13話 商人ラル
『魔力あわせる』
子竜が念話で語りかけてきた。
「合わせる?」
『あわせると念話つかえるっ』
「分かった」
ふむふむ。
良いヒントを貰った。
これだけの材料があれば何とか出来るかもしれない。
俺には《英知》があるからな。
キーワードをいくつか絞り、探していく。
……ん?
これか。
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◯魔力波長
人によって放出される魔力の波長は違うが、意図的に波長を変えることも可能である。波長が近いほど魔力の親和性が高い。
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たぶんこれで間違い無いだろう。
相手に魔力を届けるには波長を合わせるという作業が必要だったわけだ。
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◯魔力波長の変え方
魔力の膜を作り、それを通して魔力を放出する。この技術は非常に難しいが、習得すると魔法の幅が広がる。
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やり方が分かれば後は……。
──開始から2時間後。
『まだー』
「すまん。今色々と試行錯誤してるんだ」
──開始から4時間後。
『お腹すいた』
「もう少し……あ、魔力があアアアアァァ」
──開始から8時間後。
『zzz……』
「波長を変えるにはまず──」
──開始から16時間後。
「できた!」
「……キュ?」
俺の声で眠っていた子竜が目を覚ました。
子竜の魔力の波長に合わせることに成功した。
気付けば外はすっかりと暗くなっていた。
「キュ〜〜」
檻の中で子竜は可愛い鳴き声をあげながら身体を伸ばした。
「遅くなって悪かったな」
「キュィ」
子竜は横になって、眠たそうに前足で目元をこする。
俺の放出する波長は子竜のものと同じになった。
かなり時間がかかった。
だけど、そのおかげで魔力についての理解は深まった。
魔力波長を合わせると、子竜の内側に魔力を注ぐことが出来た。
そして、その魔力を循環させる。
[スキル《念話》を取得しました]
よし、なんとか《念話》を取得することが出来たぞ。
『あーあー、聞こえるか?』
《念話》で子竜に話しかけてみた。
『うん。でも眠い』
[スキル《従魔契約》を取得しました]
……あの、《念話》した瞬間に《従魔契約》取れちゃったんですけど。
『眠いから寝る……zzz』
「お、おう──って寝るな!」
『んん〜ねむぃ』
……あれ?
「……お前もしかして人間の喋ってること分かる」
『うん』
「……ハハ、そうだよな。じゃなきゃ最初から《念話》で話しかけてこないよな」
そういえば、ずっと返事してた気がしていたが……。
俺、全く気づいてなかったけど、もしかして鈍感なのか?
『もう寝ていい?』
「契約を結んで従魔にするから少し待ってな」
『あい』
子竜が眠たそうなので、さっさと《従魔契約》を行う。
スキルを使用すると、子竜に透明な首輪が巻かれた。
凝視することで、その存在を確認することが出来る。
「よし、これで一安心かな」
『じゃあおやすみ……zzz』
「……俺も寝るか」
早朝から町を出るので、睡眠時間は少ししか無さそうだ。
◇
仮眠を取って、眠たい目を擦りながら宿屋を出た。
前には立派な馬車が止まっており、一人の少女がニッコリと微笑んだ。
「私は商人のラル。リヴェル君で合ってるかな?」
「はい。リヴェルです」
「町長から話は聞かせてもらったよ。君が私の護衛をしてくれるということだね」
「……なるほど」
どうやら町長に一杯食わされたようだ。
金貨1枚はこの護衛の報酬金。
速い馬車は護衛相手。
ということになるな。
まぁ損をしたわけじゃないし、俺的には得をしたと考えることも出来る。
護衛が務まるかどうかはさておき、精一杯やってみよう。
「じゃあ最初に二つ質問していい?」
ラルは指を二本立てて言った。
「どうぞ」
「オークを一撃で倒したって本当?」
「はい。本当ですよ」
「それなら護衛については何も問題いらないね。──じゃあ二つ目! その頭の上のドラゴンは何!?」
「キュゥ?」
子竜が鳴き声をあげた。
「これは俺の従魔です」
「へぇー……」
ラルさんは近づいてきて、じっくりと子竜を品定めするように見た。
「この子、白金貨5枚ぐらいの価値はありそうだよ」
「ごっ、5枚!?」
驚きの額だった。
白金貨5枚は金貨に換算すると、500枚の価値がある。
視線を上に向ける。
子竜は見えないが、
『売っちゃダメ!』
と、念話で話しかけてきた。
『う、売るわけないだろ? 俺を信用してくれ。な? な?』
『あい』
邪念が入ったのは間違いない。
だが《従魔契約》を取得出来たということは、子竜が俺に心を開いてくれているのだ。
それを裏切るような真似はしたくない。
「どうする? 後日、私が買い取ってあげてもいいよ」
ニヤニヤとした表情でラルは言う。
「ご遠慮しておきます。大事な友達なので」
「ふーん。まぁいいんじゃない? そろそろ行こっか」
「あ、少し待っててください。別の友達が挨拶に来ると思うので」
出発の時刻は伝えたので、そろそろ来ると思うのだが……。
「リヴェルさーん!」
ピートの声だ。
その横にはケイトとダンも一緒だ。
早朝なのにそんな大声で大丈夫か?
「げっ!」
ラルさんは、苦虫を噛み潰したような表情をして、馬車に乗り込んだ。
「「「あああっー!」」」
3人が大きな声で叫んだ。
「ほらリヴェルくん乗った乗った。置いてくよー?」
ラルさんは馬車を出発させた。
「ちょ、いきなり出発しないでくださいよ」
俺はなんとか馬車に乗り込んだ。
「リヴェルさーん! 俺たちがオークと戦ってたのは、その人が原因なんです!」
「私達を馬車から強制的に降ろさせて、囮に使ったんです!」
「だからリヴェルさん! 気を付けて!」
3人は精一杯声を張り上げた。
「みんなー! ありがとうございます! お元気で!」
俺は顔を出して、3人に別れを告げた。
「いやー、あの子たち変な事を言うねぇ。あれじゃあまるで私が悪い人みたいに聞こえちゃうな。全然そんな事ないから安心してね」
馬車の中に戻った俺にラルさんはそう言った。