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1話 【努力】の才能

 才能とは神から授かるもの。

 自身が何を目指すか、それを決定するためのしるべとなる。


 12歳になった者達は、神殿に訪れ、神からの啓示を頂く。


 俺もその一人で、幼馴染のアンナと一緒に神殿に訪れていた。



「どんな才能が貰えるか楽しみだね」


「そうだな」


「私は【パティシエ】とか可愛い才能がいいなー」


「甘いもの好きだもんな」


「うん! これが終わったら食べたいぐらいね。だからお願いね」


「はいはい」



 アンナは楽しそうに茶色い髪をなびかせながらキラキラした目で言った。

 きっとこの後に食べる予定の甘いスイーツを想像しているのだろう。

 で、それを作るのは会話から分かるように俺である。


 周りは同じ12歳の子供達でいっぱいだ。

 その中でも断トツに可愛いアンナには自然と視線が集まる。

 隣に並ぶ俺としては、勘弁してくれという思いが強い。



「あなたの才能は【剣士】ですね」


「よっしゃあ!」



 列の先では次々と子供達が神官から才能を告げられている。


 神の啓示を伝えることが出来るのは高位神官という神官の中でも優れた人にしか出来ないみたいだ。


 一見、【剣士】は才能ではなく職業に見えるが、これは伝え方に工夫を施したからみたいだ。


 剣術の才能がどれだけかを現しているようで、剣術と魔法が同じぐらい優れていたら【魔法剣士】と告げられることもあるそうだ。


 要は言葉本来の意味に囚われることなく、告げられる人に最も分かりやすく伝わるように追求した結果がこのような形になったらしい。



「【剣士】や【魔法使い】の人が多いね」



 アンナは様々な人の才能を聞いてきた感想を述べた。



「もともと才能が与えられることになったのは、魔物に対抗するためらしいからな。弱い人類を見兼ねて神様が助けてくれたってのが一説だ」



 しかし、それだけでは文明が発展しなかったのか知らないが、【商人】だったり【鍛冶職人】などという戦闘には関係ない才能も与えられている。


 まぁ真実は神のみぞ知るってやつだ。



「リヴェルは何でも知ってるね」


「これぐらいなら割と多くの人が知ってるんじゃないか?」


「えー、そんなことないよ。だって私知らないもん」


「なるほど。じゃあ俺は同年代に比べると物知りな方かもな」


 俺は納得して流すことにした。


「うん! 絶対そうだよ!」


 こんな感じでアンナは俺を少し過大評価しているところがある。

 喜んでいいのか悪いのか分からないので、俺はよく話をはぐらかしている。

 まぁ物知りなのは否定しないさ。

 なにせ俺には秘密があるからな。

 それこそ誰にも言えないような秘密が。



「次の方どうぞ」


「はーい! 私です! アンナって言います!」



 順番が回ってきたらしい。

 アンナが元気よく返事をし、その勢いで名前まで告げ、神官の前に立った。

 周りに少し笑いが起きた。



「こ、これは……」



 しかし、周りとは対称に神官は目を見張った。

 まさに驚愕といった様子だ。

 そして、アンナの才能をゆっくりと告げた。






「アンナさん──あなたは天才です。……あなたの才能は【竜騎士】です」





 竜騎士。

 騎士の才能の中でも最上位にあたるものだ。


 ドラゴンは知能が高く、かなり強い。

 自分より強い存在に敬意を示し、心優しい人間を好む。

 その二つの条件が達成できたとき、ドラゴンを手懐けることが出来る。


 つまり【竜騎士】を告げられる条件は、ドラゴンを手懐けることが出来るほどの優しい心を持ち、騎士としての破格の才能が無ければならない。


「すげええぇぇぇ!」


「可愛いのに強いとかなにそれもう最強じゃん!」


 アンナの才能は誰もが認める素晴らしいものだった。

 それはもうファンクラブなんかが出来そうな勢いで。


「え? ──え?」


 アンナは何が起こっているのか理解ができないのか、キョロキョロと辺りを見回している。


「アンナさん、明日また神殿にいらしてください。時間はいつでも構いません」


「……あ、はい。分かりました」


 神官が言ったのをアンナは呆然として答えた。


 ……そりゃそうか。

 アンナは優しくて戦いを好まない。

 欲しかったのは【パティシエ】みたいな可愛くてみんなを笑顔にするような才能だ。


 ただまぁ、あの啓示には納得してしまうところもある。

 ……なにせアンナは料理がめちゃくちゃ下手だから。

 一度、俺はアンナの料理を食べたとき気絶しかけたことがある。

 みんなを笑顔にするどころか死者が出てしまう。


 ……落ち込んでいる本人の前では絶対に言えないけどな。


「次の方どうぞ」


「へーい」


 アンナの物凄い才能が告げられた後だ。

 それに比べて俺の才能はかなりちっぽけに見えるだろう。

 そのダメージを少しでも抑える為に俺はやる気なさそうに返事をした。


「え、ぷっふ。──すみません。才能をお告げしますね」


 この神官、笑ったんだけど。

 なんで?

 もしかしてヤバい才能だったりする感じですか?

 てか、人の才能見て笑うとか失礼じゃない?






「あなたの才能は【努力】です」







「は?」



 反射的に声が出た。




「「「アッハッハッハッハッハ!」」」





 そして周りは爆笑の渦に包まれた。


 【努力】なんて才能聞いたこともない。

 ましてや才能なんて呼べる代物でもないことも明らかだ。

 明らかに最低の才能。

 【竜騎士】と【努力】

 その大きすぎる落差に笑いが生まれたのだ。



 俺は思わず顔を伏せてしまった。



 



 でも実を言うと、俺は悔しくて、悲しくて、そういった感情で顔を伏せた訳ではない。






 最低な才能を前にして、可能性を見出してしまった。

 そのときの顔を見せれば、不気味に思われてしまうだろう。

 この状況は悲観していなければおかしい。




 だから顔を伏せた。








 ──才能は告げられる人が最も分かりやすい形で伝えられる。








 どうやらこれは本当みたいだ。







 【竜騎士】がいくら凄くても俺はそれを超える可能性を秘めた才能を手にした、と本気で思っている。







 なにせ考えれば考えるほど【努力】という才能は俺にとって最適なものなのだから。






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[一言] 転生者でもない12歳の子供でこの思考回路はえぐい
[気になる点] 行間が気になり読みづらいと感じました
[一言] 面白いです。
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