12話 スパイの存在
「本来ならば、こういったお願いなどせずに生徒達の良い刺激になってもらいたいところなのじゃが、現状は少し複雑でのぅ。おぬしが解決した二年前の騒動以来、フェルリデット帝国の動きが怪しくてな。テオリヤ王国は帝国の侵略を危惧しておるのじゃ」
フェルリデット帝国はこの二年間で一度も訪れた事は無かったが、噂は耳にしていた。
近頃、急速に領土を広げているそうだ。
なるほど、入国を制限していたのもフェルリデット帝国を恐れてのことか。
少しずつ自分の中で考えが整理されていく。
「リヴェルの報告では、魔物の大群は悪魔が指揮したもので、その悪魔は人間と契約を交わしていたらしい、とされていたな」
ルイスが言った。
もう一度俺にそのことを確認しているようだった。
「はい」
「その悪魔と契約を交わした人間は帝国の者である可能性が非常に高い」
「既にある程度目星がついているんですか?」
「ああ、今はまだ教える事は出来ないがな」
「これらの事情を踏まえたうえでリヴェルには実力を隠すことをお願いしているのじゃ。リヴェルの実力は間違いなくフェルリデット帝国の脅威となる。帝国側が知れば必ず、何らかの対策をとるじゃろう。リヴェルや周りの者にどんな危害が及ぶかわからない。だからリヴェルには一般的な英傑学園の生徒として振る舞って貰えんかのぅ」
「……なるほど、分かりました。そういった事情なら実力を隠さない理由がありません」
状況はあまりよろしくないようだった。
俺としてはこの提案を断る理由はない。
俺の身に何が起ころうと別に構わないが、周りの者にも危害が及ぶというなら、それを見過ごすわけにはいかない。
「ありがとう。じゃが隠すと言っても一筋縄ではいかん。信頼できる協力者が必要じゃ。そこでワシは英傑学園の授業運営の指揮をしておる副学園長のイレーナをここに連れてきた。イレーナはリヴェルの助けとなってくれるじゃろう」
「教師陣の中では私が最も適任でしょうね。ある程度リヴェル君のフォローが出来ると思います」
「ありがとうございます、心強いです」
「ただ、リヴェル君の方でもかなり注意深く動いてください。今年の入学者の中には帝国のスパイが紛れ込んでいる可能性がありますから」
「スパイ?」
「はい。その根拠はお伝えすることが出来ませんが、スパイが紛れ込んでいる可能性が高いのは事実です。英傑学園では、リヴェル君もご存知のように例年よりも早く入学試験を実施することで対策しましたが、それでも苦し紛れの対応に過ぎません。全ての志願者と面接も行いましたが、スパイらしき人物を発見する事は出来ませんでした。ですからもし、スパイが英傑学園に入学しているとすればかなりの手練れです。注意してください」
「……分かりました。じゃあスパイは入学後に見つけるってことですか?」
「そうですね」
「そこまで考えられるとはやるのぅ」
「生徒に紛れ込んだスパイを見つけるなら、生徒に協力を頼むのが一番ですよね」
「ほぉ〜、さすがじゃの。リヴェルよ、それこそワシがおぬしに頼もうとしていたもう一つのことじゃの。もちろん、実力を隠すことが最優先じゃがな」
「はい、気をつけます」
「……おじいちゃん、これ私が聞いてても良かったの?」
「勿論じゃ。クロエはリヴェルの実力を既に知っておるからのぉ。クロエもリヴェルを助けてやっとくれ」
「分かった」
「うむ。生徒にもリヴェルの協力者がいると心強いじゃろう」
確かに信頼出来る協力者はある程度いた方がいい。
そして俺には信頼出来る協力者が他にもいる。
「他にも俺の実力を知っていて信頼出来る人が何人か入学試験を受けているんですけど、その人達にも協力を頼んで良いですか?」
「名前を言ってもらえますか? 入学決定者の名前は全て覚えていますので」
イレーナの様子から察するに入学者は既に大体決定しているようだ。
「クルト、フィーア、アギト、ウィルの4人です。あと英傑学園の生徒でアンナっていう子は俺の幼馴染で彼女も実力を知っています」
アンナの名前を告げたとき、クロエは少し意外そうな表情をしていた。
もしかしてクロエはアンナと友達なのだろうか?
「クルトさん、フィーアさん、アギトさんは入学決定者の中に含まれてますね。しかし残念ながらウィルさんは不合格でしょう。協力を頼むのは3人とアンナさんまでにしておいてください。これ以上、協力者が増えるのは危険ですから」
「分かりました。これからよろしくお願いします」
てか、ウィル不合格だったんだな……。
いいヤツなのに……悲しい。
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