38話 またな
地上に戻ると、クルトはみんなに向かって土下座をした。
「僕は君達に顔向け出来ないことをしてしまった。本当に申し訳ない」
「……ハァ、馬鹿野郎がよォ。しばらく反省しとけ」
「ああ、そのつもりだ。どんな罰でも受ける覚悟はできている」
「クルトさん……しばらく反省してください。リヴェルさんを殺すような真似をしたのは許せません」
「返す言葉もないよ。本当にすまない」
「……それで、魔神はどうなったの?」
「魔神は倒したよ。これでスパイもいなくなったし、ひとまず一件落着じゃないか?」
根本的な解決にはなっていないと思うが、魔神は帝国側にとっても切り札だっただろう。
まさかこんな形で倒されるとは思いもしていないはずだ。
「じゃあリヴェルはもう……」
アンナが悲しげな表情をすると、アギト、フィーア、クルトは何かを察したようだ。
「リヴェルさんがどうかしたんですか……?」
俺は3人に事情を説明した。
俺が神様だったこと、アンナやキュウの力を貰ってクルトを倒したこと、そして……これから消えてしまうこと。
「そんな……リヴェルさん……」
「てめェはまた突然いなくなる気か……」
「ははっ、そういえば2年前も突然フレイパーラを出て行ったんだったな」
「笑い事じゃねェだろうが」
「また寂しくなるな。……でも、俺は必ず戻ってくるさ」
「ほんとかよ……」
アギトは呆れた顔でため息を吐いた。
「そうか。なるほど……」
俺の話を聞いたクルトはどこか納得した様子だった。
「クルト、どうしたんだ?」
「以前、僕が神の声を聞いたって話をしたことがあるだろう? その謎がやっと解けたんだ」
「へー、聞いてみたいな」
「僕は最初、魔法を極めるために神様が僕を導いてくれたのだと思った。だけど、それは正しいようで正しくない。確かに成果はあった。けど、本当の狙いは僕のためなんかじゃなく──リヴェル、君のためだったんだよ」
「俺のため?」
「詳しいことは神様に聞いてみるといい。僕はもうさっきの戦いで十分に君との対話を楽しんだ。他のみんなとお別れを済ませてくれ」
そう言って、クルトは目を伏せた。
「……分かった」
詳しいことは神様に聞いてみよう。
神様がクルトやラルを何故俺のもとに導いたのか。
身体が淡い光を帯び出して、段々薄くなってきた。
「リヴェル……!」
アンナは悲しげな表情で俺を見つめる。
「ごめんな。また隣にいられなくなってさ」
「……ううん、大丈夫。リヴェルが戻ってくるって言うなら、絶対に戻ってきてくれることを私は知っているから。だって、リヴェルは私との約束を一度も破ったことないもんね」
アンナの目からポロポロと涙が零れ落ちる。
「アンナ……」
俺はアンナに近づいて、そっと唇を重ねた。
「っ⁉」
アンナは驚いて、目を見開いた。
「リ、リヴェルさん……⁉ だ、大胆ですね……!」
「ふっ、見せつけンなよ」
フィーアとアギトの声が聞こえた。
ただ、俺にはもう時間が残されていない。
アンナにちゃんと伝えてやらないと。
「アンナ、もし俺以外に好きな人が出来たら、何も気にせずその人のことを好きになって構わない」
「え……?」
「もしもの話だよ。どこかで俺以外の人を好きになっても苦しんで欲しくないんだ」
「──嫌だ。私はずっとリヴェルのこと待ってるから。10年でも20年でも、この人生が終わっても、私はリヴェルを待ち続けるよ」
アンナの目は本気だった。
何一つ迷うことなく、そんなことが言えるだろうか。
ならば、俺もその気持ちに絶対に応えなければいけない。
「分かった。待っていてくれ。俺が戻ってきたら、約束通り結婚しよう」
「……はい」
アンナは頬を赤く染めながら言った。
手の平を見ると、もう地面が透けて見えた。
身体はもう随分と透明になっていた。
そろそろお別れの時間のようだ。
「よし、それじゃあみんな、またな」
「アンナさんのためにも絶対戻ってきてくださいね、リヴェルさん!」
「もちろんだ。ありがとな、フィーア」
「ったく、誰のために英傑学園入ったと思ってンだよ」
「はは、アギト。それは本当に申し訳ないな」
「別にいいけどよ。……じゃあな」
「ああ、じゃあな」
クルトは俯いたままだ。
反省しているんだろうが、クルトにも別れの挨拶は告げておきたい。
「クルト、次俺が戻ってきたとき、また遊ぼう。今度はお互い、本当の実力でな」
「……ふふ、君は最後までお人好しだね。そのときを楽しみに待っているよ──世界最強の努力家」
そして、俺はその場から消えたのだった。




