18話 一石二鳥の塩づくり
クルトと旅立つことが決まったが、まだ色々と準備があるようですぐにはウェミニアを出ることが出来ないようだ。
だから俺は一人で修行することにした。
これは金策も兼ねているため、一石二鳥だ。
「あっ」
「やっほー」
宿屋から出ると、ラルが待ち構えていた。
「なにか用か?」
「用って程でもないんだけど、何してるのかなーって」
「これから魔法の修行をしに行くんだ」
そういえばラルは大規模な商会を持っていたな。
これから作るものを査定してもらえば、良い値段で買い取ってくれるかもしれない。
「どんなことするの?」
「ある物を作ろうかなって。品質が良ければラルの商会で買い取ってもらいたいな」
「ほほぅ! それはお金の匂いがするねぇ!」
ラルは急にテンションが上がった。
「それでそれで? 一体何を作るんだい?」
「まだ作れるかは分からないけど、塩を作ろうかと」
「塩! いいね。需要は結構高いし、それ相応の価値になるだろうね」
「良質な塩は作れないだろうけどね。粒が粗くなると思う」
「大丈夫。量さえ確保できれば何も問題はないわ」
「分かった。じゃあまずは海岸に行こうか」
「おー!」
「キュゥー!」
◇
海岸にやってきた。
実は初めて海に訪れた。
潮風が吹き、独特な海の匂いがした。
「それで、どうやって塩を作るの?」
「海水を蒸発させようと思う」
「え、それは流石に無理なんじゃない? それに蒸発させても波とかで流されそうだし」
「それを防ぐのにまずは人工池を作ろうかなって」
土魔法を使用して、土の壁で海水を囲んでいく。
地面に魔力を伝達させ、俺の思い描く場所に壁を作る。
魔力は豊富にあるが、初めてなのであまり大きくしすぎない程度に人工池を作成。
「……こんな瞬時に作れるものなのかしら」
「やろうと思えば出来る人は多そう。俺の魔法はまだまだ未熟だから」
《英知》で知ることの出来る魔法の知識を俺はまだ全体の5%も理解できていない。
まだまだ先は長い。
これぐらい出来たぐらいで満足していてはならないのだ。
「……未熟? ……えぇ?」
次に俺は人工池の中にある海水を蒸発させる作業に入る。
このままの状態でも蒸発はするが、効率を高めるには海水の温度を上げる必要がある。
俺は直接水の温度を上げることにした。
火魔法の理屈は温度変化だ。
温度を上げることによって火を作り出している。
そう考えれば、氷魔法も一緒だ。
しかし区分しやすいように温度を正に変化させたものを火魔法。負に変化させたものを氷魔法としているわけだ。
海水の温度が高まり、ぐつぐつと沸騰してきた。
人工池にある分の海水を全て蒸発させるには何回か魔力枯渇状態になるだろう。
「ねぇ……魔力とか大丈夫なの?」
ラルが少し心配してそうな様子で聞いてきた。
「何回か魔力枯渇状態になるぐらいだから大丈夫」
「それ全然大丈夫じゃないじゃん!」
……確かに。
最近では魔力枯渇状態になることが当たり前になりすぎて、少し感覚が麻痺していたようだ。
これ普通に考えたらめちゃくちゃ苦しいし、1回でもなろうものなら大丈夫じゃないっていうレベルだ。
「ほら、ポーション持ってきたから飲みなさい」
そう言って、ラルはバッグの中から赤紫色の液体が入った小瓶を取り出した。
これがポーションか。
初めて見るな。
「……飲んでいいのか?」
「もちろんよ。貴方のために用意してきたんだから」
「……後でポーション代とか言って、めちゃくちゃな額を請求してきたりしない?」
「貴方、私のことを何だと思ってるのよ……」
「いや、それだけ最初の印象が悪くてな……」
ピート達を囮にしたというあの話だ。
「あれは私も悪いと思っているのよ? でもあの状態で何もアクションを起こさずに、ただ逃げているだけだと4人全員が死ぬわ。それなら3人を護衛に雇った私だけでも生き残るために最善を尽くすのが合理的じゃないかしら? ……ハァ、どっちにしろ印象は悪いわね。これが商人の生き方なのよ」
「いや、ラルの考えを聞いて納得できたよ」
「え?」
「ラルの行動は正しいよ。相手に悪いと思いながらも自分の考えを曲げないその生き方は立派だと思う」
「やめてよ。そんな褒められた事じゃないわ。非難されるべき行いよ」
「かもしれないな。でもラルはいいやつだよ。ポーション、ありがたく頂戴するね」
小瓶を手に取り、赤紫色の液体を飲み干した。
「……まっず」
「っぷ。アハハハハ! カッコつけてたのにそれじゃ締まらないわね」
「……カッコつけてた?」
「ええ。カッコつけていたわ」
……よく分からんな。
◇
「この短時間でこれだけの塩を作れるとはね……」
海水は蒸発し、塩が出来上がった。
量にしては100kg程度だろうか。
これだけで金貨50枚ほどの価値がある。
ラルのくれたポーションのおかげで魔力枯渇状態にはならないで済んだ。
まぁ結局後で自発的に魔力枯渇状態になるのだが、ラルの厚意は素直にありがたい。
「運搬するのも一苦労ね。一度街に戻らないと」
「いや、少し待ってくれれば運搬は出来るはずだ」
「え? なんで?」
「スキルを取得するのさ」
「スキル!? 少し待ったぐらいで取得出来るわけないじゃない!」
「やってみなきゃ分からないだろう?」
「……じゃあ少しだけ待ってみることにするわ」
スキル取得条件を確認したところ、俺でも出来そうだったのであまり時間はかからないと踏んでいる。
そしてこれはめちゃくちゃ便利なスキルだ。
この機会に是非取得しておくとしよう。