24話 みんなで食事
日が暮れた頃に英傑学園の食堂にやってきた。
7人で一つのテーブルに座ると、ウェイトレスがやってきて、メニュー表を渡される。
想像していた食堂とは全く違っていて、まるで高級レストランのようだ。
各々が好きな料理を頼み、しばらくして料理が続々と運ばれてきた。
「最近リヴェルの手料理ばっかり食べてきたから、英傑学園の料理が見劣りしちゃうな〜」
シエラが運ばれてきた料理を一口食べて、そんなことを言った。
嬉しい限りの感想だが、あまりそういうことを言うのは控えてもらいたいと個人的に思う。
「昔からリヴェルの作るものって美味しかったんだけど、食べてない内にもっと美味しくなってたんだよね」
「もしかしてリヴェルさんはアンナさんに美味しい料理を食べさせるために上達したのかもしれません」
フィーアが鋭いことを言った。
完全に図星だった。
「え〜! そんなことないでしょ! ねっ、リヴェル?」
「あ、ああ……そうだな」
「……これは図星ですね」
「フィーア、私もそう思うわ。これは完全に図星よ!」
シエラとフィーアが詰めてくる。
「そんな訳ないだろ……ほら、冷めないうちに料理食べちまえよ」
「いえいえ、もう手遅れですよ。ウチの子、なんと結構恥ずかしがり屋なんですから」
シエラがアンナの肩をポンポン、と叩いた。
見ると、アンナは恥ずかしそうに頬を赤くして、モジモジとしている。
「まったく……」
「ははっ、仲が良いね。別にアンナのためでも料理の腕が上達したのは喜ばしいことだよ。そう思うだろ? アギト」
「なんで俺に振ンだよ」
「リヴェルに振るのは少し酷かと思って」
「そうかい。ま、俺は美味ぇ飯が食えれば何でもいいけどな」
アギトはそう言って、料理を頬張った。
「それで実際のところどうなの?」
シエラは興味津々のようだ。
「まぁもともとアンナのためにスイーツを作ったりしてたから、アンナのために料理が上手くなったってのは間違いではないな」
「おお〜、上手い返しだね」
「あ、あはは、私、別にて、照れてないからね」
「どう見ても照れてる。余裕がない」
クロエが言った。
もしかすると、クラスでアンナに抱きつかれてたりした反撃なのかもしれない。
そんな様子を見て、俺は平和だな、と唐突に思った。
スパイが侵入してきたり、国境を閉鎖したり、物騒な話題は絶えないが、俺たちの周りはこんなにも平和だ。
この平和がいつまでも続けばいい。
そう思うが、変わらないものなど存在はしない。
才能を与えられて、俺とアンナの環境は大きく変わったが、こうしてまた同じ場所で、そして新しく出来た仲間達と幸せな時を過ごしている。
だから、これは良い変化だったと断言出来る。
「リヴェル、何ボーッとしているの?」
アンナはもう恥ずかしくなくなったようで、不思議そうに俺の顔を覗き込んだ。
「ん、ああ。少し考え事をしてた」
「リヴェルさんこそ、冷めないうちに料理食べないとですね」
俺が指摘したことを今度はフィーアに指摘されてしまった。
「大丈夫だ。もう、少し冷めてる」
きっと、この先良い変化ばかりが起きるわけではないだろう。
良い変化があるのならば、悪い変化もあるはずだ。
──そのときが訪れるのならば、スパイだろうと、ヴィンセントだろうと、誰であろうと俺は容赦しない。
◇
2日目から授業が始まった。
基本的な座学がメインであり、アンナ達の話によると、今やっている内容は中等部で一度習ったことがあるのだそうだ。
入学試験では知識よりも実力が重視される傾向にあることが理由だろう。
中等部で学習済みの生徒達は、授業を受けなくても良いことになっている。
多くの生徒は授業を受けずに、自己鍛錬に励んでいる様子だ。
アンナとクロエは、復習すると言って真面目に授業を受けている。
ヴィンセントも最初は授業を受けていなかったが、アンナ達を見て、翌日から授業を受けるようになった。
闘技場でのことを思い返すと、ヴィンセントが俺に何か仕掛けてくる可能性は高いと考えていたが、そんな様子は一つも見せない。
むしろ1日目よりも愛想が良く、フレンドリーに接してきていた。
俺としては何もしないのならば放っておくだけだ。
◇
そして一週間が経ち、実力発表の日がやってきた。
英傑学園の東棟で実力発表は行われる。
実力発表はスケジュール通りに進められるため、事前に生徒個人へ開始時間が知らされる。
開始時刻よりも前にやってきて、会場の前に並ぶ。
遅刻は許されないため、生徒達は開始時間よりも早くやってくるわけだ。
自分の前に並んでいるのは1人。
1人あたりの時間は大体10分程度だ。
俺が並ぶと、丁度今やっていた人が終わり、浮かない表情で会場から出てきた。
そして、俺の前に並んでいた生徒も同じように浮かない表情で会場を後にした。
どうやら二人とも厳しいことを言われたようだ。
「次の生徒は会場に入って来てください」
呼ばれたので扉を開けて会場に入る。
中は教室の倍広い。
密室で、壁や床、天井の素材が魔鉱石を加工したものであることから、耐久性はかなり高いことが分かる。
ふぅ、と深呼吸をする。
俺の実力は学園長と副学園長以外の教師にもバレてはいけない。
スパイが教師に紛れ込んでいる可能性もゼロとは言い切れないからだ。
前方を見ると、3人が机の後ろに座っており、その中の一人が資料をペラペラとめくった。
「リヴェル君……ほぅ、才能は【努力】か。聞いたことも見たこともない才能だな」
濃い顎ひげと屈強な肉体が特徴的な中年教師が興味深そうに言った。
「そうですね、俺以外に【努力】の才能を持つ者は見たことがありませんね」
「だろうな。誰も知らない才能で、よくぞ才能通り努力してきたものだ」
「剣術の扱いが優れているらしいが、見せてもらっていいかな?」
中年教師は椅子から立ち上がった。
右手には剣が握られている。
「先生と模擬戦を行うのが実力発表ですか?」
「生徒によるが、今回のお前はその通りだ」
それなら好都合だ。
教師との模擬戦は想定内の試験内容で対策はバッチリとしてあるからな。