表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

119/129

30話 魔神の狙い

よかったら新作読んでねー

 私は学園長室に向かって全力で走った。

 英傑学園で一番強いのは、間違いなく学園長だ。

 それにクロエのおじいちゃんらしいし、魔神に乗っ取られたクロエを何とかしてくれるかもしれない。

 ……でも、この間にリヴェルが死んじゃっていたらどうしよう。

 怖い。

 もうリヴェルと離れたくない。

 もうリヴェルがいない日々を考えられない。


「嫌だよ、リヴェル……絶対負けないでね」


 走りながら呟いた。

 本校舎に入ると、中の生徒達はみんな慌てていて、逃げようとしていた。

 生徒達を避けながら私はついに辿り着いた学園長室の扉を勢いよく開けた。


「学園長っ!」


 部屋の中には誰もいる気配がない。

 じゃあ学園長はどこに……?


「ぐがーっ、むにゃむにゃ」


 いびきが聞こえた方を見ると、ソファーの上で学園長が横になっていた。


「えぇーっ⁉ こんな状況で寝てるのーっ⁉」


 そう叫ぶと、学園長の鼻提灯が割れた。


「む、何奴ッ!」

「あ、起きた。アンナです」

「なんだ、アンナ君か。どうしたかね?」

「って、こんな悠長なこと言ってる場合じゃないんです! クロエが魔神に身体を乗っ取られて、今戦っているんです! 学園長、助けてください!」

「なぬ!? それはワシも行かねばな。喝ッ!!!」


 学園長は力を入れると、上半身の服がビリビリと破れた。

 筋骨隆々とした身体が姿を見せる。


「ええ……」

「アンナ君、場所を教えてもらえるかね」

「はい! ついてきてください!」


 校舎から出ると、上空で戦うリヴェルとクロエが見えた。


「アレです!」

「ふむ……どうやらもうリヴェルの実力はバレてしまっておるのぉ」

「スパイもクロエを乗っ取っている魔神で、既に実力はバレていたみたいです」

「ほう……これはワシの責任じゃな。ならば、ちゃんと責任は取らねばならぬ。アンナ君、ワシから少し離れておくれ」

「え? あ、はい」


 離れると、学園長は足を深く曲げた。


「ふんっ!」


 バネのように、学園長は一気に地面を蹴り上げ、リヴェルとクロエに向かって飛んで行った。

 何これ……すごすぎでしょ……。


 ***


 魔神の相手に俺は少し手を焼いていた。

 俺は今、乗っ取っている魔神だけを攻撃したい訳だが、普通の攻撃をしては単にクロエの身体を痛めつけるだけになってしまう。


「ふはは! どうした! 貴様の実力はその程度か」

「くっ……」


 何かいい方法はないか……。


「ほら、止めなければ大火事になるぞ──《黒炎業火》」


 魔神は黒い火の塊を放った。

 熱の温度が普通の火魔法よりも圧倒的に高い。

 どう考えても火事どころでは済まないな。

 俺は《絶対零度》を使い、黒炎を全て凍らせた後に粉々にする。


「……な、なんだと!?」

「驚いているようだな。そして痛感したんじゃないか? 俺とお前の実力差を」

「ありえん! 我は暗黒魔境の創造者であり、破壊の限りを尽くした魔神だぞ!」

「正直お前、暗黒魔境でちょっと強いぐらいのレベルだよ。それじゃあ俺には勝てないな」

「くっ……! まさかこれ程の強さとは……! だが、それでもお前はこの身体に手を出せまい!」

「どうだろうな」


 そう、俺は奴を倒すことは出来るが、クロエを救うにはそれでは不十分。

 ……気絶させてみるか?

 単純な考えだが、やってみる価値はありそうだな。

 そんなことを考えていると、


「クロエッ! これ以上悪さはさせんぞッ!」


 学園長が物凄いスピードで飛んできた。

 そして、そのままクロエに殴りかかる。


「老いぼれが……!」


 怒涛の学園長の連打に魔神は顔を歪める。

 キンッ、キンッ、と甲高い金属音が連続して鳴る。

 普通の拳と剣がぶつかり合って鳴る音じゃないな。

 どうやら学園長は拳を鋼鉄化しているようだった。

 となると、学園長の才能は【魔拳闘士】とかかな?


「クロエはそんな汚い言葉は遣わんッ! ワシが退治してやる!」

「雑魚が調子に乗るなよ!」


 学園長の乱入してきた今、魔神を気絶させる絶好のタイミングだ。

 俺はすぐさま魔神の背後に回る。


「かかったな、リヴェル! 奥の手というのは隠しておくものよ! ──《封鎖空間》」


 白い光に包まれると、気付けば俺は真っ白な空間に入れられていた。

 相手を異空間に閉じ込める魔法か。


「さすがは魔神といったところか。あの距離では回避不可能な魔法だな」


 魔法の練度、魔力の量、どれもクロエを遥かに凌駕している。

 他人の身体を乗っ取った状態でこの実力は驚きだ。

 本当の姿の魔神は──正直、俺でも敵わないかもしれない。


「だからこのタイミングで復活してくれたのは丁度良かったかもしれないな。魔神はあの状態の実力でも英傑学園を相手に出来ると思っていたみたいだが……いや、待て。果たして本当にそうなのか?」


 言葉にして、俺はハッと気付いた。


「違う……。あいつは、クロエの精神状態が不安定なときに身体を乗っ取ることが容易だったから出て来ただけなんじゃないか? そして、スパイと自ら言っていたように、アイツは帝国と繋がりがある。……此処から逃げられたらまずい」


 憶測でしかないが、英傑学園から逃げて、帝国に行き、真の実力を発揮出来るようになったら……?

 でも、それならクロエの身体に宿る必要性が無かったんじゃないか?

 ……いや、クロエじゃなきゃダメだったんだ。

 アイツはクロエの別の人格を乗っ取った、と言っていた。

 その人格が無ければ、魔神はクロエの中に宿ることは出来なかった。


「そうか、アイツを育てるのにクロエは絶好の条件下にあった訳か。聞いた話によると、クロエの才能を【剣聖】まで引き上げたのも魔神の仕業らしいしな。それを餌にクロエの両親を帝国側に引き込むことも出来たって訳だ。まさに一石二鳥の作戦だな」


 だとすれば、尚更アイツの目的は英傑学園で暴れることでは無いだろう。


「こんな空間で俺を閉じ込められると思うなよ」


 空間内部の状態は《アイテムボックス》と似ている。

 しかし、時間の流れは存在しているし、俺のような生きている者を入れることも可能。

 そして俺がいたはずの座標と何も変わりはない。

 ならば、この空間を切り裂けば元の場所に戻れるはずだ。

 アイツも俺をこれで閉じ込められると思っていないだろう。

 それにアイツの行動の理由を考えれば、全てに一貫性がある。


「派手に暴れていたのもクロエの身体に馴染むことを悟られないためのフェイクだな」


 そう、魔神の行動は『時間稼ぎ』が目的ならば全て辻褄が合うのだ。

 そこまで分かれば、後はここから脱出して、奴の逃げ道を塞ぐ。

 倒すよりもそれが先決だ。


「さて、とっとと此処から出せてもらおうか」


 この空間を切り裂くにはある程度大きな力が必要となる。

 単純で楽だ。

 何も考えずに剣を振ればいいだけだから。


「──《纏魔羽衣》」

よかったら新作読んでねー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ