17話 初めての仲間 (おまけ有)
「先日はかなり迷惑をかけたね」
「まぁ、そうだな」
「アーニャは僕の従妹なんだ。僕が本家でアーニャが分家。そのせいで昔から比較されることが多くてね……。アーニャは凄く頑張り屋さんなんだ。でもいつもそれが空回りしてしまうんだよ」
色々と事情がありそうだ。
話を聞くと、クルトとアーニャは同じ12歳で生まれてからずっと一緒だったみたいだ。
出来がいいクルトと出来の悪いアーニャ。
地位も違っていれば、実力も違う。
「そういえばアーニャはどうしているんだ?」
「ああ、少し罰を与えているんだ。今まで言って聞かせてきたけど、被害が出てからでは遅いからね。それに周りが見えなくなることは何よりもアーニャ自身を苦しめている。だから僕はアーニャの思考を少しだけ矯正することにした」
「矯正?」
「精神魔法をアーニャにかけ、自らが過ちを犯し、後悔に苦しむ幻覚を見せている。精神が壊れてしまわぬように最大限の注意を払いながらね」
精神に関与する精神魔法は非常に難易度が高い。
それを平然と行なっているクルトは一体何者だ?
「俺と同じ歳で精神魔法が使える奴がいるなんてな」
「……ほう。やっぱりリヴェルは魔法に詳しいようだね。それについて僕はかなり気になっていたんだ。何やら無詠唱で魔法を発動したそうじゃないか」
「まぁ勉強はしているな。クルトの方こそ一体何者だ?」
「僕は才能が【賢者】だからね。賢者を志す者として然るべき知識を身につけているだけさ」
賢者は【魔法使い】関連の才能で最高のものだ。
「賢者か……。英傑学園には行かなくてよかったのか?」
【竜騎士】の才能と引けを取らない最高の才能を持っているというのに、英傑学園に入学していないのは疑問だ。
なによりあそこは国の方針で才能あるものをかき集めているというのに。
「高等部から入学することになっているよ。魔法の探究を行うには学園には行かない方が良いらしいんだ」
「……らしい?」
クルトの言葉には引っ掛かりを覚えた。
「うん。才能を貰った日の晩に神の声を聞いたんだ。それに従うなら英傑学園には行かない方がいい」
「神の声ねぇ……。俺は聞いたことがないからなぁ」
「ちゃんと神様だって自己紹介してくれるよ」
「律儀な神様だな」
「ハハハ、本当だよね。それでリヴェルの才能は?」
クルトから才能を教えてもらっているのに俺だけ教えないのは不公平か。
しかし才能が【努力】であることを告げるのは少し躊躇いがある。
先程の話題が魔法に関することであったため、俺は【魔法使い】だと言った。
「リヴェルが【魔法使い】だって? 嘘はやめなよ。アーニャに向かってくるあの身のこなし。才能を貰ったばかりの魔法使いが出来ることではないよ」
こいつ……変に鋭いな。
こうなっては仕方ないか。
素直に自分の才能を話すとしよう。
「実は俺の才能は【努力】というものなんだ」
ガタッ。
俺がそう言うと、クルトは勢いよく立ち上がった。
そして俺に近づいてきて、両手を握った。
「──やっぱりそうだったか!」
かなり興奮した様子でクルトは言った。
「やっぱりだと?」
「ああ。最初からそうなんじゃないかと思っていたんだ」
「待て待て。一体どういうことだ?」
【努力】の才能は全く知られていない。
俺の住んでいた街で少し噂になっていたレベル。
離れたところに住むクルトが知っているはずない。
「さっき言ったよね。神の声を聞いたって」
「……まさか」
「神は言ったんだ──『貴方の前に現れる【努力】の才能の持ち主は、魔法への探究心を満たしてくれる』ってね。つまりリヴェル、君だったんだ」
魔法への探究心を満たす?
……《英知》が関係しているのかもしれない。
「お前……知っていて近づいてきたのか?」
「まさか、単なる偶然さ。いや、この場合必然とでも言うのかな?」
不可解なことがある。
どうして神様は俺の知らないところでクルトに語りかけていたのか。
そして何故俺にコンタクトを取らなかったのか。
考えていても答えは出ないだろうが、少し気になることではあった。
「……それで【努力】の才能を持つ俺が現れた訳だが、クルトはどうするつもりなんだ?」
「リヴェルと一緒に旅をしようかなって」
「……領主の息子なのに大丈夫か?」
「平気さ。父上には既に僕の考えを伝えている。英傑学園の高等部にさえ入れば文句はないさ。……それにアーニャは僕がいない方が成長できる」
「まぁ旅を同行するのは良しとして、アーニャはお前がいないと問題を起こすんじゃないか?」
アーニャは人の話を聞かない性格のように思える。
悪い奴じゃないんだろうけどなぁ。
「アーニャには僕の存在自体がプレッシャーなのさ。僕に追い付こうと必死でアーニャは自分の能力以上を求めて自滅する」
「……」
そう言うクルトの目は少し寂しげだった。
でも確かにクルトの言うことは的を射ている気がした。
少しだけの付き合いだが、あのときのアーニャの行動は少し焦っているようにも感じていたから。
「リヴェルの才能は【努力】だよね。だったら一人で努力するよりも二人で努力した方が色々と捗るんじゃないかな?」
その通りだ。
協力者がいるだけで出来ることの幅は大きく広がる。
クルトは魔法への探究心を満たすために。
俺は更なる努力のために。
「旅の仲間に【賢者】が居てくれたら大助かりだ。一緒に来てくれるか?」
「ああ、よろしく頼むよ」
「よろしくな」
俺とクルトは握手をした。
それは俺に旅の仲間が一人増えた瞬間だった。
◇
おまけ
一方、精神魔法をかけられたアーニャはと言うと。
「……ごめんなさい……ごめんなさい」
暗い部屋で一人泣きながら、謝罪の言葉を述べていた。
見えている幻覚は移り変わりながらも何処か現実味を帯びながらアーニャの精神を蝕んでゆく。
それは悪夢と言うにふさわしく、自分の行いを後悔させるのには十分すぎるほど悲惨な幻覚だった。
「……もうしません! もうしませんから!」
この体験はアーニャの心の奥底に軽いトラウマを残した。
クルトの荒療治だが、アーニャには効果抜群であった。
日常生活に支障はないものの、何かを決断する際に「それは本当に大丈夫なのか?」と先のことを考える材料となる。
そしてアーニャが解放されたのは精神魔法をかけられて24時間経ってからのことだったという。
解放されたアーニャは、しばらく泣きながらクルトに謝ったらしい。
めでたしめでたし。