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32話 魔神の逃亡

新作、週間総合1位になりました!

この機会に是非読んでみてください!


『底辺冒険者だけど【魔法創造】で魔法を極めてみることにした』


URL:ncode.syosetu.com/n8399gu

 精神魔法でクロエの意識下に潜り込んでいると、色々なクロエの思い出が見えた。


 思い出の深く、奥深くに、俺は潜り込んでいく。


「どうしてお前は剣術の才能が無いんだ!」


「そうよ! パパは【剣聖】でママは【剣姫】なのよ⁉ どうしてもっと頑張れないの⁉」


 クロエのお父さんとお母さんだ。


 凄い形相でクロエのことを怒っている様子が鮮明に流れていく。


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


 幼いクロエが両親に向かって、ただ、ただ、謝っている。


 こんなの……あんまりだ。


 両親は何故クロエを愛してやれなかったんだろうか。


 俺の両親は、俺をちゃんと愛してくれていた。


 だから俺は真っ直ぐと育つことが出来たのかもしれない。


「クロエはよく頑張っておるよ。ワシは知っておる。いつかそれが報われるときにきっと笑えるはずじゃ」


 学園長の言葉だ。


 あの学園長がクロエを溺愛する理由が分かった気がする。


 そして、クロエに攻撃できなかった理由も。


「私の才能が【剣聖】……? 【剣士】を授かったのは夢……?」


 クロエが動揺している様子だった。


 そうか、このときに魔神はクロエの身体に宿ったのか。


「私はもっと頑張らなきゃいけない」


「ううん、頑張らなくて良いよ。クロエはいっぱい頑張ってるんだから!」


 クロエが誰かと話しているところだ。


 でも、その誰かの顔は見えない。


 一体誰だ?


「もう嫌だ。私はただパパとママに褒められたいだけなのに」


「うん、そうだよね。クロエ、少しは休んでもいいんだよ。私がその分頑張ってあげるから」


「……分かった。ごめん、少し眠るね」


「おやすみ、クロエ」


 ああ、分かった。


 この子がクロエのもう一人の人格だ。


 中等部1年生のときに頑張っていた明るいクロエはこの子だったのかもしれない。


「ねえどうして消えちゃったの? ねえ!」


 これは多分中等部2年生のときのクロエだ。


 そうか、あの明るいクロエは消えてしまったのか。


 ……いや、そんなことはない。


 消えるなんてありえないだろ。


 魔神の言葉が脳裏をよぎった。


 ──主人格とは別の人格を乗っ取った。


 つまり、魔神が乗っ取ったのは明るいクロエ。


 そして、いなくなったのは明るいクロエを乗っ取った魔神が目を覚まして、クロエ自身に気づかれないように姿を隠したのだ。


 だったら、魔神の居場所は──。


「見つけたぞ、魔神」


 意識の深層でもう一人のクロエが隠れていた。


 俺に見つかると、そいつは嫌そうな顔をして、


「やめろ! やめてくれ!」


「お前を退治すれば、クロエは元通りになる。消えろ」


「く、くそっ!」


 一閃。


 魔神クロエの胴体を斬り裂いた。


「くっくっく、ふっはっはっは! 礼を言うぞリヴェル! 貴様のおかげで我はここから脱出出来る!」


「なに?」


「この小娘の身体など、どうだってよいわ! 大事なのは我が此処から逃げ出して、真の力を身に着けることよ! そして小娘ではなくなった我は貴様の《無間地獄》からも抜け出すことが出来るのだ!」


 しまった!


 このクロエを倒したところで魔神は倒したことにならないのか……!


 すぐさま精神魔法を解除し、意識を元に戻す。


「じゃあなリヴェル! いつか貴様を殺しに戻ってくるぞ!」


 霊体のように透明になった魔神の姿は、俺が暗黒魔境で見てきたような悪魔と酷似していた。


「逃がすかよ」


「我を追っていて大丈夫か? さっきの小娘を受け止めてやらねば高所から落ちて大変なことになるぞ」


「くっ──!」


 魔神の言う通り、空中からクロエは落下している。


 これはクロエを助けざるを得ない!


「クロエッ!」


「ふははは! 所詮、貴様は人間よ! 馬鹿共め!」


 まずい、このままでは魔神に逃げられる……!


「リヴェル!」


「リヴェルさん!」


「アンナ! フィーア!」


 ああ……そうか。


 俺にはこんなにも心強い仲間がいるじゃないか。


 霊体となった魔神の先には、火竜に乗ったアンナと二丁拳銃を握ったフィーアが待ち構えていた。



 ***




「こいつがクロエを乗っ取っていた魔神って奴ね。絶対に仕留める!」


「……絶対に逃さない」


「雑魚共が我の邪魔をするなァ! ──《魔光羅刹》」


 魔神の霊体からアンナとフィーアに向けて、2つの光線が放たれた。


「アンナさん、ここは私に任せて」


「えっ? あ、うん!」


 二丁拳銃を握ったフィーアの雰囲気の変わり様にアンナは驚いているようだった。


「──《魔弾・鏖》」


 フィーアの二丁拳銃から放たれた銃弾は、魔神の光線を呑み込んだ。


 そのまま魔神に当たるかと思われたが、それよりも速いスピードで魔神は銃弾をかわした。


「なんてスピード……分かった。アンナさん、南の校門にあいつを誘導しましょう」


 フィーアはハッとクルトの存在を思い出した。


 そして、なぜクルトが南の校門で待ち構えていたのか、分かった気がした。


 しかし、なぜこうなることをクルトは予想できたのか。


 それだけは分からなかった。


 すぐに考えても分かることではない、とフィーアは結論付けて思考から切り離した。


「……なにか考えがあるみたいだね。分かったよ! いくよ、フェル!」


 アンナは火竜を操り、魔神のスピードに並ぶ。


 フィーアは遠距離攻撃で、アンナは魔神と並ぶスピードで近距離攻撃を仕掛ける。


 即席とは思えない良いコンビネーションを二人は見せつけた。


「人間ごときに……!」


 魔神はフィーアとアンナをとても煩わしく思っていた。


 鬼のような形相で二人から逃げていく。


 完璧な状態ではないうえにリヴェルとの戦いで力を消耗した状態じゃなければ、二人を瞬殺出来たはずだ。


 それなのに魔神は今こうして、逃げ回ることしかできない。


 屈辱だった。


 しかし、そう思えば思うほど、フィーアの作戦に魔神ははまっていく。


「はああぁぁっ!」


 魔神が南の校門に逸れようとしたところをアンナは攻撃をし、軌道修正する。


「小癪なっ!」


 魔神もそれに対抗するが、いつリヴェルが追いついてくるか分からない。


 今は逃げることを優先するべきなのだ。


 魔神にしてみれば、この状態でリヴェルに追いつかれたら終了なのだ。


 フィーアもスピードを少しでも下げるために遠くから銃撃を行う。


 銃撃を避けるために、魔神は直進以外の選択をしなければいけないため、実際に魔神のスピードは落ちていた。


 二人の攻撃に魔神は段々と怒りを覚えるが、反撃する時間はどこにもない。


 そして魔神はフィーアとアンナの作戦通り、南の校門にやってきた。


 魔神の進路に立ち塞がるのはクルト。


 このときをクルトは待っていたのだった。


「へぇ、アンデッド族みたいなものだね。じゃあ光魔法が有効そうだ──《燦爛聖光》」


 眩い光が魔神を包む。


「ぐあああ! き、貴様……!」


 光に包まれた魔神は、焼け焦げるもまだ言葉を発するだけの余裕はあるようだった。


 クルトは近付いて、魔神と対話を望んだ。


「魔神ってこんなに弱いのかな?」


「……く、くっくっく、我の全力ならば、あのリヴェルも余裕で仕留めることが出来る」


「余裕? それは凄いね。でも、今の君は所詮この程度の実力だったってわけだよ。申し訳ないが僕には負け惜しみにしか聞こえないね」


「ほう、では貴様に見せてやろうか? 我の真の実力を」


「見せてごらんよ」


「ならば貴様の身体を寄越すが良い。貴様の身を持って教えてやろう。それに越えたいのだろう? リヴェルを」


 魔神はそう言って、邪悪に笑った。


 クルトは顎に指を当てて考えた。


「クルトさん! 早くそいつにとどめを刺してください!」


 フィーアはどこか嫌な予感がして叫んだ。


「だったら私がとどめを──」


 アンナが魔神に近づこうとしたそのとき、


「うん、分かった。面白そうだ。君の力、僕に寄越しなよ」


「交渉成立だ──」


 突如現れた大きな暗黒の柱がクルトと魔神を飲み込んだ。


 空へと続いていく暗黒の柱は禍々しく、とてつもない魔力を帯びていた。


「あ、ああ……」


 フィーアはその魔力を感じ取って、ブルブルと身体を震わせた。


 アンナもすぐに柱から離れた。


「な、なにあれ……」


 鼓動が早くなる。


 アンナはもともと大きい目を更に見開いた。


 手を握る力も抜けて、剣が地面に落下した。


「グウゥ……」


 アンナが乗る火竜も怯えるような声をあげた。

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