25話 実力発表
この一週間、中等部組は授業を受けなくても良い時間によく闘技場で模擬戦をしていた。
それをキュウに預かり所から抜け出してもらい、《視界共有》で模擬戦の様子を観察させてもらっていたのだ。
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○視界共有
魔力を相手に飛ばし、自分の視界を共有する。距離によって魔力の必要量は変動する。
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キュウは褒美にアーモンドを要求してきた。
交渉の結果、実力発表までの間は1日5アーモンドから10アーモンドに変更。
そのおかげでキュウは愚痴をこぼすことなく、模擬戦の様子を見せてくれた。
同じ1年生の模擬戦をいくつも見学したことで、中等部組の平均的な実力をある程度把握出来た。
それぐらいの実力をこの実力発表で見せようと思う。
ただ、中等部組の平均的な実力が高等部組の平均的な実力とは限らないことがネックだ。
個々の才能は高等部組よりも中等部組の方が優れているのは明白だ。
なにせ国内で優秀な才能を持つ者をわざわざ英傑学園側がスカウトしているのだから。
なので、中等部組の平均的な実力を見せれば、1年生全体で見れば平均よりも上の実力者になる。
まぁ俺の目的は実力を隠すことであって、平均的な英傑学園生を演じることではないため、あまり問題にはならないと思うが。
「この実力発表で、俺に一太刀でも浴びせれたら合格。浴びせれなかったら──最悪の事態は覚悟しておいた方がいいな」
教師は挑発するように言った。
「全力で挑むまでです」
「うむ。良い心意気だ。それじゃあ始める前に何か質問はあるか?」
「魔法による身体強化はしても大丈夫ですか?」
「ああ。魔法の使用ももちろん可能だ。お前の全力を見せてくれ」
「分かりました」
「他に質問はないか?」
「はい」
「よし、それじゃあ始めよう。どこからでもかかってこい」
教師は左手を自分に向かって折り曲げるように動かして、俺を挑発する。
ふむ、この行動にも何か意図があるのだろう。
例えば、精神力が未熟な者はまんまと挑発に乗り、実力を最大限発揮する妨げとなる。
精神状態は戦いに大きく影響する。
それらも含めて、英傑学園側は実力を把握したい、そういうことだろう。
だったら、少しぐらい挑発に乗るぐらいが丁度いいかもな。
「はあぁっ!」
声を大にして、自らに魔法をかける。
だが、それは身体強化魔法に見せかけた別の魔法。
強化するのではなく、弱体化させる魔法だ。
これによって身体能力のレベルを英傑学園の平均に合わせることが出来る。
そして、思いっきり踏み込み、大きく剣を振るう。
「そんなに大振りで大丈夫か? 緊張しすぎてるんじゃないか?」
これには何も答えない。
返事は最低限で済ませる。
変に会話をすればボロが出る可能性が考えられるからだ。
別に俺は役者じゃない。
演技ではなく、行動や攻撃手段で心情を誤解させる。
「どうしたどうした! その程度の実力じゃ英傑学園でやっていけねーぞ?」
「くっ……」
流石、英傑学園の教師なだけあってかなりの実力者だ。
何一つ演技する余地の無い、今の俺の全力だ。
剣戟の中で、この教師や模擬戦を眺めている二人の教師は俺の実力を既にある程度決定付けているに違いない。
未知数の【努力】の才能を他の才能と比較し、自分達の想像の域を出ないものと思っているはずだ。
それを狂わせれば、今後俺が何かミスを犯したときに役に立つ保険になってくれるだろう。
「お前の実力はこんなもんか?」
そう言うのは、これ以上のものを教師は期待しているのだ。
言うなれば、光るナニカを見せつければいい。
見せつけてやろう。
俺が初めて生み出したユニークスキルを。
「──《剛ノ剣・改》」
「なっ!?」
《剛ノ剣・改》を放つと、教師の握る剣の刃先は折れ、勢いよく壁に突き刺さった。
「ハァ、ハァ……」
「お前、今のスキル一体なんだ?」
「俺が編み出したユニークスキルです。【努力】の成果ってやつですよ」
「……くくくっ、はっはっは! 面白い才能だな、努力ってやつは! 今まで見てきた実力発表の中で一番面白かったぜ。まだまだ実力は足りてねーが、面白いもんは秘めてる。英傑学園に相応しい逸材だ」
教師は先ほどの雰囲気とは打って変わって、気の良い感じで話していた。
これがこの人の素の性格なのかもしれない。
「ハァ、ハァ……ありがとうございます……」
普通に息が切れている。
最近、自分を弱体化させることが無かったから少し加減を間違えた。
思っていた以上に弱くなっていたみたいだ。
それこそ初めてマンティコアと戦った頃ぐらいまで弱くなっていたように思える。
「ま、課題は沢山あるけどな。なに、これから頑張っていけばいいさ。なにせ【努力】の才能なんだからよ」
「頑張ります……!」
「おう。結果は後日渡す。そこに今後の課題も書かれているからちゃんと確認するように」
「分かりました」
「よし、これでお前の実力発表は終わりだ。お疲れさん」
「はい、ありがとうございました!」
頭を下げてから俺は会場を後にした。