23話 ギルド『テンペスト』
ちょうど良いタイミングでギルドへの勧誘が来てくれた。
俺たちよりも小柄で、おどおどとしたウサミミの少女は深いお辞儀をしている。
せっかくだし、行ってみようかなと思ったとき、
「あ、大丈夫です」
「えぇ!? ど、どうしてですか!? い、今冒険者ギルドを探してるって……」
ラルが断った。
ウサミミの少女はショックを受けていた。
まさか即答で断られると思っていなかったかようだ。
そして少し涙目だ。
「ギルドなら私達で探しますので他をあたってください」
「そ、そんなぁ……」
ウサミミの少女はもう泣きそうだ。
「なんで断ったんだ?」
流石にかわいそうに思ったので、ラルに耳打ちしてワケを聞いてみる。
「並以上のギルドはメンバーを充実させようとスカウトが得意な才能を持つ者を雇っているわ。でも見たところあの子にはそれが無い。つまりあの子が所属しているギルドは、資金が無い弱小ギルドだってすぐに分かるわ。話を聞くだけ無駄よ」
「な、なるほど……」
流石は商人。
よく観察していた。
ラルの言うことは概ね当たっているだろう。
話を聞いて俺はすごく納得した。
「それに関してはかわいそうだけど僕も同感だね」
クルトまでも賛同した。
「……ぐすっ、生活がもうヤバいんです……どうか、一度お話しだけでも聞いて頂けませんかぁ……」
泣いた。
生活がヤバいってどんだけ貧乏なんだ……。
流石にかわいそうだと思ってしまう。
今のところ、ここのギルドに入ろうとは思えないが話だけでも聞いてみることにするか。
「……可哀想だし、話だけでも聞いてあげればいいんじゃないか?」
俺はラルとクルトの方を向いて言った。
「まぁリヴェルがそう言うなら全然良いよ」
「それで後腐れなく断れるならそれが一番だね」
二人は特に反対することなく受け入れてくれた。
断る前提なのはさておき。
「あ、ありがとうございます! ギルドまで案内いたします!」
涙を拭いて、ウサミミの少女は一変して笑顔になった。
分かりやすく喜んでいる。
そして案内されたギルドの外観は予想以上に大きい……というよりも道中で見かけたギルドよりも大きく立派なものだった。
「え、これ?」
俺はウサミミの少女に聞いた。
「はい! これです!」
誇らしげに少女は胸を張りながら言った。
「……まさかすぎるわね」
ラルは顔を引きつらせながら言った。
先ほど言っていた自分の見解とは大きく離れた結果に出くわしたからだろう。
「皆さん、中にお入りください!」
ウサミミの少女が扉を開けたので、言われた通りに俺たちは中に入った。
「こ、これは……!」
中に入った俺は驚いた。
がら〜ん。
人が誰もいなかった。
「冒険者ギルド『テンペスト』へようこそ!」
ウサミミの少女は先ほどより二段階ぐらい明るくなった声を出した。
だが、冒険者ギルド内は誰もいない。
その元気な声とは裏腹にギルドの空気は冷たい。
「……ラルの読みは当たっていたようだな」
俺は呟いた。
「……そうね」
ギルドの中を見渡すと、設備は悪くないようだった。
少し年季を感じる物が多いけど、特に汚い様子でもなく、普段から掃除されていることが分かる。
「これで心置きなく断れるね」
クルトがそう言うと、ウサミミの少女はまた目に涙を浮かべた。
「そ、そんなぁ……。お願いです! どうかこのギルドに入ってください! もう資金が底を尽きて生活もままならないんです!」
土下座して懇願されても……。
そのとき、ギルドの奥の扉が開いた。
「どうしたぁ? また嫌がらせかぁ?」
出てきたのは顔を赤くして左手に酒を持ったおっさんだった。
見るからに酔っ払っている。
だが、右腕をなくしているようで服の袖がぷらーんと垂れていた。
「お、お父さん……!」
「あぁ、フィーア。またお前勧誘してたのか。やめとけやめとけ、根性のねぇ奴らを入れても無駄だ」
おっさんは左手に持った酒をグビグビと飲み出した。
「もぉ〜〜〜お父さん! そんな態度とってるからいつまでも経っても誰も入ってくれないんでしょ!」
ウサミミの少女の名前はフィーアと言うらしい。
で、あのおっさんはフィーアのお父さんというわけか。
頭にウサミミが生えてないのにお父さんなんだな。
「そんなことねぇ。今年は新しいメンバーが一人増えた」
「それって12歳になった私じゃん!」
「おう。お前がうちのエースだ」
「私だけじゃどうしようもないよ!」
フィーアはお父さんに対して怒りを爆発させていた。
「そういうわけでお前らは他所のギルドに行って──ん?」
おっさんは喋るのをやめ、まじまじと俺の方を見つめながらこちらに向かってきた。
「……お前、剣聖アデンの息子か?」
おっさんの口から出てきたのは驚きの言葉だった。
「そうですけど……」
「え、リヴェルのお父さんって剣聖だったの!?」
「剣聖の父親を持ちながら魔法にも興味を持つとはね。流石、僕の師匠なだけはある」
ラルとクルトは驚いているようだった。
「ハッハッハ、まさかあのアデンに息子がいるとはなぁ!」
おっさんは豪快に笑い出した。
「あの、父さんを知っているんですか?」
「おう、もちろんよ。なにせ俺はアデンと一緒に冒険者をしていたんだぜ?」
おっさんの口から出てきたのは驚きの事実だった。




