板にある依頼をこなしたり、魔物を倒したりすることで得た実績を元に昇格していく。
『レッドウルフ』にはSランク冒険者が1名、Aランクが3名いて実力の高いギルドだそうだ。
また新人冒険者に【最上位剣士】が加入したことも一つのポイントとなっているようだ。
一通り話を聞いた俺たちはギルド内の机に座っていた。
「……こっちの方が良さげじゃない?」
ラルが言った。
「うん。なんかこっちの方がしっかりとしているね……」
俺も『テンペスト』には入らない方がいいような気もしてきた。
冒険者が逃げ出すような特訓が気になるけど。
「まぁ普通に考えれば、みんな『レッドウルフ』を選ぶんじゃないかな」
クルトは苦笑いしながら言った。
「だよなぁ……」
「お前らはこのギルドの参加希望者か?」
俺たちのところにやってきたのは一人の男だった。
狼のような耳を生やしており、荒々しい雰囲気を感じさせる。
歳は俺たちと変わらないぐらいか?
「今、参加を考えてるところですね」
俺は無難に返事をした。
「へぇ〜。で、お前らの才能は?」
「僕は【賢者】だね」
「ほぉほぉ【賢者】か。貴族のボンボンか? 気色わりい」
「いきなり失礼な奴だね」
「そっちのお前は?」
男はクルトを無視して俺に問いかける。
才能を聞かれるのは何気に困る。
もしギルドに加入することになったら、才能に嘘をつけないだろう。
正直に言っておくか。
「俺の才能は【努力】です」
「は? 努力? ……クックック、アッハッハッハ! なんだそれ、才能でもなんでもねえじゃねーか。要するにお前はただの雑魚ってわけか」
この反応にも慣れてきたな。
こういう輩はカルロで対応に慣れている。
無視が一番だ。
「才能でしか実力を測れないとはね。悲しい奴だ」
クルトが反撃した。
無視が一番とか言っておいてなんだが、少し嬉しい。
「ッケ、笑わせてくれるぜ。努力なんてのは雑魚がやっても意味ねえんだわ。才能があるからこそ努力する価値があるのさ」
「随分と自信満々だね。それほど自分の才能に自信があるのかい?」
「そりゃそうだろうよ。なにせ俺の才能は【最上位剣士】なんだからな」
……こいつが注目の新人冒険者だったわけか。