21話 弟子が出来る
馬車はラルが用意したものを使うことになり、既にウェミニアを出たところだ。
馬を操るのはラル。
俺とクルトは荷台で魔法の話に花を咲かせていた。
「賢者なら鍛えていれば《無詠唱》のスキルを取得できるんだけど、リヴェルはどうやって使っているんだい?」
クルトは魔法について話をすることが好きみたいだ。
神様に『魔法への探究心を満たせる』と言われるだけのことはある。
「魔法を一から構築できるだけの魔法理論を身につけたら、いつの間にか《無詠唱》を取得していたな」
俺の場合は取得条件が明確になっているため分かりやすい。
そういえば、魔法理論の他にも《魔力操作》《魔力循環》というような基礎的なスキルも覚えておく必要があったな。
まぁこれぐらいはクルトも取得していることだろう。
「……興味深い話だね。続きを聞かせてくれるかな?」
「ん? 魔法理論については文献を漁ればある程度は載っているだろ?」
実際に《英知》で調べることが出来たんだ。
領主の息子という立場であるクルトは昔から魔法の勉強をしていたみたいだし、きっと多くの魔導書を読んでいるだろう。
「ああ。普通の魔法理論などは文献を漁ればいくらでも出てくる。だが、リヴェルの知っているものと僕の知っているものでは明確な差があるのさ」
「差?」
「僕の知っている魔法理論はどう応用しても、一から魔法を構築することは出来ない」
「……へ?」
一から魔法を構築することは出来ない?
それは魔法理論と呼べるのか?
魔法の基本は《魔力操作》と言っても過言ではない。
それを前提とし、イメージや魔力波長などの様々な要因によって、魔法というものが出来上がる。
「リヴェル……君の知っている魔法の知識は古代魔法の特徴に酷似しているよ」
古代魔法は既に失われた魔法の技術だということしか俺は知らない。
だが、失われた魔法の技術を知るなんてことは《英知》にも無理なんじゃ……。
──いや《英知》なら可能か。
────────────────────
◯スキル《英知》
任意の情報を知識として手に入れることが出来る。しかし、秘匿されている情報は不可。
────────────────────
《英知》が手に入れることの出来る情報は、秘匿されていないものだ。
失われた情報は《英知》によって知ることが出来る……?
だが、そうだとすれば俺が感じていた違和感も説明がつく。
以前、宿場町レアシルで出会った【魔法使い】の才能を持つケイトと話したときだ。
ケイトの実力や知識は俺が情報として知っていた魔法使いの普通とかなり差異があった。
その理由が俺の知っている情報が古代のものだとすれば、簡単に説明がつく。
「……なるほど。確かにそうかもしれない」
俺はしばらく考えてからクルトに返事をした。
「……そうだとすれば君は賢者をも超える最強の魔法使いになれるかもしれない。古代魔法というのはそれだけの力を持っている」
「それは嬉しいな」
なにせ俺が目指しているのは世界最強だ。
なれるかもしれないじゃない。
なるんだ。
世界最強に。
「リヴェル……僕を弟子にしてくれ!」
「で、弟子!?」
突然のことでびっくりした俺は少し声が裏返った。
「現代魔法には限界がある。だからリヴェルの知識を教えて欲しいんだ!」
「ま、まぁいいけど……」
「本当か!? ありがとうリヴェル!」
よく分からないまま俺に弟子が出来た。
◇
夕暮れ時になると俺たちは馬車を止めて、野営の準備を始める。
……どうやらラルとクルトは本当に仲が悪いらしい。
なにか心無しか空気が悪い。
どうにかして二人の仲を良くしていきたいところだ。
……でもどうやって仲良くなるんだ?
うーん、と俺は頭を悩ませた。
『キュウ、ラルとクルトの仲を良くするにはどうしたらいいと思う?』
悩んだ末に出た結論は話し合いだった。
話し相手は子竜のキュウ。
人間目線では考えつかない新鮮な意見を貰えるかもしれない。
『けんか!』
『……喧嘩をさせるのか?』
『キュウ、たたかってるところみたい!』
『……いや、良い考えかもしれないな』
そもそも二人が何で仲が悪いのか俺は知らない。
大切なのは会話だ。
美味い飯でも食べながら、お互いの思いを打ち明ける。
喧嘩にまで発展するのは防ぎたいところだが、もしかしたら誤解から生まれた不仲かもしれない。
うん、良い案だ。
愛くるしいキュウもいる訳だし、雰囲気が悪くなることはないだろう。
『やった! けんか!』
『すまん。喧嘩は無しだ』
『えぇ!? けんかぁ……』
残念そうにキュウは翼をガックリと落とした。
「食糧をとりにいってくるよ。クルトはラルが魔物に襲われないようにここにいてくれる?」
「それなら僕が食糧をとりにいこう」
「私もそうしてくれると助かるわ」
やはり二人とも反対してきた。
「俺は《アイテムボックス》のスキルを持っているから食糧を集めるのに何かと便利だよ」
「あ、そういえばそうだったか……」
二人には話し合う時間を出来るだけ与えた方がいい。
これ以上仲が悪くなることはない……よね?
「リヴェルは《アイテムボックス》のスキルまで持っているのか! 流石だな。残念ながら僕よりもリヴェルが適任のようだ」
「残念ってなに?」
ラルは笑顔でクルトには聞くが、俺には笑っていないように見えた。
「そのままの意味だよ」
「そう。確かに私も残念だわ」
……本当にこれ以上仲が悪くならないのか?
『キュウもいくっ!』
『キュウはお留守番していてくれ』
『えぇっ!? さんぽぉ……』
『あの二人を仲良くさせるように頑張ってくれないかな?』
『あい』
キュウはめちゃくちゃ良い子だった。
『ごめんな。任せたよ』
さて、二人を笑顔にさせるようなとびきりの料理を作ってやらないとな。
美味い飯には美味い食材が必要だ。
ちょうどこの付近から生息する魔物の種類も変わる。
あの魔法を試す絶好の機会だろう。