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22話 クルトの夢

 キュウを迎えに預かり所へ行くと、近くの木にクルトが寄りかかって本を読んでいた。


 クルトも俺に気付いて、本から目を離し、俺に視線を向けた。


「やぁリヴェル。今朝、預かり所へキュウを預けているのを思い出してね。ここで君を待っていたんだ」


「お前らしいな」


「リヴェルと雑談がしたくてね。先にキュウを引き取ってきなよ。僕はここで待っているから」


「分かった。助かるよ」


 預かり所に入ると、職員は俺の顔を見るや否や「ちょっと待っててくださいね」と言い、キュウを抱きかかえてきた。


「この子、良い躾がされてますね。こんなに賢い子は中々いませんよ」


 職員は珍しそうに、キュウについて語った。


『えっへんっ!』


 抱きかかえられているキュウは自慢げだ。


「そうでしたか。別にこれといった躾はしてないんですけどね」


「やはり竜種なだけあって賢いのでしょうね。言葉を理解しているかのようです」


「ええ、理解してますよ」


「……えっ!? ほんとですか!?」


 キュウは出会った時から《念話》で喋ることが出来たのであまり凄いことではないのかと思っていたが、職員の反応を見るに、普通はそんなこと出来なさそうだ。


「言えば大体分かってくれますよ」


「それは楽でいいですね……。道理で手間がかからない訳です」


「いやいやそんな。また明日も預けに来るのでそのときはよろしくお願いします」


「はい、お待ちしております」


 キュウを引き取ると、キュウはパタパタと翼を動かして、ちょこんっと俺の頭の上に乗った。


 預かり所を出て、クルトに話しかける。


「待たせたな。クルトは寮の鍵は貰ったか?」


「これからだね」


「じゃあ歩きながら話すか」


「ああ、そうしよう」


 そして俺達は寮へ向かって歩き出した。


 英傑学園内は広いので、移動時間は会話するのにもってこいだな。


「交流戦、見てくれたかな?」


「あの場で見ない方が難しいな」


「ふふ、違いないね。正直に言うと今の僕の興味はリヴェルと戦うことだけなんだ」


「ぶ、物騒すぎるだろ!」


「なに、半分は冗談さ。なにせリヴェルをサポートすることと真逆にあるからね」


「……それなら良いんだけどな。それと、そういうことはあまり話題にも出さないでくれよ」


「大丈夫。周りに誰もいないことは確認済みだから」


「そういうところは抜け目がないな」


「まあね。じゃあ最後に一つ聞いても良いかな?」


「ん?」


「──僕とリヴェル、どっちが強いかな?」


 少し困った。


 けど、俺はクルトの実力を見た率直な感想を述べよう。


 それがクルトの興味を更に引くものになったとしても。


「俺かな」


「よかった。正直に言ってくれて。もしさっきの質問の答えが僕だったら、今ここで襲いかかっていたかもしれないよ」


「襲いかかるな」


 ……さっきから物騒すぎるんだが、いつからこんなに戦闘狂になってしまったのだろうか。


 いや、戦闘狂とは少し違うな。


 なんとなくクルトの考えは俺にも当てはまる。


 クルトはきっと、自分の実力を試したいだけなのだろう……たぶん。


「リヴェル。僕はね、弟子は師匠を超えるべきものだと思っているんだ」


「お前俺のことそこまで師匠と思ってないだろ……」


「いやいや、思っているとも」


 昔、師匠というよりライバルだと思ってる、みたいなこと言われた気がするんだけどなぁ……。


「そうか……? まぁ全ての師弟関係にその法則が当てはまったらとんでもないことになりそうだな」


「はははっ、間違いないね。でも、僕は楽しくて魔法を学んでいる内に気付いてしまった。魔法っていうものは科学と似ていて、生活を便利に、そして豊かにするものだ。だが、攻撃魔法の存在意義は一体なんだろうか? 木に風魔法を唱えれば、伐採が捗るだろう。荒れた大地に土魔法を唱えれば、整地できるだろう。だけど、それらは副産物にすぎないのさ。でなければ、世の中に多くの攻撃魔法で溢れていることの説明が付かないからね。だから、僕が思うに、本当の意味で攻撃魔法の存在意義というものは、他者よりも優れていることの証明なんだ」


「……難しく考えすぎだろ」


 だが、クルトの言うことはなんとなく理解できる。


 そして、クルトのあの規格外の強さも、この考えを聞けば納得だ。


 クルトは──。


「僕の魔法の探究の終着点、それは世界で最も優れた──いや、敢えてこう言うべきだろう。世界最強の魔法使い。それが僕の目指すもので、そのためにはリヴェル、君に勝たなければならない」


「なるほど。言いたいことは分かった。相手なら平和になったとき、いくらでもしてやるさ」


「はは、嬉しいね。そのときを楽しみにしているよ」


 話の区切りがいいところで丁度男子寮に到着した。


 男子寮、女子寮、共に高級な宿屋のようだった。


 英傑学園に通う生徒は貴族も多い。


 施設もそれなりのものを用意しているのだろう。


 そんなことを思いながら、俺は1階で寮の職員から鍵をもらう。


 302。3階か。


 おっと、そういえばクルトに伝えることがあったな。


「あ、そうだ。今日の夕食をみんなで食べたいってアンナとクロエと話していたんだが、一緒にどうだ?」


「もちろん、ご一緒させてもらうよ。じゃあ僕は1階だから、また後で」


「じゃあな」


 手を左右に振り、クルトと別れた。


 階段を上り、3階に着いた。


 白を基調としたシンプルな部屋だが、設備は十分で、広さも中々のものだ。


 生活に便利な最新の魔導具も揃えられていた。


「さて、後はアギトを探さないとな」


 部屋の中を確認した俺は、早々に部屋を出た。


 しかし、寮内であまり部屋の外へ出歩いている者は少ない。


 特に用事もなく廊下に出たりする物好きは中々いないか。


 それなら──《魔力感知》を使おう。


 《魔力感知》は《探知魔法》の上位互換だ。


 《探知魔法》は周囲の状況を知るための魔法で、詳細は不明。


 例えば、使用した場所が森の中ならば、魔物の位置は分かるが、それがどんな魔物かは分からない。


 だが《魔力感知》ならば、魔力の大きさや性質を分析し、その対象が何か分かる。


 それだけでなく《魔力感知》ならば、周囲に魔力を放出する必要が無く、使用していることがバレにくいため、実力を隠すにはもってこいだ。


 ふむふむ……ん?


 ……なるほど、どうやらアギトは寮の中にいないみたいだ。


 この場所は闘技場か。


 アギトと対面しているのは、ヴィンセントだ。


 なぜヴィンセントが? ……嫌な予感がするぞ。


 あいつ、入学早々に問題を起こしているんじゃないだろうか。


 とりあえず、闘技場に行ってみよう。

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[一言] 魔力感知......プライバシーが(汗
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