14話 無詠唱魔法
俺が乗っている馬車の荷台には、様々な物が置かれている。
流石は商人といったところか。
「あ、そこらへんの物勝手に触らないでよね」
「大丈夫です。その辺りの配慮はしっかりさせてもらいますよ」
「ふーん。とりあえずさ、道のりは少し遠いんだし、親睦を深めるために敬語は無しにしようよ」
「あー、分かった」
「うん、よろしい」
「キュウゥン!」
子竜が少し大きめな鳴き声をあげた。
「おぉっ!? どうしたどうした」
『お腹空いた!』
あー……確かに昨日から言ってたな。
《念話》を取得するのに夢中で何も食べさせてあげれていない。
でも馬車に乗っちゃってるしなぁ。
『ちょっとラルに食糧がないか聞いてみる』
『あもんどすき』
あもんど?
……アーモンドか。
「ラル、この子がお腹を空かせているみたいなんだが何か食糧はないか?」
「食糧? 荷台の奥に積んであるよ。まぁ1日分しか無いから食べさせすぎないようにね」
「1日分か」
「目的地であるウェミニアまでは宿場町が豊富にあるからね」
貿易都市ウェミニア。
商いが盛んに行われており、近くに港がある。
商人ギルドの数も多く、かなりの商人がウェミニアで店を構えている。
貿易商人が多いこともあって、ウェミニアの近くには自然と多くの宿場町が出来ていった。
ウェミニアはフレイパーラに向かう途中にある最も大きな都市だ。
ウェミニアに到着すれば、フレイパーラまでの道のりは大体半分ぐらいか。
「ありがとう。助かるよ」
そう言って俺は荷台の奥の食糧を取り出した。
食糧は干し肉やお茶など保存食がメインだった。
『お、アーモンドあるじゃん』
『あもんどっ!』
子竜はアーモンドが入っている麻袋に首を突っ込んだ。
がつがつと食べる子竜。
そういえば、子竜って何を食べるんだろうか。
気になって《英知》で調べてみると、どうやら何でも食べるらしい。
流石ドラゴンだ。
アーモンドを食べている子竜をぼんやりと眺めていると眠たくなってきた。
まぶたが重い。
仮眠を取ったが、疲れはまだ溜まっているみたいだった。
そのまままぶたを閉じて、少し眠ることにした。
◇
「もう! なにやってくれてんのよ!」
……ん。
ラルが怒鳴っている。
その声で目を覚ましたわけだが、一体何が起こったのだろうか。
「キュゥゥン〜……」
「どんだけ食べてんのよ! 今日食べる分何も無いじゃない!」
子竜が申し訳なさそうな鳴き声をあげながら、文字通りぽっこりと膨れたお腹を出して仰向けになっていた。
『あもんどっ以外も食べすぎた〜』
苦しくて起き上がれないようだ。
その周りには食い散らかされた食糧の残骸が……。
「あ! ちょうどいいところに起きたわね! あなたの従魔でしょ!? これどうしてくれるのよ!」
「わ、悪い……」
「ハァ〜、町に戻る時間が勿体ないわね。これじゃあ動物や魔物を見つけ次第、リヴェルに狩ってもらうしかないわ」
「それしかないみたいだな」
近くに宿はない。
《英知》で地図を調べてみたところ、次の宿場町に着くのは明日の夜だ。
その間ずっと移動しておく訳にもいかない。
「ちゃんと周囲を見ててよね! それにあんた護衛なんだから寝てないで起きてなさい!」
「はい……すみませんでした……」
「キュゥ……」
子竜も申し訳なさそうにしている。
それを確認したラルは、また馬車を動かし始めた。
『うぅ……あやまる……』
『まぁ俺も寝てたしな。次は気をつけよう』
『あ、あるじぃ〜』
翼をバタつかせて、涙目の子竜は俺の胸に飛び込んできた。
それにしても主人か。
従魔契約をしたから、そう呼ぶようになったのかな?
……てか子竜の名前決めてなかったな。
考えておくか。
◇
日が暮れて来た。
馬車を止め、野営の準備に入る。
「ラビットが見つかってよかったわねー」
「本当にな」
道中、俺たちはラビットに遭遇し、無事仕留めることが出来た。
「……それにしても人ってあれだけ速く動けるのね」
ラルは斜め上を向いて、記憶を蘇らせていた。
たぶん話の流れ的に俺がラビットを狩るため馬車を降りたときのことだろう。
ラビットを逃す訳には行かなかったので必死だった。
「でも俺の父さんはもっと速く動ける」
「戦闘職って凄いわねー。それでもリヴェルより強いのがゴロゴロいるんでしょ?」
「そうだろうな」
俺は天才達を相手にしなきゃいけないことを再認識する。
「あっ、リヴェルは料理出来る?」
「ある程度は出来るぞ」
「わー、助かるー! 私、料理下手だからさー。作ってよ」
「分かった。荷台にあった香辛料は少し使っていいか?」
「特別に許可しよう!」
「ありがとう。助かるよ」
そこに子竜がパタパタと翼を動かして俺の頭にひょこっと乗った。
『あるじ! りょうりたのしみっ!』
ぐぅ〜とお腹のなる音がした。
『お前、まだ食べるのか……』
『うん。そだちざかり』
なるほど。
今後、食費がかなりかかることが予想できた。
まずは火をつけるか。
火魔法を使用し、焚火を作成。
《無詠唱》のスキルはこういう時に便利だな。
────────────────────
◯スキル《無詠唱》
魔法を詠唱することなく発動することが出来る。求める効果をイメージし、理論に適った魔力操作を行うことで魔法を発動することができる。
◯取得条件
《魔力操作》《魔力循環》の取得。
一から魔法を構築出来るだけの魔法理論を身につける。
────────────────────
《無詠唱》の取得はかなり難しかった。
《英知》を用いて、魔法の原理を調べて多くの知識を身につけた。
そして《従魔契約》の取得に励んだ際に魔力の波長を変えるすべを身につけてから一気に理解が深まった。
《従魔契約》の大きな副産物だ。
「ちょ、ちょっと待って! なんで魔法使えるの!? しかも無詠唱!? あなた【剣士】とかじゃないの?」
ラルが横で驚いていた。
「これぐらいの初歩的な魔法なら多くの人が使えるだろう? 別に驚くことじゃない」
「えぇ……? 使えたかなぁ……?」
どうやらラルは、あまり勉強熱心じゃないらしい。
《英知》で魔法の学習している俺からすれば、無詠唱ではないにしろ、これぐらいの魔法は誰にでも使えると記されていた。
ラビットを捌き、生肉を食べやすい大きさに切る。
脂肪分が少なく、筋肉繊維が柔らかい。
骨付きのまま香辛料を振りかけ、下ごしらえを済ませる。
そしてフライパンで兎肉を焼く。
《魔力操作》で火の温度を調整しながら、低温でじっくりと焼き上げる。
そして器に盛り付けると──。
「完成だ」
「……悔しいけど見た目は美味しそうね。匂いもいい香り。で、でも食べるまで分からないわ!」
ラルは兎肉の骨の部分を持ち、口に運んだ。
はむっ。
「おいしっ! 柔らかいのに外はカリッとしてて、噛んだ瞬間に肉汁が出てきて……はむっ!」
ラルは美味しそうに何個も食べていく。
俺も食べてみる。
うん。
美味しいな。
「キュウウウッ!」
子竜はパタパタと翼を動かした。
『あるじぃ〜おいしっ!』
喜びを表現しているようだった。
『美味しいか? キュウ』
『キュウ?』
『お前はよくキュウって鳴くからな。だから名前はキュウだ』
我ながら安易すぎるネーミングセンスだと思う。
『キュウ……うん! キュウ、おいしっ!』
思いのほか気に入ってもらえているようでホっとした。




