15話 浮浪者の襲撃
昨晩は野営をしていた為、俺は馬車の外に放り出され、ずっと見張り役をやることになった。
おかげで寝不足が続いている。
だが時間は有限だ。
俺は限られた時間を効率良く努力しなければならない。
『あるじ、魔力すごい』
今俺は魔力を放出し、魔力枯渇状態になろうとしていた。
『そうか?』
『でてる魔力、キュウより多い!』
『ふふふ、まあな。これでも魔力枯渇状態は何度も経験して──』
あ、魔力が切れた。
「があああああああァァァァァァ!」
声を出すつもりは無かったが、キュウに褒められたのが嬉しくてつい出す量を増やしてしまった。
その結果、不意打ちの魔力枯渇状態だ。
「うるさいわね──って大丈夫!?」
ラルは馬車を止め、俺に近づく。
「青ざめた顔してるけど……まさか、魔力枯渇状態……?」
「……ふぅ、そうだ」
「でもその割には元気そうね」
「まぁ他の人よりは魔力の回復が早いかもしれないな」
≪魔力超回復≫のおかげで魔力の回復の早さは常人の倍だ。
「え、じゃあ本当に魔力枯渇状態なの?」
「そうだと言ってるだろう」
「どんだけ我慢強いのよ……まぁいいわ。あなたが凄い努力家なのは分かったけど、ちゃんと護衛もしてよね」
「もちろんだ」
この周囲には温厚な性格の魔物が多い。
比較的安全ではあるが、依頼を受けている身なのだ。
もう少し気を引き締めて取り掛かるとしよう。
◇
そしていくつか宿場町を経由しつつ、ウェミニアについたのは5日後だった。
「んー、やっと着いたー!」
ラルが手を上にあげ、背を伸ばした。
「キュウゥ~~~」
キュウもラルを真似て伸びをした。
関所を抜けた先は、多くの露店が立ち並んでおり、人の数も多い。
商人ギルドも見え、最も商人が多いというのも伊達ではない。
「護衛はここまででいいよな」
「せっかくなんだから私の商会まで来なさいよ」
「商会?」
「そ。出会ったのも何かの縁だし、宿屋ぐらい手配してあげてもいいわ」
「本当か!? ……お前いいやつだな」
「護衛のお礼よ。町長に嵌められてたんでしょ?」
「そうだな。だけど結果的には早くウェミニアに来ることが出来た」
普通の馬車なら5日では済まないだろう。
「なにその底抜けのポジティブさ。リヴェルの方こそいいやつじゃない」
ラルの商会に着くまで馬車に乗っていた。
商会の横には厩舎があり、そこに馬車を預けた。
ラルの商会は凄まじい大きさで他の建物と比べると、倍ぐらいのでかさであった。
商会内に入り、ラルの書斎まで行くと宿屋の紹介状を書いてもらった。
これで俺がウェミニアに滞在している間は宿屋がタダということになる。
紹介状を貰った俺とキュウはラルにとても感謝した。
宿屋までの道のりを歩いていると、頭の上に乗っているキュウのおかげで変に目立ってしまっていた。
『ラル、思ってたよりいいひと』
『俺も最初はもしかして悪い奴なんじゃないかと少し思ったけど、案外そうでもなかったな』
『あもんど買ってくれたからいいひと』
宿場町に着いたらラルはキュウにアーモンドを買ってくれていた。
それでキュウはラルに懐いた。
こいつチョロい。
そんな俺たちの前に路地裏から二人の男が現れた。
「おいゴラァ! オメェ、なに頭のもん見せつけながら歩いとんじゃい!」
「これだから貴族の坊ちゃんは困るぜ。ケケ」
ボロボロの服を着た浮浪者だ。
一人はガタイの良い男。
もう一人は痩せ細っている不気味な男。
ウェミニアは商人が多い反面、貧富の差は激しい。
スラム街が形成されており、そこには主に盗品など表の市場では見ることの出来ない貴重なアイテムが売られていたりもするようだ。
「なにか用ですか?」
「用って程でもねぇよ。ちと、その頭の上に乗せてるもん置いて行ってくれねえか?」
「おっと、拒否権はないぜ? ケケケ」
男はニヤニヤと笑いながらナイフを舌で舐める。
「先を急いでるので失礼します」
「ゴラァ! 待たんかい!」
左肩を掴まれた。
俺は右手でその手首を掴み、後ろを向いた。
「離してもらえますか?」
「──ぐっ、このッ! やっちまえ!」
男は肩から手を離し、殴りかかってきた。
「ケケケッ!」
もう一人の男もナイフを突き刺そうと動き出した。
この街は、こういうのが日常茶飯事なのか?
そうだとすれば恐ろしく治安が悪いだろう。
しかし幸にして俺には彼等の動きが全て見えていた。
まずはナイフという凶器を無効化することが大事だ。
下手すれば怪我人が出る。
殴りかかってきた拳を半身をずらして躱す。
「なッ!」
そしてもう一人の男がナイフを持つ手目掛けて、かかと落とし。
ナイフは地面に落ち、カランカランと音を立てた。
「ひぎっ!」
そのまま足を地面に着地させ、もう片方の足で腹に蹴りを入れる。
「ごふっ──」
ナイフを持っていた男は腹に手を当てて地面に倒れた。
「このヤロォ!」
ガタイの良い男は、怒りの形相で再び殴りかかってきた。
今度は拳を受け止めて、腹を殴り返した。
「ガハッ──」
腹筋が鍛えられていたが、無事効いてくれたようだ。
『あるじ……カッコいい!』
パタパタと空中に避難していたキュウは目を輝かせながら念話で思いを伝えてきた。
『本当は痛めつけずに無力化出来ると良いんだがな』
生憎だが俺は、まだその域まで達していない。
『よけいにカッコいいっ!』
……うーん、何かキュウのツボにハマってしまったみたいだ。
まるでヒーローを見るかのような尊敬の眼差しだ。
「──おいお前ッ! 何をやっている!」
道の先で声を張り上げたのは、ローブを着た魔法使い風の女だった。
「俺はこの人達に襲われて──」
「問答無用だ! 今から私がお前の暴力を止めてやる!」
この子かなり勘違いしているのでは?
……やっぱり、痛めつけずに無力化出来れば一番よかったな。




