16話 久々に料理を振る舞う
王立図書館内は広く大きな本棚がいくつも並んでいる。
秘密書庫とは雰囲気が違っていて、利用しやすいように思える。
『キュウ、図書館の中では騒いじゃ駄目だぞ』
『わかった!』
キュウは基本的に大人しいが、念のため静かにしているよう伝えておく。
さて、ここで運よく二人が見つかればいいのだが。
「あっ、えっ!? リ、リヴェルさんじゃないですか!?」
「おお、ウィルじゃないか。久しぶりだな」
「はい! ほんと久しぶりです! フィーアさんから今朝リヴェルさんを見たっていうことを聞いていたので会いたいなーって思っていたところなんですよ!」
「……図書館内では静かにな」
「あ、す、すみません」
「これから気を付ければいいさ。ところでクルトやフィーアはどこにいるんだ? よく図書館内にいるとアフギトから聞いたんだけど」
「あー、ちょっとタイミングが悪かったですね。ちょうど先ほどクルトさんとフィーアさんはリヴェルさんを探しに行ったんですよ」
「行き違いになったわけか」
「そうですね。でも行先は分かりますよ。クルトさんがもしかしたらリヴェルさんがここに現れるかもしれない、と言っていたので」
「……アイツらしいな」
「ははは、それで本当に現れちゃうんですからまるで預言者ですよね」
「妙に鋭いところがある奴だよ、昔から。それで行先は?」
「ラルさんの商会です」
「なんでラルのところなんだ?」
「リヴェルが王都にいるならラルは既に居場所を知っているんじゃないか? って言ってました」
「あいつマジで鋭すぎだろ」
「えっ、じゃあもうラルさんと会ってるんですか?」
「ああ、今泊ってる宿屋はラルに手配されたものだし、王都には一緒にやってきた」
「うわー、クルトさん凄いですねぇ……」
「……だな。とりあえずラルに会いに行けばクルトとフィーアも一緒にいるかもな」
「ですね」
「よし、じゃあ早速……あ、ウィルは今読書中だったか?」
「いえ、魔導書を読むのに飽きてきたのでそろそろ図書館から出たかったところです」
「……そうか、じゃあ行こう」
「はい!」
◇
「リヴェル、やっと来たわね」
「久しぶりだな、リヴェル」
「今朝振りですね、リヴェルさん!」
「なんだ来るのが分かってたのか?」
「ええ、アギトがここに寄ってくれたからねー。図書館に向かったっていうのを聞いて、待っていればここにやってくるのは明白よね」
「まぁそうなったのには僕のおかげでもあるわけだけどね」
「相変わらず腹立つわね」
「ああ、これが僕だからね」
「……お前ら全然変わらないな。でも、クルトがラルのところに行くって判断したのは意外だったな」
ラルとクルトの言い合いを見るのも久しぶりだ。
なんだか心地がいい。
「それは僕は彼女が嫌いなだけで無能だとは思っていないからさ」
「ムカつく言い方しか出来ない病気にでもかかっているみたいね。かわいそうに」
「もう二人の関係には慣れっこですけどね。これでお互い、能力は評価してるところが面白いですよ」
「ははは、そうだな」
「そういえばリヴェルさん、英傑学園には入学できそうなんですか?」
ウィルが言った。
「もちろん。それについてみんなに話したいことがあるんだけど、時間は大丈夫か? 英傑学園の3人と一緒に夕食を食べることになっているんだ」
「なるほど、今日は英傑学園に行ってたって訳だね」
「ご察しの通りだよ、クルト」
「……っていうことはリヴェルさんの料理が食べられるってことですよね?」
フィーアがウサミミを立てながら言った。
「最近誰かに作る機会なんてなかったからなぁ」
「えー! 作ってくださいよ!」
「僕もリヴェルの料理が食べたいな」
「リヴェルさん、自分も食べたいッス!」
「食材は揃えてあげるから作りなさいよリヴェル」
「ははは、じゃあ作らせてもらうか」
「やったー! 楽しみです!」
フィーアは嬉しそうに両手を挙げた。
◇
宿屋の厨房に立ち、食材を手に取る。
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〇『レッドボアの肉』
品質:高
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俺は食材の品質を鑑定することが出来る。
これはスキル《料理人》の効果で食材以外の物は適応外だ。
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○スキル《料理人》
このスキルは料理に携わる才能を持つ者だけが得ることが出来る。
スキル取得後、味覚・嗅覚・料理センスが上がる。
○取得条件
100人に心から美味しいと感じる料理を作り、食べさせる。
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この2年の旅の中でほかの人に料理を振る舞う機会はいくらかあった。
そしていつの間にか、この取得条件を達成していた。
取得前後で食材の品質が分かるようになった以外の変化はあまり感じられない。
料理に関するセンスが上がるのならば、料理の腕が上達する手助けをしてくれているのかもしれない。
詳細は不明だが。
他の食材の品質も高く、豊富な種類が揃えられている。
ボア肉のハンバーグ、ロック鳥のスープ、ホワイトベリーのアイス……うん、他にも色々作ってみよう。
◇
出来上がった料理を長机に並べ終わる頃には、もうみんな集まっていた。
英傑学園の3人は既に挨拶を終え、会話に馴染んでいる。
みんなフレンドリーに接してくれて何よりだ。
食事が始まると、俺は英傑学園での出来事を話した。
スパイの存在、俺の実力がバレてはいけないこと、それをみんなに協力してもらいたいこと。
「面白そうじゃないか。ぜひ協力させてもらうよ」
「わ、私がミスしないか心配ですけど、リヴェルさんのためなら精一杯頑張ります!」
「ったく、めんどくせぇけど俺だけ手伝わねェのも気が引けるじゃねぇか」
「自分も入学できれば手伝わせて頂きます!」
クルト、フィーア、アギト、ウィルの4人から協力的な返事をもらった。
ウィルが既に英傑学園を不合格になっていることは伝えられなかった。
許してくれ、ウィル。
お前の気持ちはとても嬉しい。
それにしても久しぶりに賑やかな食事だった。
一度席を立ち、夜風を浴びに外へ出る。
宿屋の前の広場にあるベンチに座って、周りを見渡し、星を見た。
街灯や店の明かりに照らされた王都の街の夜は明るい。
今までいた場所は明かりがほとんどない暗闇だった。
魔法で明かりを確保すると魔物達の標的になるため、暗闇に適応しなければならなかった。
今こうして外に出ているのも周りを警戒する、その頃の癖だ。
「……すごく楽しいね」
視界の隅で長いブロンドの髪がふわりと揺れた。
隣にアンナが座ったことを俺は横目で確認した。
「ああ、みんなでご飯を食べるってのはやっぱり良いものだ」
「リヴェルが来てくれただけでこんなに楽しくなるなんてね」
「この食事会を提案したのはアンナだろ? 俺は別に何もしてないよ」
「リヴェルの友達を呼んでくれたじゃん。あとは料理も作ってくれたし、それにリヴェルがいなかったら私も食事会の提案なんてしなかったよ」
「むぅ、それはそうだが……」
「あはは、そういうところ昔と何も変わってないねっ。私の知ってるリヴェルだったから、なんかこう……安心した」
「アンナは立派になったな」
「リヴェル離れしたからね」
「ハッハッハ、なんだそれ」
「でも、リヴェルがまた近くにいてくれるようになって私は凄く嬉しいよ」
「約束だったからな」
「さすがだよね。リヴェルは私とした約束を絶対に破らないんだもん」
「何回か破ってそうだけどな」
「ううん、そんなことない。……ありがとね」
「……なんだよ照れ臭いな」
「はは、そうだね。じゃあそろそろ戻ろっか」
「だな」
俺とアンナは立ち上がり、宿屋に戻った。