11話 盗賊退治
寝静まった頃、町長に教えてもらった盗賊のアジトにやってきた。
洞窟の前には2人の男が立っている。
見張りか。
……勢いで依頼を受けてしまったが、退治ってどうすればいいんだろうか。
忍び込んでボスを倒したら、他の奴らも逃げてくれる……訳ないか。
結局全員倒さなきゃいけない気がしてきた。
《英知》を使って、盗賊退治の事例を調べてみることにした。
……ふむふむ。
なるほど。
盗賊が何故、商人や町の人々を襲うのか分かったぞ。
基本的に集団で待ち伏せをして奇襲を行うようだ。
それは盗賊一人一人の実力が低いからである。
「おい貴様! そこで何をしている!」
呑気にアジトの前で《英知》を使っていたら存在がバレてしまった。
だがやることはどちらにせよ強行突破だ。
気にすることはない。
「何って、ただの盗賊退治にやってきた旅人ですよ ──っと」
盗賊2人のもとへ瞬時に近寄り、一人は顔面を殴って気絶させる。
もう一人も攻撃しようとしてきたところを回し蹴りを入れて気絶させた。
「やっぱりそれほど強くないみたいだな」
人に剣を向けるのは出来るだけ避けたい。
俺は人を殺したことがないため、必ず躊躇して実力が出せない。
それなら最初から剣を使わずに素手で戦った方がいいだろう。
興味本位で格闘術について調べておいて良かった。
ある程度、身体をどう動かせばいいか分かる。
そして洞窟の中へ潜り込んでいく。
ある程度整備されているため、これはもうアジトと呼ぶに相応しい場所だろう。
「なんだテメェ!?」
「侵入者だ!」
盗賊は次々に現れる。
武器を振ってくるが《視力強化》を使えば、この程度の攻撃は当たる気がしない。
「へぶっ!」
「ごふっ!」
一撃で一人ずつ気絶させていく。
絶え間なく盗賊は現れるが、連携も取れていない集団だ。
簡単に1対1に持ち込むことが出来た。
そのまま奥へ進んでいくと、盗品を保管してある場所に出た。
中央の椅子に盗賊団の親玉が座している。
「ったく、こんなガキが部下どもを倒してくれたとはねぇ」
男は呆れた顔でため息を吐いた。
頬に十字に斬られた痕跡が見える
「大丈夫だ。殺してない」
「ガッハッハ、いい心がけだねぇ。だがよ、俺相手に手加減してると死ぬぜ?」
男は椅子の後ろから大きな剣を取り出した。
「俺ぁこう見えてもよ、上位剣士ぐらいの実力はあるんだぜ? それこそ盗賊なんてやらなくてもやっていけるような実力がよぉ」
「……じゃあ何で盗賊してるんだ?」
「楽しいからさ。人から物を、自由を、命を奪うのがたまらなくてねぇ」
「ただのクズか」
「っくっくっく……テメェは今からそのクズに殺されるんだよぉ!」
あの重そうな大剣を軽々と持ち上げ、平然と扱っている。
明らかに筋肉が肥大していることから何らかのスキルを使っているのだろう。
《英知》を使用。
……あれは《怪力》か。
「オラァ!」
力任せに大剣を振るう。
床に置かれている盗品が壊れても気にもせず、俺を狙ってきている。
それを避けながら動きを見ているが、
上位剣士がこの程度なのか……?
という感想を抱いた。
侮辱しているわけではなく、正直に思ったことだ。
カルロと戦ったときよりもかなり成長していることは実感できるが……うーむ。
これは《鬼人化》だけの効果ではないのでは。
魔力が増えて《身体強化》の出力がかなり大きくなったことも考慮できる。
「舐めた真似してんじゃねえぞォ! ──見せてやるよ! 《豪連撃》の恐ろしさをな!」
男は大剣を高速で振り、文字通り連撃を放ってきた。
うーん……。
単純な技だな。
強いんだろうけど、当たらない相手に使うのは如何なものか。
俺は連撃を躱しきると、顔面に拳を叩き込んだ。
「ガッ──」
すると男は白目を剥きながら、仰向けに地面へ倒れ込んだ。
「キュンキュン!」
「ん?」
戦いが終わると、何やら奥で鳴き声がした。
何かの動物か?
「これは……ドラゴンの赤ちゃん?」
「キュィ?」
鳴き声がした方へ行くと、檻の中に水色のドラゴンが入っていた。
恐らく行商人から奪ったものだろう。
「とりあえずコイツの保護の前に盗賊達を縛って身動き出来ないようにしなきゃな」
気絶している隙にささっと全員縄で縛り、それを町の衛兵に引き渡した。
町長は、
「まさか本当に一人で退治してしまうとは……」
と驚いていたが、盗賊相手に少しオーバーリアクションすぎないか?
まぁ何はともあれ、報酬の金貨1枚を頂き、速い馬車を手配してもらえることになった。
出発は明後日の早朝だそうだ。
「これにて一件落着か」
「キュウン!」
「いや、まだ問題が残っていたな……」
ドラゴンの子供を保護してもらおうとしたのだが断られてしまった。
ドラゴンは扱い方が非常に難しく、滅多に取引されない。
つまり、この町では手に負えない、というのが断られた理由だった。
殺すという選択肢は取りたくない。
可愛いし、なんか俺に懐いてるし、愛着が湧いてしまったのだ。
「でも何も対策せずに連れて行くと、町でも関所でも問題になるよなぁ」
はぁ、とため息を吐く。
ドラゴンは成竜になるまで100年かかる。
アンナのような【竜騎士】が心を通わすのは成竜である。
しかし大変貴重なようだが、コイツみたいに子竜が売り物にされることも中にはあるそうだ。
子竜は成竜と強さが大きくかけ離れていても魔物だということに変わりはない。
魔物を連れて行くには、その魔物が絶対に安全だということが証明されていなければならない。
つまり、ただの魔物ではなく契約を結んだ従魔である必要があるのだ。
コイツを連れて行くには、俺と従魔の契約を結ぶことが条件だろう。
ただ、契約を結ぶには《従魔契約》のスキルを扱える者がいなければならないのだが……残念ながらこの街にはいない。
「お前、俺と一緒に旅したいか?」
頭の上に乗っているドラゴンの赤ちゃんに声をかけてみる。
「キュン!」
すると、返事をするように鳴き声をあげた。
「じゃあ仕方ない。俺が《従魔契約》を覚えるしかないようだな」