33話 魔神クルト
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『底辺冒険者だけど魔法を極めてみることにした ~無能スキルから神スキルに進化した【魔法創造】と【アイテム作成】で無双する~』
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「なんだあれは……」
魔神の後を追ってきてみると、アンナとフィーアが立ち尽くしていた。
「リヴェルさん、クルトさんが……」
「クルトが……? もしかして、あれはクルトなのか……?」
あれが魔神ではなくクルトだとすれば、クルトは──魔神に身体を乗っ取られてたのか?
徐々に暗黒の柱が消えていくと、その中心にクルトが立っていた。
「ふうん……」
クルトは両手の腹の前に持ってきていて、目線を下に送った。
クロエのときのように姿が変わっている様子はない。
しかし、クルトの魔力は化物みたいに大きい。
《纏魔羽衣》を使っている状態の俺よりも既に大きな魔力を持っているのだ。
「クルト、お前……」
「リヴェル……もしかして僕が魔神に身体を乗っ取られた、なんて思っているのかい?」
「なに……?」
喋り方は普通で、いかにもクルトが言いそうなことだった。
「僕は、魔神と契約して、アイツの力を自分のものにしたんだ」
「お前、なんてことを……」
「瀕死の状態にしたのが功を奏したのかもしれないね。魔神が僕を奪おうとする力は大して強くなかった。ただ、魔神の意思を受け継ぐ形になってしまった」
「魔神の意思だと?」
「自分の本能が呼びかけてくるんだ。『破壊の限りを尽くせ』ってね。だから今も僕は耐えがたい欲求と戦っているわけさ」
「そんなことはさせないぞ、クルト」
「それなら好都合だね。今の僕の望みはリヴェルと戦うだけだからね」
……そういえば、そんなことを前にクルトが言っていたな。
「それはお前が言う世界最強の魔法使いである証明のためか?」
「もちろん」
「それで魔神なんかを取り入れるなんてな。どうかしてるぞ」
「かもしれないね。でも、僕の中ではリヴェルを超えることが何よりも優先されるんだ」
ああ、確かに。
お前はもともとそういう奴だったかもしれない。
それがなんだかクルトらしくて今も憎めない自分がいる。
でも、間違ったことをしているなら正してやらねばならない。
俺はお前の友達だからな。
「分かった。お前に実力の違いってやつを見せてやるよ」
「それは大変楽しみだ。でも僕は確信しているよ。君を超えた、ってね」
「そうか。じゃあそれを俺は超えるまでだ」
今までだってそうやって俺は強くなってきたのだから。
「──《纏魔羽衣》」
クルトは魔法使いであり、接近戦は俺が有利なはずだ。
魔力の総量だけで勝負は決まらない。
クルトとの距離を一瞬にして詰めるが、それをクルトは目で追っていた。
「ふふ、すごい魔力だね。今の僕に匹敵するレベルだ。──でも、足りないね」
斬りかかるもクルトには届かない。
魔力障壁が尋常じゃないレベルの強度だ。
接近戦に持ち込もうとしても攻撃が届かないなら話にならない。
だから、ここは何が何でも攻撃を当ててやる。
「──《無窮刹那》」
俺が放つことの出来る最強の一撃。
言うなればこれは《纏魔羽衣》状態で使える《剛ノ剣》だ。
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○《無窮刹那》
《纏魔羽衣》を使用中に自身の魔力を均一にして放つ攻撃。
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《纏魔羽衣》状態では、魔力の量がとてつもない量になり、《剛ノ剣》をそのまま使うことは出来ない。
だから新しくスキルを創造する必要があった。
そして出来たのが《無窮刹那》だ。
「──《虚空魔剣》」
クルトは魔法で黒色の剣を作り出し、俺の《無窮刹那》を受け止めた。
剣に込められた魔力は計り知れない。
膨大で禍々しい魔力によって構成されたあの剣は、一流の鍛冶師が叩き上げたものよりも優れているだろう。
しかし、ただ受け止められただけなのは少しショックだな。
「お前、剣術なんて使えたのかよ」
「使えなかったよ。これは魔神の能力さ」
なんでもありだな。
だが、他人の力で勝てるほど俺は弱くないさ。
戦闘中の魔力の動かし方、それは幾度の戦闘を経験して洗練されていくものだ。
剣と剣がぶつかった瞬間に、俺は脚に魔力を集中させ、一気に加速する。
クルトとの戦いに勝機を見出せるのは、この距離。
俺の間合いで戦ってやっと五分五分ぐらいだ。
だから今、このタイミングで仕留める。
「もらった」
俺の剣がクルトを捉え、背中を斬った。
クルトの身を案じる余裕は無い。
本気で、命がけで、お前を倒しに行く。
紅い血飛沫が吹き出るが、背後を振り向いたクルトは邪悪に微笑む。
普段のクルトが見せない歪んだ笑みだった。
そして、次の瞬間。
クルトは俺の視界から消えた。
それに反応した俺は反転し、背後からの攻撃に備える。
しかし、そこにもクルトはいなかった。
どこだ? と、俺は上を向くがいない。
「リヴェル! 後ろ!」
「リヴェルさん! 後ろです!」
アンナとフィーアの叫び声を聞いて、俺は咄嗟に動こうとするが、
「──遅いよ」
そう聞こえた瞬間、背中に激痛が走った。
「ぐっ」
思わず、俺はクルトと距離を取った。
クルトに与えた傷はもう既に塞がっていた。
しかし、一体クルトは何をしたんだ?
分からなかった。
クルトの魔力は一瞬にして消えて、まるで世界から消えたようだったのだ。
「何が起きたのか分からない、って顔をしているね。君が普段見せない珍しい表情だ」
「はは……お前もその表情、普段は絶対に見せないだろうぜ。いかにも悪人ってツラしてるよ」
「それも悪くないね。種明かしをしてあげよう。僕はこの場から一歩も動いていないよ」
「……なに?」
「リヴェルに認識阻害の魔法をかけたんだ。そして、僕は自身の魔力を消し、透明化の魔法も使った。それだけだよ」
俺に魔法をかけた……?
阻害系の魔法のほとんどは耐性があり、普通ならば俺に魔法はかけることができないはずだ。
それをあの一瞬でかけたって言うのか?
……化物め。
「ふふ、楽しいね。僕は今、人生の絶頂にいる自覚があるよ。本気のリヴェルと命を懸けて戦う──この瞬間を味わうために僕は生まれてきたと、言っても過言ではないさ」
「お前そのために魔神を……?」
「かもしれないね。そうすればリヴェルと真剣勝負が出来るから」
「バカ野郎……っ!」
「ふふ、申し訳ないね。でもこれが僕だ。──さぁリヴェル、最高の遊びを始めよう」
……ああ、思い出した。
浮かび上がってきたのは、クルトと初めて戦ったフレイパーラの新人大会の決勝戦。
そこでクルトは俺に言ったんだ。
『リヴェルとなら最高の遊びができそうだよ』
魔神を身体に取り込んだというのに、芯の部分は全く変わっていないのだ。
まったく、自分勝手な奴だ。
こうなればもう付き合ってやるしかあるまい。
背中が焼けるように熱い。
深くまで斬られてしまっており、かなり血が流れている。
血を止めるためにも回復魔法を使用する。
「回復するんだ。いいの? 後手に回っても」
クルトは次々に魔法を発動させ、何十もの魔法が襲いかかってきた。
一つ一つがかなりの威力を持った魔法だ。
くそ……これでは避ける隙がない。
《無窮刹那》で全ての魔法を斬る──!
俺に当たるだけの面積を斬ると、そのまま地面に魔法は直撃し、激しい爆発が起きた。
煙が舞って視界が悪い。
早く移動しなければ次の攻撃に対応できない。
クルトの言う通り完全に後手に回っている。
これではダメだ。
俺から仕掛けなければ負ける。
脚に力を溜めて、上に飛ぶ。
煙を突き抜けた先には、クルトが待ち構えていた。
「そう動くのは分かっていたよ」
クルトの目が朱い輝きを放っている。
これは、まさか……。
「《賢者ノ時間》の未来読みは、敵が強者であればあるほど有効だね。君の動きは速いから」
アンナとの模擬戦で見せたあのスキルだ。
クルトはニッコリと微笑んで、
「これは避けられないよね──《混沌咆哮》」
火、水、風、3つの属性が合わさった魔法を目の前で放ってきた。
まずい、回避──いや、ダメだ。
その魔法の進行方向にはアンナとフィーアがいる。
避ければ二人に被害が及ぶ。
クソ……! ここはなんとか耐えるしかない。
直撃箇所に魔力を移動させ、出来るだけ衝撃を和らげようとしたが、この魔法は威力がデカすぎる。
ヤバイ……これは身体が耐えられそうにない。
だが、ここで受け止めなければ俺だけでなくアンナとフィーアが危ない。
なんとか耐えなければ……。
衝撃がなくなり、クルトの《混沌咆哮》を耐え切ったことが分かった。
それを理解した瞬間、頭にプツンとした衝撃が走り、視界が真っ暗になった。
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