13話 ドジ
コミカライズ1巻が本日発売いたしました!
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(第三章執筆済み)
「忙しいので私はこれで失礼させていただきます」
「「えっ!? きゃっ!」」
イレーナがそう言うと、扉の外で悲鳴がした。
……それは聞き覚えのある声だった。
「アンナさんにシエラさん……もしかしてこの話を聞いていたのですか?」
扉の向こうには、地面に倒れた女の子二人の姿があった。
一人は俺の幼馴染のアンナ。
もう一人は中庭でアンナと親しげにしていた子のようだ。
きっとアンナの友達だろう。
先ほどアンナを中庭で見かけていたこともあり、学園にいることに驚きはしないが……一体何をやっているんだ?
アンナも俺に気づいて、学園内を探し回っていたところ学園長室にたどり着いた、とか?
まぁなんにせよ2年ぶりの再会はあまりロマンティックな雰囲気ではなかった。
故郷を出てから再会するときはいつも戦場だったので、こうした何も戦いが関係ない場で会うことに少し懐かしさを覚えた。
「す、すみません……」
アハハ……、と悪戯に失敗した子供のような笑みを浮かべるアンナ。
その隣の子も同じような表情だ。
「その様子だとしっかり聞いていたようですね」
そう言って、イレーナは片手で頭を抱えた。
「ええ、それはもう……」
「バッチリと……」
二人はばつが悪そうに言った。
「ほっほっほ、まぁよいではないか。リヴェルとアンナはもともと仲が良いらしいからのぉ。それにアンナとシエラの実力、成績共に優秀でリヴェルをうまくサポートできるじゃろう」
「学長、そういった緩みが情報の漏洩に繋がると思うのですが」
イレーナは学長に対し、厳しい態度を取る。
「うむ。だがおぬしも気付いておったんじゃろう? 扉の前に二人がいることにのぉ」
おぬしも、ということは扉の前に二人がいることを学長は既に知っていたようだ。
「……」
「知っていて、聞かせていたんじゃな。二人もよい協力者になってくれると思ったんじゃろう?」
「……流石は学長ですね。その通りです。……ですが二人の行動は良くないもの。それとこれとは話が別です。注意すべき部分はちゃんと注意しなければなりません」
「ごもっともじゃの」
アンナとシエラは口をぽかーん、と開けて話を聞いていた。
「ということです。分かりましたか?」
「「は、はいっ! すみませんでした!!」
二人は姿勢を正して、頭を下げた。
「まったく……私はこれで失礼しますね」
イレーナはそう言って、学園長室から去っていった。
「……あの、ほんとにごめんなさい。悪気は……少ししか無かったんです」
アンナが申し訳なさそうに学園長に再び頭を下げた。
悪気は少しあったようだ。
昔からアンナはこういう場面で正直すぎるな。
「よいよい。若いうちはそういう経験も重要じゃろう。それで二人はどこからどこまで聞いたんじゃ?」
「えっと、イレーナ先生が部屋に入ってきてからの会話は全部……です……」
「ほほぉ。見計らったようなタイミングじゃの。まぁワシにはなんとなく理由も分かる。これ以上の詮索はせんわい」
「あはは……助かります」
アンナが少し恥ずかしそうに言った。
「さて、俺もそろそろ帰るとしよう。リヴェル、頼めるか?」
ルイスはそう言って椅子から立ち上がった。
「あ、はい。分かりました」
「ルイスを送ってきたらもう一度ここに戻ってきてくれるかの?」
「いいですよ。じゃあちょっとこの部屋少し借りてもいいですか?」
「ん? 別に構わんが何をする気じゃ?」
「転移魔法を使わせてもらいます」
宿屋の一室に記した魔法陣は転移魔法のベースとなるものだ。
ルイスの部屋に記したもの、これから記すもの、どちらもベースへと繋げる魔法陣だ。
ここからルイスの部屋に一気に転移することは出来ないが、一度宿屋に戻り、そこからルイスの部屋に戻ることは可能だ。
今までのように魔力で魔法陣を描いていく。
「……たいしたもんじゃのぉ」
「「「す、すごい……」」」
見慣れた魔法陣をスラスラと描き、完成。
「それじゃ少し待っててください」
「失礼する」
俺はルイスと共に魔法陣の上に立ち、転移魔法を唱えた。
一度宿屋を経由して、フレイパーラのルイスの部屋に転移した。
「ありがとうなリヴェル」
「いえ、感謝を言うのはこちらのほうですよ。ルイスさんには無理言って来てもらいましたから」
「そんなことないさ。お前のためにやれることがあるのなら、それは俺のためにもなる」
「ははは、ルイスさんらしいですね」
「ふっ、じゃあまたな。学園生活楽しんでこい」
「はい! ではまた!」
ルイスと別れを告げた後、俺は再び転移魔法を使い、学園長室に戻ってきた。